【第三幕完結】奴隷から王になった少女が紡ぐ物語

香口 深衣

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第ニ幕

第?章

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 ―「どうだった?」
「面白い情報があるわよ。。」
「面白い?」

 暗闇の中、女の声に男が不思議そうな声で返した。
 学舎の一室。既に子どもたちは寝ている時間。部屋に明かりはなく、よく目を凝らしても、人影を見つけることはできない。
 聞こえる声は二つ。一人は雪が先程まで話をしていた珉玉。もう一人は、青年のような若い男の声だった。

「ええ。あなたも驚くわよ。」
「どういう意味だ?今日は隆盛の所にいる子どもが来たんだろう?」
「子どもじゃなくて、雪ね。」
「そんなのはどうでも良いよ。」

 早く教えろと言わんばかりの口調に、珉玉は呆れたようなため息をついた。
 仕方ないわね。と、続ける彼女の言葉は遊んでいるなと、男は思う。思わせぶりな口調のまま楽しそうに笑うのだ。

「今日は雪と少年が来たのよ。」
「少年?」
「ええ、あなたも知っているね。」

 珉玉に言われて男は静かに考えを巡らせる。だが答えは見つからないようで降参だと両手を上げる。

「…もう、分からないから答えを教えて欲しい。」

 男がそう言うと、珉玉はクスリと笑う。その様子は、昼間、雪たちが会っていた彼女とは様子が違って、年相応の少女の様な表情だった。

金羽じんうが来たんだよ。」
「えっ?」
「金羽よ?忘れちゃった?」
「い、いやそうじゃなくて…」

 男は狼狽していた。

「金羽は槍郡での任務で死んだんじゃ…」
「その、槍郡から来たと行っていたわ。」
「話したのか?」

 男の言葉に珉玉はまさかと、首を横に振った。

「私たちの任務は、人に気付かれてはいけないものよ。」
「金羽もこちらに気付いていたか?」
「おそらくね。ちなみに、今は翠という名前みたい。…上に知らせる?」
「…。」
俊燕しゅんえん?」
「…いや、様子を見よう。」
「そうね。私もその方が良いと思う。」

 そう言う珉玉は寂しそうに微笑んだ。

「…他には?」
「あっ、あと、金に困ってるんじゃないかって言われたわ。あれは肝が冷えたね。」
「疑われたのか?」
「いや、金の横流しは気付いてないみたい。ただ、学舎がボロいから心配したんでしょ。」
「…少し修理するか?」
「良いよ。どうせ、また子どもたちに壊されるだけだから。雨漏りだけなきゃ、大丈夫。雨漏りは、親切な誰かさんが、直してくれるからね。問題ないよ。」
「他には?」
「うーん…隆盛からの手紙は何てことのない、報告書みたいなものだったわ。だからそんなところかな。」
「…そうか。」

 静かな沈黙。虫の鳴き声が幾重にも重なり調和している。

「…ねぇ、俊燕。」

 衣擦れの音がする。雲から姿を表した月に映された影は一つに見えた。
 珉玉が俊燕の背中に腕をまわし、耳元で名を再び囁くと、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
 クスリと珉玉は笑うと、まわしていた腕を解いて、男の顔を見つめる。暗闇に慣れた目には、俊燕の顔が見えた。頬を染めながらも、恥ずかしさを必死に隠そうとする姿を見て…あぁ、やはり可愛らしい人だと珉玉は思った。

 暗闇に慣れた目には、愛しい女の姿が映っている。腕を背中にまわされて、心臓が跳ね上がる。いくら仕事柄、見た目の平静を保てるとはいえ、身体は反応してしまう。耳元で名を囁かれ、さらに心臓の音は速さを増す。腕が解かれて、そのまま離れるかと思ったが、じっと見つめられる。上目遣いでじっと見つめるその姿は、こどものようで可愛いと思った。

「…今回の件が終われば、この国も落ち着くだろう。…そうしたら…い、一緒に暮らそう?」

 もじもじとして、男らしくないと珉玉は苦笑する。だけど、自分が好きになったのはこの俊燕だった。この気持ちばかりはどうしようも出来ない。
 珉玉がなかなか答えないので、俊燕の不安は募るばかりで落ち着きなく、もう視線すら合わせられていない。
 意地悪も程々にするかと、珉玉はグイッと俊燕の襟を引いて視線を強引に合わせる。軽く口づけをして、ニコリと微笑んだ。

「もちろんよ。」

 月明かりだけが二人を照らし、静かな時を刻む。だが、それはすぐに終わりを告げ、俊燕は任務へと戻って行った。
 寂しい気持ちに月を眺めていると、背後から声をかけられて珉玉は振り向く。

「珉玉ぅ…」
「…明鈴めいりん、眠れないのかい?」
「うん…」
「怖い夢でも見たかな。ほら、一緒にいてあげるから、部屋に戻ろう。」

 そう言うと、珉玉は寝室へと向かうのだった。もうそこに寂しいと思っていた女の顔はなく、母のような大人びたいつもの珉玉の姿があった。
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