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気絶したフリをしていたガダルは、サーシャの「ひよこパンツ」と言う言葉に勢い良く目を開けた。

「な、な、な、何を言っている….?!」

もしも、この場に他の人間がいたらガダルの余りの動揺っぷりに同情しただろう。ーーだが、この場に居るのはふわふわとした人見知りをする天使と天使の皮を被った悪魔(ガダル談)だけだ。

「あら?気が付いていないんですか?殿下のお履きの可愛らしい『ひよこパンツ』がお見えになってますよ?」
「っ……!?」

先程のサーシャからドロップキックを喰らった際、運悪くズボンがズレてしまったのだ。その為、黄色いひよこが刺繍された可愛らしいパンツが露わになっていた。

「殿下ったら、とても可愛らしいパンツをお履きなんですね」

そう言って、にっこりと笑うサーシャをガダルは驚愕の表情で見上げる。

自身がこの様な可愛らしいパンツを履いている事を知られた事や、双方子供とは言え、仮にも貴族の令嬢が男のパンツを見ても平然としている事。ーー何よりガダルが第二王子だと分かっているのに彼の腹部に未だ足を乗せている、本来なら極刑ものの神をも恐れぬ不遜な態度。その全てに、ガダルは驚愕していた。

「お、お前……、オレの事を…」
「勿論、知っています。グラシェール王国第二王子ガダル・グラシェール様ですよね」

「知っていてこの様な事を…」と驚愕するガダルを見下ろしながら、サーシャは心の中で溜息をついていた。

(………まぁ、気が付いたのは仰向けにしてお腹を踏んでからだけどね)

今世初の友達を泣かせたこの子供が許せずに、容赦無く攻撃をしたサーシャ。そうして、怒りが収まらなかった為に更なる追撃しようとしたサーシャ。逃げられない様にして、そこで漸く目の前の子供が誰だか気が付いたのだ。

(う~~ん、どうしよう…。まさか、相手が王子だとは思わなかったわ…)

これがバレたら、確実にサーシャだけでは無く家族にさえも何らかの罰が下る事は火を見るよりも明らかだ。

『だがら何時も言ってるだろう?お袋さ、怒って行動する前に一旦冷静に状況を見ろって』

前世で産んだ長男の呆れた様な言葉が蘇る。

前世でも、カッとすると周りが目に入らずに行動してしまう時があった。夫と結婚して子供も産まれてからは、大人として組織のトップの妻としての自覚も芽生え、激情に駆られての咄嗟の行動も減ってはいた。だが、稀に激情に駆られて行動してしまい夫や子供達、組の者達にも心配をかけてしまったものだ。

(……うん、ごめんよ。あんなに注意してくれたのに、お母さんのこの激情に駆られた時の咄嗟の行動は、死んでも治らなかったみたい……)

呆れた様に何度も注意してきたしっかり者の長男の顔を思い浮かべながら、心の中で苦労をかけた息子に謝罪したサーシャであった。
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