50 / 131
第3章
No.50 親友の苦労
しおりを挟む
ティアが学園に入学する前日の夜。
とある酒場のカウンターの席で酒を飲む2人の男性。ティアの父親ギルバートとその親友バッカスである。
「うっ…うぅ。ティア~…」
「おいおい、情けねぇな。王国最強…いや、世界で唯1人の勇者ともあろう男が娘と離れて暮らすだけでこのザマなんてなぁ」
バッカスは、娘の名を泣きながら呼ぶ自身の親友の背を叩く。
「あの病弱だった嬢ちゃんが学園に通うんだぜ?喜ばしい事だろ?」
そうだ。昔のティアなら直ぐに体調を崩してしまい事あるごとに寝込んでいた。
それがどうだ。今では毎朝の訓練で体力がつき滅多に寝込む事がなくなった。
「でも、俺と離れ離れになるんだぞ!家族が引き裂かれるんだぞ!?こんな悲しい事が他にあるか!?」
別に離れ離れと言っても、ギルバートの家から徒歩20分程の場所だ。それに悲しがってるのは、娘が大好きなギルバートだけだ。
(嬢ちゃんはすっごく楽しみにしてたな…)
今朝の稽古で、クリスと楽しそうに興奮で頬を赤らめ喋っていたティアを思い出す。その姿は、未だ見ぬ学園への好奇心で満ちていた。
(うん、悲しんで無いな)
問題は、この男だけである。
「うぅ…!ティア~…」
「おいおい、流石に飲み過ぎだ」
ギルバートの周りには、空になった4本ほどの酒瓶。
「寂しい…」
「「「!!」」」
頬を赤らめ目を潤ませた美男子。その姿を見た酒場にいた者達は、皆息を飲む。
(まずいな)
酒場にいた露出の激しい服を着た女豹達が目をギラギラ光らせ舌舐めずりしてギルバートをロックオンしている。このままでは、ギルバートが喰われてしまうかもしれない。
「おい、もう帰るぞ」
「嫌だ!!もっと飲むんだ!!」
不貞腐れ喚くギルバート。バッカスは、溜息をついて最終兵器を出した。
『お父さん』
「!!」
酒場にティアの声が聞こえて来た。ギルバートが直ぐにその声の聞こえた方を向く。しかし、振り向いた先にいたのは彼の愛しい娘では無く、むさ苦しいムキムキの親友。思わず吐きそうになってしまった。
「おい、その露骨な顔やめろ。流石に傷付く」
そう言ってバッカスが右手を振る。その手には見覚えのある四角い物。そう、ギルバートも持っていた小型の録音機だ。そこから彼の愛しい娘の声が流れる。
『お父さん、あんまりお酒飲み過ぎないでね?お父さんが辛い思いするのは嫌だから。ちゃんと帰ってベッドで暖かくして寝てね』
これは、ティアが学園に入学する事を決めた時からバッカスと準備していた物だ。娘命のギルバートがこうなるのは予測していた。だから、2人はそんなギルバートの為に様々なパターンのティアの音声を録音していたのだ。
(こんなに早く役に立つなんてなぁ)
「………帰る」
あれ程、帰ろうとしなかったギルバートがあっさりと言う。
「おう、早く出ようぜ」
少しフラフラするギルバートに肩を貸し女豹達の間を通り抜け店を出る。
(これからも、こんな事が何回もあるんだろうなぁ)
未だ見ぬ、しかし確実に訪れるであろう未来にバッカスは、深い溜息を吐いたのだった。
とある酒場のカウンターの席で酒を飲む2人の男性。ティアの父親ギルバートとその親友バッカスである。
「うっ…うぅ。ティア~…」
「おいおい、情けねぇな。王国最強…いや、世界で唯1人の勇者ともあろう男が娘と離れて暮らすだけでこのザマなんてなぁ」
バッカスは、娘の名を泣きながら呼ぶ自身の親友の背を叩く。
「あの病弱だった嬢ちゃんが学園に通うんだぜ?喜ばしい事だろ?」
そうだ。昔のティアなら直ぐに体調を崩してしまい事あるごとに寝込んでいた。
それがどうだ。今では毎朝の訓練で体力がつき滅多に寝込む事がなくなった。
「でも、俺と離れ離れになるんだぞ!家族が引き裂かれるんだぞ!?こんな悲しい事が他にあるか!?」
別に離れ離れと言っても、ギルバートの家から徒歩20分程の場所だ。それに悲しがってるのは、娘が大好きなギルバートだけだ。
(嬢ちゃんはすっごく楽しみにしてたな…)
今朝の稽古で、クリスと楽しそうに興奮で頬を赤らめ喋っていたティアを思い出す。その姿は、未だ見ぬ学園への好奇心で満ちていた。
(うん、悲しんで無いな)
問題は、この男だけである。
「うぅ…!ティア~…」
「おいおい、流石に飲み過ぎだ」
ギルバートの周りには、空になった4本ほどの酒瓶。
「寂しい…」
「「「!!」」」
頬を赤らめ目を潤ませた美男子。その姿を見た酒場にいた者達は、皆息を飲む。
(まずいな)
酒場にいた露出の激しい服を着た女豹達が目をギラギラ光らせ舌舐めずりしてギルバートをロックオンしている。このままでは、ギルバートが喰われてしまうかもしれない。
「おい、もう帰るぞ」
「嫌だ!!もっと飲むんだ!!」
不貞腐れ喚くギルバート。バッカスは、溜息をついて最終兵器を出した。
『お父さん』
「!!」
酒場にティアの声が聞こえて来た。ギルバートが直ぐにその声の聞こえた方を向く。しかし、振り向いた先にいたのは彼の愛しい娘では無く、むさ苦しいムキムキの親友。思わず吐きそうになってしまった。
「おい、その露骨な顔やめろ。流石に傷付く」
そう言ってバッカスが右手を振る。その手には見覚えのある四角い物。そう、ギルバートも持っていた小型の録音機だ。そこから彼の愛しい娘の声が流れる。
『お父さん、あんまりお酒飲み過ぎないでね?お父さんが辛い思いするのは嫌だから。ちゃんと帰ってベッドで暖かくして寝てね』
これは、ティアが学園に入学する事を決めた時からバッカスと準備していた物だ。娘命のギルバートがこうなるのは予測していた。だから、2人はそんなギルバートの為に様々なパターンのティアの音声を録音していたのだ。
(こんなに早く役に立つなんてなぁ)
「………帰る」
あれ程、帰ろうとしなかったギルバートがあっさりと言う。
「おう、早く出ようぜ」
少しフラフラするギルバートに肩を貸し女豹達の間を通り抜け店を出る。
(これからも、こんな事が何回もあるんだろうなぁ)
未だ見ぬ、しかし確実に訪れるであろう未来にバッカスは、深い溜息を吐いたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる