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「ザザ。昨日の今日で、その子は誰だ?おとこ……?いや、女の子か?」
「ルーフ。彼は男だ。名前はティム。私の客人だ」
「ティムです」
ティムは、頭を下げて挨拶をした。
「なんだ。男か」
ツンとした表情。キリリとした目。刈り上げられた側頭部。薄い唇。鼻筋の通った顔。オールバックでポニーテールに纏めた薄紅色の髪は、肩の高さでフワリと踊る。
前から見ても、横から見ても、誰がどう見ても、美人。女帝。
エミリオ・ルーフは、ティムが男だとわかると「フッ」と、鼻で小さく息を吐いた。
「グリッドベアの爪を買い取って欲しい」
ザザは、カウンターの上に爪を並べた。
「昨日の今日でか?」
「何が?」
「いや。物は?」
「これだ。鉤爪だ。10本全部揃っている」
「なるほど」
ルーフは、カウンターの上に出された爪の1つを手に取った。
「確かに。グリッドベアの爪だ」
「質も、大きさも、申し分ないはずだ。高値で買い取ってくれ」
「うーーん」と、唸ったルーフは、爪の状態を1つ1つ丁寧に確認して行く。
「大きなものは5万ベイル。小さめなのは2万ベイルでどうだ?」
「いいだろう」
グリッドベアの爪は、全部で32万ベイルになった。ザザは、ルーフからベイル金貨32枚を受け取った。
「それと、1つ頼みがあるんだが」
「頼み?」
「ティムの事だ」
「え?ぼく?」
不意に名前を呼ばれてティムは驚いた。
「あぁ。私は今から森に潜る。一晩だけでいい。ティムを頼めないか?」
ザザは、視線を横に落としてティムを見る。そして、ティムの背中をそっと押した。
「森で出会ったんだ。記憶を失くしている。ティムを森に連れて行くのは危険だ。
ルーフ。私はお前を信じている。こんな事を頼めるのはお前しかいない」
「大袈裟な奴だ」
「頼む」
「まぁ…それくらい、なんて事ない」
「恩にきる。明日の昼には迎えに来るから」「依頼か?」
「ああ。ちょっとしたな。簡単な依頼だ」
「別にお前の事を心配しているわけじゃないが……ウチの依頼では無さそうだな」
「個人的な依頼だ。急患らしい」
「なるほどな。そういう事か」
「これで良いものでも食べさせてくれ。ただし、エッダの店はダメだ」
ザザは、ベイル金貨2枚を手に取りルーフに手渡した。
「一泊二食付きで頼む」
「2万ベイルとは……羽ぶりがいいな。わかった。まぁ…任せとけ」
ルーフは、ニヤリとほくそ笑んだ。察したのだ。昨日はなぜ?ザザの機嫌が悪かったのか?「エッダの店には行くな」か……なるほどな。あの女狐にちょっかいを出されたか?もしくは出されそうになったか?どちみち。だいたいだ。長い付き合いだし、ザザの好みはわかっている。可愛い年下。ドンピシャじゃないか(笑)
「お前にしか頼めない」とザザが言ったのは、私が男に興味が無いからか?一見、美少女とも思えるその中性的な顔立ちは、男嫌いな私でも『ドキッ』としてしまうほど。
もう喰ったのか?ルーフの関心は、2人の関係性に行き着いた。
だけども、ルーフだって馬鹿じゃない。エミリオ商会の代表という立場もある。相手がいる中でそんな"ド"ストレートに、「もう、やったか?喰ったのか?」なんて聞きづらい。ただ、ザザの事だ。十中八九犯しただろうな。ルーフは、そう予想した。
「では、ルーフ頼んだぞ。ティム。すぐに迎えに来る」
ザザはそう言い残し、エミリオ商店を出て行った。その場に残されたティム。そして、ルーフ。カウンターの奥から受付嬢のジュリアが顔を出す。
「どうすんだ?」
「どうしよう……」
「こんなレズビアンの2人に預けられて……大丈夫なのか?」
「危ないかも?ってこと?」
「どう考えても欲情してる目をしてないか?」
「うん。凄く視線を感じるよ」
「欲情スカウターを使え!」
「欲情スカウター?」
「いいから使ってみろ!」
ティムは、欲情スカウターを発動。
『ピッ!』
『ピッ!』
説明は要らないかもしれないが、説明しよう。
神が与えてくれた能力 その2【欲情スカウター】
欲情スカウターとは、対象者の興奮具合がわかる便利な機能である。
ティムの視界には、2人の欲情具合が数値として表示された。
ルーフ・エミリオ……32
ジュリア・ホルスタイン……58
※注記) 欲情具合は0~100で表示され、0が全く持って興味無し。100で興奮度MAXだ。
「ルーフさんが32で、ジュリアさんが58だね」
「2人共、興味を示しているじゃないか。特に巨乳の受付嬢は58って……まぁまぁ興味深々だぞ!」
「これ……100になったらどうなるの?」
「理性がぶっ飛び、なりふり構わず襲って来る」
「本当に?!」
「レズビアンだの。同性愛者だの。そんな肩書きに騙されるなよ。男に興味が無くたって、美しいものは美しい。美少年は美少年だ。誰だってそうだ。気を付けろ!何回も言うようだが、襲われたら死ぬぞ!」
「……うん」
◆◆◆
「とりあえずそのボロボロの服を着替えた方がいいな」
そう言ったのはルーフである。
「ジュリア」
「はい」
「お前のお古が何かあるだろ?私の服じゃ大き過ぎる」
「何着かありますけど……どれも女性物ですよ?」
「こんなテロテロの服1枚より十分はマシだ。部屋に行って着替えさせてやれ」
「はい。マスタールーフ」
ジュリアは、そう返事をすると、ティムに「付いてきて」と、優しく言った。
ティムは頷きながら思った。やっぱりな。と。何がやっぱりか?
それは、2人の関係性。今の会話を聞く限り、2人の関係性は上司と部下。ルーフが上司で、ジュリアはその部下だ。ルーフに命令されて、「はい。マスター」と答えたジュリア。昼間はそんな下手に出ていて、夜になるとルーフの事を罵倒し、この雌豚が!!
とか何とか言っちゃってたりするのか?
おっとりした顔に似合わず、性行為中は豹変するのだろうか?危険だ。
ニコニコと笑うジュリアを見て、ティムはそんな事を思っていた。
ティムは、受付嬢ジュリアに付いて行く事にした。「こっちよ」「こっち」ジュリアは、手招きしながらエミリオ商店の廊下(バックヤード)を歩く。後ろ歩きである。「ふーーん」ティムの事をジロジロと見ている。視線が凄い。危ないなぁ……ティムは、そう思いながら何も言わずに付いて行った。
「ここが私の部屋。さぁ。入って」
ジュリアは扉を開け、ティムに部屋に入るように促した。ティムは言われるがままジュリアの部屋へと入った。いい香りがした。ジュリアの部屋は、女の子って感じの部屋だ。とは言っても、人気アイドルのポスターが貼ってあり、可愛いぬいぐるみが置いてあったり、部屋全体をピンク色に染めてはいない。清潔感があって、大きなタンスが置いてあって、ちゃんとした寝具があって、等身大を写す鏡があって、窓があって、カーテンがあって、テーブルがあって、その上にはオシャレなランプが1つ。夜になれば妖しい光を放つだろう。
ティムは終始無言である。下手なことは言わない方がいい。ニコニコして、優しい顔して、声とかも柔らかいけど……根はドS。
いつ、どんなタイミングで豹変するかわからない。
ティムは終始無言である。そんなティムに、ジュリアは質問をする。
「君ってさ。森にいたんでしょ?」
「……はぃ」
「なんで?」
「それは……えっと。覚えてないです」
「覚えてない?それっておかしくない?」
「………」
「ウンバサの森って言うの。ここら一帯ね。君が知ってるのか知らないけどさ、わたし。君って魔法使いか何か?」
「ま、魔法使い?!いるんですか?」
「じゃあ。おかしいなぁ。辻褄が合わないけど?」
「……何がですか?」
「危険区域ランクAなの。ウンバサの森は、ハンター協会が特別危険区域に指定している場所。特別危険区域がわからないって言うなら、まぁいいか。だけどさ。そんな所に、しかもそんな無防備な格好でよく生きてたなって。わたし、おかしいな事言ってる?普通だよ。普通はそう考える。素人の、右も左もわからない子が、フラフラ彷徨える所じゃない。だけど、君は現に生きていて、どうやって生き抜いたかも知らないって言うからさ。おかしいな話だって思うのは当然でしょ?」
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