彼岸花のキュリオシティ

ただの林檎

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第3準備室の出会い

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 本校舎1階のすみにある第3準備室。此処ここは校内で唯一ゆいいつ、落ち着くことの出来る空間スペース。第2準備室でも図書室でも感じることのできない、なつかしい安心感あんしんかんることができる。鉄製てつせいの棚に無造作むぞうさに並べられたダンボールの数々、少しれるだけでほこりちゅううほどに中身が使用されていないことが分かる。此処には僕以外の人間が近付くことはほとんど無い。来るとすれば清掃係の用務員おじさんか鍵をかけたか確認しに来る教師せんせいのみ。とは言え両者りょうしゃとも確認に来るだけで中に入ることは無い。だから僕は此処を家のように使えて、自分の物も勝手に置いて放課後は大抵たいてい此処で過ごしている。
 僕のかよっている浅川高校あさがわこうこうの校舎は4年前に工事こうじが行われたばかりの新築しんちくだ。それ以前の入学希望者にゅうがくきぼうしゃは3クラス分だったらしいが新築になってからは入学希望者も鰻登うなぎのぼり、僕の入った年は5クラス分出来た。それゆえに図書室やトイレ、講堂こうどういたってまで近未来感あふれる施設しせつとなってしまい、今では何処どこにぎやかだ。だがそんな中でもこの第3準備室だけは静寂せいじゃくに包まれている。
 普段ふだんなら僕は小説を読んで夜まで過ごす。だから今日も友人にオススメされた小説を読んで過ごすつもりだ。いつ誰が何のために買ったのかも分からない学校の大きめのソファーで横になり、コンビニで買ってきた紅茶こうちゃのペットボトルを片手かたてに本を読む。これが僕の日課にっかだ。カーテンの隙間すきまからのぞく太陽のこぼれ日が丁度ちょうどこのソファーに当たり、心地ここちよい暖かさを感じる。こんな優美ゆうびな過ごし方を出来るのは校内どこを探してもここくらいであろう。
「えっと、失礼しまーす⋯⋯」
「え、誰だ?」
「ひっ!」
 ドアから声がしたと思えばクラスメイトの嘉永咲だった。彼女はこちらに気づいた途端とたんおどろいて背を向けてしまった。
「いや、怖がるなよ。僕だ、クラスメイトの加賀だよ」
「あ、加賀くんか! 誰かと思ってビックリしちゃった」
 えへへっと安堵あんどの笑みを見せながら僕に近寄ってくる。今まで気が付かなかったが、意外と可愛いな⋯⋯。モデルのようなやせせた体型には少しダボダボのセーターがマッチしている。身長も至って平均的で顔も整っている上に、黒漆こくしつの長い髪からは清楚感せいそかんただよっている。このりんとした姿を見て何も感じない男子はこの世に居ないだろう。
「こんな所で何してるの?」
「あぁ、放課後は大体此処で過ごしてるんだ」
「へぇー! 本が好きなんだね!」
「まぁね、嘉永さんこそこんな所になにか用事?」
 普通に生活していれば絶対来るはずのないこの部屋に来るなんて不自然極ふしぜんきわまりないからな。
「松崎先生にホチキスの入ったダンボールを第3準備室から持ってくるように頼まれたんだぁ。でもダンボールが多すぎてどれか分からないから、もし良ければ手伝って貰えないかな?」
「全然かまわないよ」
 そういう事か。確かに此処はあくまでも準備室、倉庫のようなものだ。そこに備品を取りに来るのは至って普通だろう。そう思いながら、僕は立ち上がり棚にあるダンボールをかたぱしから開き始めた。
 それから数十分がち、最初は世間話せけんばなしに花を咲かせていた僕達も次第しだいに無口になっていき、教室内はダンボールのれる音しかしなくなっていた。
「ないね、ホチキス」
 僕に気をつかったのか、唐突とうとつに話しかけてきた。そろそろ気まずくなってきたな。早くさが探さないと。
「そうだな、もしかして第2準備室じゃないのか?」
「でも第3って先生言ってたんだけどな⋯⋯」
 埃の被ったダンボールを次々に開けて確認する彼女は少し小さめのダンボールを開けた時、手を止めた。
「あったか?」
「加賀くん、これ見て」
 言われるがままに中身を見てみると、そこに入っていたのはホチキスなんかでらなく、多分備品なんかでもない。浅川高校六不思議あさがわこうこうろくふしぎと書かれた黒いノートだった。
「このノート、なんだろう?」
「多分⋯⋯誰かの悪戯イタズラじゃないか?」
 そう言いつつも恐る恐る開いてみると手書きではなく楷書体かいしょたい印刷いんさつされた文がつづられていた。1ページめくると、『第1の謎・2階の彼岸花』と書かれているだけでその下には何も書かれていない。次のページも、その次も、『第何の謎』と書かれているだけで下は空白まっさらだ。
「最初のページにはなんて書いてあるの?」
 彼女はそう言って最初のページに戻り、読み上げ始めた。
「これは新校舎にある謎を綴ったノートだ。これを見つけた生徒は謎を解明して続きを書いて欲しい。別にオカルトチックな謎なんかじゃない。それだけは言える。だが生憎あいにく、俺はもうすぐ卒業してしまう。だからこの先は君達の様な在校生にこの謎を解き明かして欲しいんだ。最後に言っておくがこれはイタズラなんかじゃない。それだけは確かだ。幸運を祈る」
「要するにアレだろ、ミステリー研究会とかそういうのが作った謎解きだろどうせ」
「そうかな? でも面白そうじゃない?」
「まさか本気で解明させる気か?!」
 彼女は真剣しんけんで真っ直ぐな眼差まなざしを僕に向け、一緒にやらないかとさそってきた。誘いには軽い気持ちで乗ったものの、今すぐに行くなどと無茶むちゃなことを言い始めたから、一旦いったんホチキス入ダンボールを見つけてから先生に届けさせた。これが僕と嘉永咲との最初の交流こうりゅうである。
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