極妻、乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生しちゃいました!

ハルン

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No.57

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アランの手を取って馬車から降りたサーシャは、そのまま手を繋がれたままアランと共に一座が王都で一時的に居を構えるテントへと向かう。姿は見えないが、彼等の周りには平民に扮した護衛達が周囲に控えている。

「サーシャ、疲れてないか?」
「………アランお兄様。確かに、私は子供で体力はあまり無いわ。でも、流石に十歩も歩いていないのに疲れる事はないわ」
「そうかい?疲れたら直ぐに言うんだよ。俺が可愛いサーシャを抱き上げて運んであげる」

そう言って、アランは蕩ける様な甘い笑みをサーシャに向ける。その笑みに、老若男女問わず周囲の人間が見惚れる。

「ありがとう、アランお兄様。その時は、宜しくお願いします」

(まぁ、絶対に無いだろうけど…)

そんなやり取りをしながら歩き、目前まで目的地が迫った時だった。

「……お母さん、何処?」

そう、今にも溢れ落ちそうな涙を珍しいピンクの瞳に溜めた茶髪の可愛らしい女の子がサーシャ達の前に現れた。

(迷子なのかしら?まぁ、今日は特に人が多いからきっと母親とはぐれたのね。丁度、同じ歳くらいかしら…)

サーシャは、冷静にその女の子を見詰める。
普通なら、此処で直ぐに女の子に声を掛けるのだろう。ーーしかし、サーシャはそうしなかった。

別に、サーシャの性格が悪い訳では無い。
………まぁ、何の得にもならないと判断しているのも確かにある。だが、一番の理由は女の子の態度である。

(…何、あの態とらしい泣き真似。あれなら、前世で夫に言い寄って、私に脅されてるって夫に泣きついた商売女や他の組の女達の方が何倍も上手かったわ)

前世、数多くの女の修羅場を経験して来たサーシャ。そんな修羅場を経験して来た彼女は、すぐに目の前の女の子が泣き真似をしている事を見破った。

女の子は、未だサーシャ達の目の前で母親を探して声を上げ続けている。

(………さて、どうしようなか)

そうサーシャが思った時、アランと繋いでいる手が軽く引かれる。

「アランお兄様?」
「サーシャ、早く行こう。そろそろ、公演の時間になってしまうよ」

そう言って、アランは目の前の泣きそうな女の子を完全に無視して横を通り抜ける。

「えっ!?ちょっ……!」

背後で、何やら女の子の驚愕した様な声が聞こえたがアランは一切そちらを振り向く事なくサーシャの手を引いて歩く。

「………えっと、アランお兄様?」
「全く、困ったものだよ。俺の隣には、世界一可愛い天使のサーシャがいるのに。それすら見えずに、俺に下手な泣き真似をしてまで媚を売るんだから。そもそも、媚を売るなら先ずは迷子のフリじゃ無くてーー」

どうやら、兄もあの下手くそな泣き真似に気が付いていた様だ。そして、何かが気に入らなかったのだろう。アランは、それからテントに着くまで延々と女の子のダメ出しをし続けるのだった。
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