極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました！

No.56 ？？？side

現在、王都に有名な旅芸人一座「幻想の箱庭」がやって来ていた。その為、一目でも彼等の芸を遠くから見ようと、王都中心部は何時もより多くの人々で賑わっていた。

「ママ～、あれ買って！」
「おっ！そこの奥さん、少しウチのを見てかないか？」
「ねぇねぇ、今の人カッコ良かったよね！」
「くそ～！チケット、取れなかったぜ…」
「いらっしゃい！食べ歩きに、ボアの串肉はどうだい！」
「こっちこっち！此処から、少しだけど『幻想の箱庭』が見えるって！」

活気に溢れた人々達。
滅多にお目にかかれない旅芸人一座に、皆が楽しそうに始まるその時を待つ。

ーーそんな中、行き交う人々を建物の影から見つめる一人の少女がいた。

歳の頃は５歳程だろうか？
肩下まである茶色い髪にピンクの瞳をした可愛らしい少女は、その年齢に似合わない知性のある瞳で行き交う人々を見つめていた。

「旅芸人一座『幻想の箱庭』…」

行き交う人々の誰かが口にした言葉を、少女は繰り返す。そうして、自身の推測が正しかった事を知り込み上げる笑みを隠しもせずに、その可愛らしい顔に浮かべる。

（やった…やったやった！此処は、やっぱり『恋する聖女』の世界なんだ！そして、私はこの乙女ゲームのヒロイン『マリア・ロネージュ』！）

まさか、前世で一番好きだった乙女ゲームのヒロインに転生するなんて！

少女ーーマリアは、歓喜に身体が震える。
前世では、冴えない女子高生だったマリア。友達もおらず家族関係も悪かった彼女は、寂しさを紛らわす為に自分を持て囃してくれる乙女ゲームを好んでプレイした。その中でも、「恋する聖女」は彼女が一番好きなゲームだった。
様々なタイプのイケメンがヒロインに恋をし、彼女の愛を乞う。

時に優しく
時に激しく
時に甘く

イケメン達に溺れる程に愛されるヒロインは、彼女にとって理想そのものだった。
だから、自身が大好きだったその乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いた時は夜も眠れなかった。しかし、時間が経つに連れて「ヒロインと同じ名前なだけなのでは？」と不安になった。

しかし、今回の旅芸人一座「幻想の箱庭」が王都へやって来た事でその不安は綺麗に消えた。

（旅芸人一座「幻想の箱庭」は、幼少期のヒロインと隠しキャラとの出会いイベント。迷子になって泣きそうなヒロインに、御忍びて町に出ていた隠しキャラであるアランが優しく声をかける…）

その時、アランは可愛らしいヒロインに一目惚れするのだ。そうして、本編の舞台であるグラシェン魔法学園で再会するのだ。

「絶対に、このイベントを逃す事なんて出来ないわ」

その時、視界に目的の人物が現れたのだった。


ーーさあ、私の為のゲームの始まりよ。