【第三幕完結】奴隷から王になった少女が紡ぐ物語

香口 深衣

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第ニ幕

第四章 学舎と子供

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 城から伸びる道は四本あり、それぞれ東西南北の国へと繋がっている。今日行くのは、北に伸びる道から行ってすぐの街だった。
 羅芯の城は小高い丘の上に建っており、そこから一本しかない坂道を下ると、城を囲むように先程言った四本の道が広がる。そこから、どの道も数刻ほど歩けば、城門にぶつかる。城門までの土地が、羅芯城だ。
 かなり広いと思うかもしれないが、そこには城で働く者たちの住まいがあるのだ。家々が建ち並び、店なんかも色々あるので、これも一つの街のように見える。
 もちろん、それ以外の住人もいた。これは羅芯が難民を受け入れているためだ。難民に衣食住の補助をして、暮らしていけるように助けている。そのまま住み着く者も多くて、羅芯はここまで広がったのだ。

 そんな中を雪と翠は歩く。雪は珉玉と会えるとあって、上機嫌だった。珉玉は雪より数個だけ年の離れたお姉さん。気さくで面倒見が良い。
 彼女は学舎にいるのだが、色々な理由で親と一緒にいられない孤児を、預かり育ててもいた。学舎では家のある子どもは通いで、家のない子どもには学舎が家代わりとなっている。基本的にはどこの国も、同じようになっているはずだ。そして、国は必ず学舎に援助金を出している。
 時折、近況などを聞きに行く隆盛について学舎へ来ることがあった。それで、比較的歳の近い珉玉と気が合い、仲良くなったのだ。
 最近は会えていなかったので、久しぶりに会えると雪は心が弾んでいたのだ。

「ねぇ、翠。今から行く学舎は知ってる?」

 翠は首を左右に振って、知らないと伝えてくる。

「学舎は、基本的には子どもが、生きていくのに必要なことを学ぶ場所。翠に教えてる文字もそうだけど、それだけじゃなくて商売の方法や病気の知識とか、たくさんのことを学べるのよ。必要があれば、官吏になるための勉強も出来るわ。」
「官吏?」
「ええ、基本的に官吏は推薦状がないと、就くのは難しいと言われてるけど、必ずしもそうじゃないの。特に羅芯はほとんどが試験制よ。推薦もない訳じゃないけど、推薦された者も試験や面接を受けるわ。隆盛がそうしたの。」

 無言だが感心しているようにも見える。

「さっき、基本的には子どもが通うと言ったけど、学び直したい人や、事情があって子どもの時に学べなかった人も、通っていることがあるから大人もいるわ。翠も学んでみる?」
「…いい…雪から教わる。」

 “私に教えられるかなぁ?”

 なんて、不安を感じながらも、ちょっと、嬉しい気持ちになる。

「学舎には孤児が暮らせる家もあって、今日会う珉玉は、そこの長なのよ。とても明るい人でね…」
「こらーーー!!!」

 声に驚いて雪は飛び上がる。隣にいた翠も、さすがに驚いたようだ。
 目の前にはもう学舎の門があり、それは開かれていた。そこから飛び出てきたのは、五、六歳の子どもが数人。一人だけ捕まったようで、飛び出してきた数人も動きを止めた。捕まった子どもは、襟を掴まれて動けない。

「どんくさいなー。」
「ど、どうしよう?」
「えー、せっかく逃げ出せたのにぃ。」

 子どもたちが口々に言って、どうするかと相談し始める。捕まった子どもは半べそをかいて助けを求めるが、掴んでいる人間が怖いようで全員が様子を伺っていた。
 雪はその人物を見つけて、パァッとひとり顔を輝かせる。

「珉玉!」

 子どもを掴んでいた珉玉が、声に気づいてこちらを見た。子どもたちも声の主を振り返えり、皆がその表情を明るくする。

「雪!」

 そう言って駆け出してきた子どもたちに雪は囲まれる。

「皆、元気だった?」
「うん!」
「遊びに来たの?」
「うーん、それもあるけど…珉玉に届け物があって来たのよ。」

 思い思いの言葉を発していた子どもたちが、雪の言葉で思い出したと言わんばかりに、ビクリと身体を強張らせて恐る恐る後ろを振り返る。
 目の前には静かに立っている珉玉の姿。子どもたちは、ゆっくりと視線を上げていく。
 珉玉は微笑んでいるのに、ちっとも笑ってない笑顔を向けた。私でも怖いと思うその笑顔を見て、子供たちが息を飲んだのが分かる。

 ゴンッ!

 子気味良い音が三度聞こえて、子どもたちが頭を押さえて涙目になっている。珉玉の拳骨が落ちたのだ。

「痛ぇな!」
「あんたが悪いんでしょ、白斗(はくと)。掃除当番はどうしたのかしら?」
「知らねーよ。鬼ババ…」

 文句を言ったのは、白斗という少年。珉玉は容赦なくもう一撃食らわせる。今度はさらに力が入っていたように見える。
 白斗は頭を押さえて屈み込んでしまった。

「まぁまぁ、珉玉その辺にして…ほら、皆。お菓子持ってきたから、一緒に食べよう。準備をお願いね。」

 そう言うと全員が、痛みなんて忘れたように、私の手にしていたお菓子を奪うようにして取り上げると、母屋に向かって駆け出してしまう。

「雪!あんたはこいつらを甘やかし過ぎだよ。」
「まぁ、良いじゃない。それに……白斗。」

 名を呼ぶと、白斗だけが立ち止まってこちらを振り向いた。

「掃除するよね?」
「えっ?」
「悪い子に…お菓子はあげられないんだよね…」

 頬に指を当てて困ったようにして言うと、白斗は焦りの色を見せる。

「や、やるよっ!」
「本当かなぁ?」
「ほ、本当だよ!」
「じゃあ、白斗は掃除が終わるまで、お菓子はお預けね。」

 ニコリと微笑む。隆盛から悪い子に、お菓子はないのだと雪はよく言われていたのだ。だから、掃除をしない悪い子にお菓子はあげられないので、白斗が分かってくれて良かったと雪は思う。
 白斗は慌てた様子で駆け出すと、他の子どもたちを追い越して、急ぎ掃除を終わらせに向かった。

「お前…怖いな。」

 翠は私にだけ聞こえる声で言う。私は意味が分からず首をかしげると、彼はブルッと身を震わせている。なぜそんな反応するのかよく分からず疑問に思っていると、珉玉が呆れたように声をかけてきた。

「相変わらずの天然だな。あの白斗を震わせるのだから、恐れ入ったよ。」

 そう言われても、雪にはやはり分からない。抱いた疑問の答えを求めて翠を見るが、彼は身を竦めて、さぁ?と、とぼけるだけだった。

「久しぶりだね、雪。数ヵ月ぶりかな?」
「ええ、珉玉は元気そうね。」
「も、でしょ?」

 ニッと笑って珉玉は言うので、確かにと言って雪も笑顔を返す。

「彼らも元気になったの…かな…。あんな様子が見れるなんて思ってもいなかったよ。」
「…ああ。そうだね。」

 答える珉玉は少しだけ遠い目をする。

「珉玉?」
「えっ?あ、ああ。彼らがあんな風に笑うのも、最近になってからだったから。何だか思うところもあって…。」
「そうだったのね。…大変だった…よね。」

 手伝えなかったことに、罪悪感を覚える。雪は自分の事ばかりで、彼らのためにと率先して動いたことはなかった。ここまで彼らの心を開いたのは、紛れもない珉玉の努力の賜物だろう。
 それを後悔している自分がいることに今更ながら気がつく。

「雪が気にすることじゃないよ。私は大丈夫。」
「うん、ありがとう。」

 言われた言葉に寂しさを感じたが、雪は表に出さずに微笑んだ。

「とりあえず、あがって。話もあるしさ、お茶くらいは出すから。」

 笑って言う珉玉に雪も笑顔を返し、私たちも子供たちのあとを追うように学舎へと入っていった。
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