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魔法の講師をお願いしたら、国で一番の魔道師が来てしまいました①
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「お前、魔法もろくに使えないのかよ。」
「そんなんじゃ婚約者なんて、いつまで経っても無理だな。」
どこかの家の令息たちが口々に揶揄してくるが、私はそのどの言葉も気にならなかった。
「ま、魔法が使えなくたって、だ、大丈夫だもん!」
そう言って私は幼なじみの元へと駆ける。彼がいれば、私は大丈夫。その時の私はそう思っていた。
「イルシュ!私と婚約してくれるわよねっ!」
だから、彼に向かって私は自信満々に言ったのだ。
だけど…
「いや、魔法使えないとか、考えられないから。無理。」
と、投げつけれたのは冷たい言葉だった。
当時9歳の私は初めての失恋を経験した。
この世界では、誰もが魔法を使える。その属性は人によって違うが、魔力量は両親から引き継がれるものだと言われている。両親の魔力に近い子どもが生まれるはずで、だからこそ政略結婚が絶えないのだ。
でも、私は魔法が使えない。そのせいで、学校でも馬鹿にされ、婚約すら結べないでいた。
私のいる国では、爵位と魔力を総合して婚約者を決める。そんな私の家は侯爵家で、魔力量も他より秀でていることで有名だった。私の姉や兄はもうすでに婚約を結んでおり、姉は来年結婚の予定だ。相手は、同じ侯爵家の人間で、名のある家に嫁ぐ。
私はと言えば、失恋から5年近い月日が経っても、魔法が使えず、婚約者もいない。
「アイリス。今日から魔法の講師を雇ったから、魔法を学びなさい。」
「へ?」
唐突に母は私にそう言う。料理を口に運ぼうとしていた手が止まってしまう。
「少しでも魔法を使えるようにならないと、一生独り身よ。」
「で、でも…」
「でも、ではありません。…まだ、イルシュを諦めきれないのでしょう?」
「うっ…」
「だったら、尚更ですよ?アイリス。」
母の言う通り、この国で結婚したいのであれば魔法が使えないと難しい。さらに、好きな人との婚約となれば尚更だ。
私は幼なじみである伯爵家のイルシュの事が、小さい頃から好きだった。彼は気さくで話しやすく、それに優しかった。
本当に小さい頃は私が魔法を使えなくても、嫁にもらってやると言ってたのだが…年頃になり考えが変わってしまったのだろうか。あの時は、振られるなんて思ってもいなかったから、ショックで数日寝込んでしまった。
今でも、好きな気持ちは少なからずある。だから私は一縷の望みをかけて、その講師とやらに会うことを決めたのだった。
「こちらです、お嬢様。」
メイドに案内されたのは家にある客間の一つ。扉をメイドが恭しく開ける。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。」
「いえ、大丈夫ですよ。私が早く着きすぎたので、お気になさらずに。」
部屋に入ると20代くらいの青年がソファに腰掛けていた。その姿は優雅で気品があり、普通の講師には見えない。紺色の少し長いショートヘアに紫色の瞳。少し切れ長の目は鋭いというより、儚げで美しさを強調していた。なのに、笑うと少し幼く見えるのが可愛らしく、女性を虜にするタイプの人に見える。
「アイリス・オルベルタです。よろしくお願いします。」
「私はクルス・ランドールと申します。」
私は目を見張った。笑顔が素敵すぎて息を飲んだ訳ではない。名前に聞き覚えがあったのだ。
「ランドール…って、国王直属の…!?」
「ええ、そうです。」
「そうですって…な、何かの間違いですよね?私の講師って…」
「いえ、間違っていませんよ。今日からあなたの講師として、魔法の指導をするように、言い付けられております。」
この国には宮廷魔道師という職がある。それは国の中でも群を抜いて、魔道に長けた者だけが選ばれる。
ランドール家と言えば、代々宮廷魔道師を輩出している名家だ。そして、目の前にいるクルス・ランドールは、国王直属の宮廷魔道師である。つまりは魔法において、この国で彼に敵う者はいないと言うことだ。
「な、何で、ランドール様が…」
「どうかクルスとお呼びください。」
「ちょ、ちょっと待ってください。頭が混乱して…」
「アハハ、そんなに驚くことじゃありませんよ。宮廷魔道師の仕事の中には、魔道師の育成もありますから。」
いやいやいや、そんなこと言うけど、王直属の魔道師が来るなんて誰が考えるだろうか。母も母だ、知っていた筈なのに、何も教えてくれなかった。
「とりあえず、表に出ましょうか?」
「えっ?…ちょ、ちょっと…」
クルス様の笑顔は何だかとても楽しげに見える。私は混乱する中、クルス様に言われるがまま差し出された手を取ると、中庭までエスコートされてしまう。
「とりあえず、実際に見てもらうのが良いですかね。」
クルス様はそう言うと呪文を唱え始めた。
「『風よ』」
力ある言葉と共に風の玉が、クルス様の目の前に現れる。
「こういう風に魔力を形にして出現させるのですが…これはできますか?」
「出来ないことはないのですが、あまり得意ではありません。」
「そうですか。ちなみに、アイリス様の魔法属性は何ですか?」
「風です。」
「風…ねぇ…」
手を顎に当てて、何やら考えているようだったクルス様は、こちらを覗き込む。綺麗な顔が近くなり、私は頬が熱くなる。それを隠すために少しだけ視線をそらせた。
「あっ、すみません。アイリス様の魔法属性を見ようとしたのですが…見えませんね。」
「他人の属性が分かるんですか?」
「はい。正確には、オーラが見えると言うのでしょうか。火属性なら赤く。水なら青。という感じで見ることが出来るのですが、アイリス様はボヤけてハッキリしていない感じです。」
「そ、そうですか。」
なかなかに鋭い。私は自分の属性を把握している。だが、それを言っても信じてもらえず、馬鹿にされるばかりだったので、何となくこの時も言うのを躊躇ってしまった。
「ちなみに、魔法の属性についてはご存知でしょうか?」
「え、ええ。魔法属性は火、水、風、雷、地、氷、時、光、闇の9種類。属性は基本的には一人一つですが、希に二つ三つの属性を操れる者もいて、二つの属性を操れる者をドゥーエ。三つ操れる者をトレとそれぞれ呼びます。…クルス様は確かトレですよね?」
「そうです。良くご存知ですね。」
「この国で唯一のトレですから。属性は確か火、風、闇だったでしょうか?」
「そこまでご存知とは、驚きました。」
受け答えするクルス様は、表情豊かで見ていて何だか楽しい。
「アイリス様のご両親は確か火と風でしたよね?」
「ええ、父が火で母が風です。」
「ご兄弟は?」
「兄がおります。属性は火と風どちらもです。」
「ドゥーエですか。それは、珍しいですね。」
珍しいって、貴方のトレの方が余程珍しいですよね。と、思うが口には出さなかった。
「おっと、話ばかりではいけませんね。そろそろ実践に移りましょうか。コホン…それではまず、魔法に慣れましょう。」
そう言ってクルス様の講義は始まった。
講義の内容は基礎から行われ、初日はクルス様の魔法を色々と見せてもらった。基本の魔法から応用までと見せてくれた魔法は、どれも幻想的で美しかった。
次の日からは実践あるのみと、基礎の風魔法である風の玉を出現させることを目標にして魔法を唱え続けた。
「うーん、アイリス様。魔力を減じ過ぎていませんか?」
鋭い。と、思うのと同時に、どう誤魔化そうかと考えていると、綺麗な顔がこちらを覗き込んでくる。
「し、正直、魔力加減というものが、私は良く分かっていないのかもしれません。」
「そんなことないですよね?」
「…」
「アイリス様は、ご自身の意思で魔力を減じてます。嘘は通じませんよ。」
微笑んでいるが、有無を言わせない雰囲気が少し怖い。私は諦めるしかなかった。
「…はい、クルス様のおっしゃる通りです。」
「素直でよろしい。」
満足気に笑うと幼く見え、無邪気な子供のようだ。
「アイリス様は魔力量が多いのですね。」
「…はい。」
「では、風魔法で防御壁を張りますので、思う存分に魔法を使ってみてください。」
「え…」
「大丈夫です。私の魔法障壁は、そこら辺の魔法じゃ壊せませんから。他の宮廷魔道師でも無理だったので、安心してください。」
ニコリと笑って、とんでもないことをさらっと言うクルス様。宮廷魔道師が破れない魔法障壁なんて、聞いたことがない。
それなら大丈夫かもしれないと、私は言われた通りに、魔力を減じないで詠唱をする。それに合わせて、クルス様が自分と私の周りに魔法で壁を作る。私の足元が風で揺れ始めると、それは徐々に大きくなり私を取り巻くように流れ出す。
「『風よ』」
ぶわっと、風の玉が私の目の前に、私の想像した何倍もの大きさで生まれた。
「これは…」
生まれた風の玉は、クルス様が作った魔法障壁を飲み込むように取り込んでいく。それは、どんどんと大きくなり膨らんでいった。
また暴走させてしまう!と、私は怖くなり目を閉じる。自分の風に押し負け後ろに下がると、背中に何かが当たった。
「目を閉じてはいけません。」
耳元で聞こえた声にドキリとする。振り向くとクルス様が目の前にいる。彼はスッと手を伸ばすと、風を支えている私の手に重ねる。
「魔力を抑え込むイメージで、これを押し潰してください。」
「む、無理ですよっ。」
「そんなことはありません。大丈夫です。」
耳元で囁かれ、心臓が速くなる。もう、どうにでもなれと、私は力一杯に風の玉を押し潰した。すると、風の玉はみるみる小さくなり、最後は消滅してしまった。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
「ほ、ほらじゃありません!あのまま、暴走したらどうするつもりだったんですかっ!」
「その時は、ただじゃすまなかったでしょうね。」
「あ、貴方、本当に国王直属の魔道師なんですか!?こ、こんないい加減な…」
そう怒鳴り付けていたら、足が震えだす。力が入らず、私はそのままペタンと座り込んだ。
「大丈夫ですか?相当魔力を消費しましたね。」
上から呑気な声が聞こえる。
誰のせいだ!と、叫びたいのをグッと堪えたら、何故か涙が流れ出した。緊張の糸が切れたのだろう。私は子供みたいに、情けない声で泣きわめく。心に溜まっていた何かが溢れ出すように、涙も声も止められなかった。
そんな私を見て、クルス様は馬鹿にするでも呆れるでもなく、まるで子供をあやすように私の頭を撫でる。
「ビックリさせちゃいましたね。すみません。」
そう言って笑うのがなんだか腹立たしいのに、同時にとても安心した。
その日は結局、私が大泣きしてしまったことや、魔力を使いすぎたことで、そのまま講義を終わらせた。
「明日はお休みにしましょう。」
「え?」
「魔力が戻るまでに、時間がかかりますから。そうですね、お詫びも兼ねて街に出掛けませんか?」
無邪気な笑顔を向けるクルス様に、私は頷くことしか出来なかった。
「そんなんじゃ婚約者なんて、いつまで経っても無理だな。」
どこかの家の令息たちが口々に揶揄してくるが、私はそのどの言葉も気にならなかった。
「ま、魔法が使えなくたって、だ、大丈夫だもん!」
そう言って私は幼なじみの元へと駆ける。彼がいれば、私は大丈夫。その時の私はそう思っていた。
「イルシュ!私と婚約してくれるわよねっ!」
だから、彼に向かって私は自信満々に言ったのだ。
だけど…
「いや、魔法使えないとか、考えられないから。無理。」
と、投げつけれたのは冷たい言葉だった。
当時9歳の私は初めての失恋を経験した。
この世界では、誰もが魔法を使える。その属性は人によって違うが、魔力量は両親から引き継がれるものだと言われている。両親の魔力に近い子どもが生まれるはずで、だからこそ政略結婚が絶えないのだ。
でも、私は魔法が使えない。そのせいで、学校でも馬鹿にされ、婚約すら結べないでいた。
私のいる国では、爵位と魔力を総合して婚約者を決める。そんな私の家は侯爵家で、魔力量も他より秀でていることで有名だった。私の姉や兄はもうすでに婚約を結んでおり、姉は来年結婚の予定だ。相手は、同じ侯爵家の人間で、名のある家に嫁ぐ。
私はと言えば、失恋から5年近い月日が経っても、魔法が使えず、婚約者もいない。
「アイリス。今日から魔法の講師を雇ったから、魔法を学びなさい。」
「へ?」
唐突に母は私にそう言う。料理を口に運ぼうとしていた手が止まってしまう。
「少しでも魔法を使えるようにならないと、一生独り身よ。」
「で、でも…」
「でも、ではありません。…まだ、イルシュを諦めきれないのでしょう?」
「うっ…」
「だったら、尚更ですよ?アイリス。」
母の言う通り、この国で結婚したいのであれば魔法が使えないと難しい。さらに、好きな人との婚約となれば尚更だ。
私は幼なじみである伯爵家のイルシュの事が、小さい頃から好きだった。彼は気さくで話しやすく、それに優しかった。
本当に小さい頃は私が魔法を使えなくても、嫁にもらってやると言ってたのだが…年頃になり考えが変わってしまったのだろうか。あの時は、振られるなんて思ってもいなかったから、ショックで数日寝込んでしまった。
今でも、好きな気持ちは少なからずある。だから私は一縷の望みをかけて、その講師とやらに会うことを決めたのだった。
「こちらです、お嬢様。」
メイドに案内されたのは家にある客間の一つ。扉をメイドが恭しく開ける。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません。」
「いえ、大丈夫ですよ。私が早く着きすぎたので、お気になさらずに。」
部屋に入ると20代くらいの青年がソファに腰掛けていた。その姿は優雅で気品があり、普通の講師には見えない。紺色の少し長いショートヘアに紫色の瞳。少し切れ長の目は鋭いというより、儚げで美しさを強調していた。なのに、笑うと少し幼く見えるのが可愛らしく、女性を虜にするタイプの人に見える。
「アイリス・オルベルタです。よろしくお願いします。」
「私はクルス・ランドールと申します。」
私は目を見張った。笑顔が素敵すぎて息を飲んだ訳ではない。名前に聞き覚えがあったのだ。
「ランドール…って、国王直属の…!?」
「ええ、そうです。」
「そうですって…な、何かの間違いですよね?私の講師って…」
「いえ、間違っていませんよ。今日からあなたの講師として、魔法の指導をするように、言い付けられております。」
この国には宮廷魔道師という職がある。それは国の中でも群を抜いて、魔道に長けた者だけが選ばれる。
ランドール家と言えば、代々宮廷魔道師を輩出している名家だ。そして、目の前にいるクルス・ランドールは、国王直属の宮廷魔道師である。つまりは魔法において、この国で彼に敵う者はいないと言うことだ。
「な、何で、ランドール様が…」
「どうかクルスとお呼びください。」
「ちょ、ちょっと待ってください。頭が混乱して…」
「アハハ、そんなに驚くことじゃありませんよ。宮廷魔道師の仕事の中には、魔道師の育成もありますから。」
いやいやいや、そんなこと言うけど、王直属の魔道師が来るなんて誰が考えるだろうか。母も母だ、知っていた筈なのに、何も教えてくれなかった。
「とりあえず、表に出ましょうか?」
「えっ?…ちょ、ちょっと…」
クルス様の笑顔は何だかとても楽しげに見える。私は混乱する中、クルス様に言われるがまま差し出された手を取ると、中庭までエスコートされてしまう。
「とりあえず、実際に見てもらうのが良いですかね。」
クルス様はそう言うと呪文を唱え始めた。
「『風よ』」
力ある言葉と共に風の玉が、クルス様の目の前に現れる。
「こういう風に魔力を形にして出現させるのですが…これはできますか?」
「出来ないことはないのですが、あまり得意ではありません。」
「そうですか。ちなみに、アイリス様の魔法属性は何ですか?」
「風です。」
「風…ねぇ…」
手を顎に当てて、何やら考えているようだったクルス様は、こちらを覗き込む。綺麗な顔が近くなり、私は頬が熱くなる。それを隠すために少しだけ視線をそらせた。
「あっ、すみません。アイリス様の魔法属性を見ようとしたのですが…見えませんね。」
「他人の属性が分かるんですか?」
「はい。正確には、オーラが見えると言うのでしょうか。火属性なら赤く。水なら青。という感じで見ることが出来るのですが、アイリス様はボヤけてハッキリしていない感じです。」
「そ、そうですか。」
なかなかに鋭い。私は自分の属性を把握している。だが、それを言っても信じてもらえず、馬鹿にされるばかりだったので、何となくこの時も言うのを躊躇ってしまった。
「ちなみに、魔法の属性についてはご存知でしょうか?」
「え、ええ。魔法属性は火、水、風、雷、地、氷、時、光、闇の9種類。属性は基本的には一人一つですが、希に二つ三つの属性を操れる者もいて、二つの属性を操れる者をドゥーエ。三つ操れる者をトレとそれぞれ呼びます。…クルス様は確かトレですよね?」
「そうです。良くご存知ですね。」
「この国で唯一のトレですから。属性は確か火、風、闇だったでしょうか?」
「そこまでご存知とは、驚きました。」
受け答えするクルス様は、表情豊かで見ていて何だか楽しい。
「アイリス様のご両親は確か火と風でしたよね?」
「ええ、父が火で母が風です。」
「ご兄弟は?」
「兄がおります。属性は火と風どちらもです。」
「ドゥーエですか。それは、珍しいですね。」
珍しいって、貴方のトレの方が余程珍しいですよね。と、思うが口には出さなかった。
「おっと、話ばかりではいけませんね。そろそろ実践に移りましょうか。コホン…それではまず、魔法に慣れましょう。」
そう言ってクルス様の講義は始まった。
講義の内容は基礎から行われ、初日はクルス様の魔法を色々と見せてもらった。基本の魔法から応用までと見せてくれた魔法は、どれも幻想的で美しかった。
次の日からは実践あるのみと、基礎の風魔法である風の玉を出現させることを目標にして魔法を唱え続けた。
「うーん、アイリス様。魔力を減じ過ぎていませんか?」
鋭い。と、思うのと同時に、どう誤魔化そうかと考えていると、綺麗な顔がこちらを覗き込んでくる。
「し、正直、魔力加減というものが、私は良く分かっていないのかもしれません。」
「そんなことないですよね?」
「…」
「アイリス様は、ご自身の意思で魔力を減じてます。嘘は通じませんよ。」
微笑んでいるが、有無を言わせない雰囲気が少し怖い。私は諦めるしかなかった。
「…はい、クルス様のおっしゃる通りです。」
「素直でよろしい。」
満足気に笑うと幼く見え、無邪気な子供のようだ。
「アイリス様は魔力量が多いのですね。」
「…はい。」
「では、風魔法で防御壁を張りますので、思う存分に魔法を使ってみてください。」
「え…」
「大丈夫です。私の魔法障壁は、そこら辺の魔法じゃ壊せませんから。他の宮廷魔道師でも無理だったので、安心してください。」
ニコリと笑って、とんでもないことをさらっと言うクルス様。宮廷魔道師が破れない魔法障壁なんて、聞いたことがない。
それなら大丈夫かもしれないと、私は言われた通りに、魔力を減じないで詠唱をする。それに合わせて、クルス様が自分と私の周りに魔法で壁を作る。私の足元が風で揺れ始めると、それは徐々に大きくなり私を取り巻くように流れ出す。
「『風よ』」
ぶわっと、風の玉が私の目の前に、私の想像した何倍もの大きさで生まれた。
「これは…」
生まれた風の玉は、クルス様が作った魔法障壁を飲み込むように取り込んでいく。それは、どんどんと大きくなり膨らんでいった。
また暴走させてしまう!と、私は怖くなり目を閉じる。自分の風に押し負け後ろに下がると、背中に何かが当たった。
「目を閉じてはいけません。」
耳元で聞こえた声にドキリとする。振り向くとクルス様が目の前にいる。彼はスッと手を伸ばすと、風を支えている私の手に重ねる。
「魔力を抑え込むイメージで、これを押し潰してください。」
「む、無理ですよっ。」
「そんなことはありません。大丈夫です。」
耳元で囁かれ、心臓が速くなる。もう、どうにでもなれと、私は力一杯に風の玉を押し潰した。すると、風の玉はみるみる小さくなり、最後は消滅してしまった。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
「ほ、ほらじゃありません!あのまま、暴走したらどうするつもりだったんですかっ!」
「その時は、ただじゃすまなかったでしょうね。」
「あ、貴方、本当に国王直属の魔道師なんですか!?こ、こんないい加減な…」
そう怒鳴り付けていたら、足が震えだす。力が入らず、私はそのままペタンと座り込んだ。
「大丈夫ですか?相当魔力を消費しましたね。」
上から呑気な声が聞こえる。
誰のせいだ!と、叫びたいのをグッと堪えたら、何故か涙が流れ出した。緊張の糸が切れたのだろう。私は子供みたいに、情けない声で泣きわめく。心に溜まっていた何かが溢れ出すように、涙も声も止められなかった。
そんな私を見て、クルス様は馬鹿にするでも呆れるでもなく、まるで子供をあやすように私の頭を撫でる。
「ビックリさせちゃいましたね。すみません。」
そう言って笑うのがなんだか腹立たしいのに、同時にとても安心した。
その日は結局、私が大泣きしてしまったことや、魔力を使いすぎたことで、そのまま講義を終わらせた。
「明日はお休みにしましょう。」
「え?」
「魔力が戻るまでに、時間がかかりますから。そうですね、お詫びも兼ねて街に出掛けませんか?」
無邪気な笑顔を向けるクルス様に、私は頷くことしか出来なかった。
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