溺愛パパは勇者！〜悪役令嬢の私のパパが勇者だった件〜

第3章

No.109 噛まれる

「それじゃあ、そろそろ戻るよ」

あれから、私とクリスとノアの3人で街を回った。
その間、クリスと2人でノアにこの国の事を沢山話した。そうしているうちに、時間はあっという間に過ぎて、ノアが帰る時間となってしまった。

「もう帰るの？」
「うん。元々、今日1日だけ休みを貰っただけだからね。それに、帰ったらやる事が沢山あるから」
「そっか…」

（寂しくなるなぁ。でも、そうだよね。ノアは、人間と魔族の為に頑張ってるんだから。しっかりと応援しないと！）

暗くなりそうな顔に笑顔を浮かべる。

「本当は凄く寂しい。でも、ノアが頑張ってるの知ってるから。ノアの夢、絶対叶えてね！」
「うん。その為に何年も頑張って来たんだ」

そう言ってノアは、私の頬に手を当てる。その余りにも優しい仕草にドキッとする。

「ノア？」
「本当は、僕も凄く寂しいよ。でも、直ぐにまた会えるから」
「え？」

それはどういう意味か聞こうとした瞬間、クリスがノアの手をはたき落した。

「痛っ！」
「いつまで触ってんの？」
「クリス？」

何故か不機嫌なクリス。
手をはたき落とされたのに、クスクスとノアは笑う。

「嫉妬？」
「うるさい」

ノアは、クリスに近づき耳元で何かを話す。

「別にいいでしょ？ティアは誰の者でも無いんだから」
「ノアっ…」
「それに、ティアを好きなのは君だけじゃ無い」

話し終わったらしいノアは、私に向き直る。

「それじゃあ、ティア。またね」
「っ！？」
「ノアっ！！」

何と、ノアは私の頬にキスをしたのだ。突然の出来事に身体が硬直する。

「ハハッ！またね、2人共！」

隣でクリスが怒っているが気にも止めずにノアは笑いながら去って行った。

（私、ノアにキスされ…）

「～～っ！！」

ようやく頭が動き出し現状を認識する。
顔が一気に赤くなったのが分かる。

「っ！痛っ、イタタ！！ちょっ！クリス！？」

突然、クリスに顔を掴まれたと思ったらノアがキスした所をクリスの袖で思いっきり拭われる。

「黙って」
「ちょっ、何して！」
「バイ菌を拭き取ってるんだから静かにしてくれない？」
「バイ菌！？」

(それは流石に、ノアに失礼なんじゃ…)

ようやく満足したのか、クラスが顔を離す。今は別の意味で頬が真っ赤になっているだろう。

「全く、ティアは無防備すぎ。そんなんだから、ノアに好き勝手されるんだよ」
「無防備…それに好き勝手って。そんな事ないよ。アレはいきなりだったから」
「それが無防備だって言ってんの」

未だ納得出来ない私にクリスが顔を寄せて来た。何だろうと思っていると。

ーーカプッ

「ほらね？無防備じゃん」

クリスが、「ほらみろ」と言わんばかりの顔で私を見る。

「僕達もそろそろ帰ろう。ボサッとしてないで行くよ」

そう言ってクリスに手を引かれ私は歩く。

（今……噛まれた）

私は、噛まれた鼻に手を当てる。そうして目の前のクリスの背中を見つめる。

（もう、何が何だかんだ分かんない…）