辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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しばしのお別れ

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「えーと、それじゃ、リザさん」

 微妙な空気を振り払って、エメリーンは先ほどぶった切った話を続けることにした。

「リザで良いですよ。エメリーン様」

「そう? じゃあリザ。えーと、先ほどの話の続きだけど」

「あー、ちょっとそろそろ時間が無さそうですね」

 チラリとレイが入口付近を振り返ったことで、エメリーンにもそろそろバアルやセイディが時間を気にしていることに気が付いた。

「それじゃあ手短かに、私が子爵領でやるべきことや、気を付けた方が良い人物など、情報を貰えるかしら?」

「分かりました。口頭では無理なので追ってお知らせします。ちなみに明日はまだ王都にいらっしゃるご予定ですか?」

「ええ、大丈夫よ」

「では、夜になったら窓を少しだけ開けておいて貰えますか? 何か目印もあると助かります」

 どうやらレイは、王都の辺境伯邸に資料を届けてくれるらしい。レイ本人が来るかどうかは分からないが、辺境伯邸の警備を抜けてくる自信がある人物が来るのだろう。エメリーンは、ふと部屋の花瓶に飾られていた花を思い出した。

「そうね。それなら、少しだけ開けた窓に、赤い花を一輪、見えやすいところに置いておくわ」

「はい。それで構いません」

 「じゃあよろしくね」と言いながら、エメリーンは立ち上がった。部屋のドアに向かって歩き始めたとき、押さえた声でレイが「どうぞお気をつけて」と言ったことで、エメリーンはレイとはまたしばらく会えないことが分かった。

「ええ、あなたーーリザも、なるべく怪我をしたりしないようにしてちょうだいね」

 振り返らずに伝えたエメリーンの心配の言葉に対し、レイのくっと笑う声が聞こえた。エメリーンは真面目に受け取られなかったことに不満を感じたが、「分かりました」と続いた言葉に、少しだけ安心した。

 ――さて、子爵領へはどうやって行こうかしら?

 そんなことを考えながら、王都の辺境伯邸に帰るため、馬車の側まで戻ってきたところで、セイディが「あの」と真剣な顔で話し掛けてきた。セイディとバアルは、二人揃ってとても複雑そうな表情でエメリーンを見つめている。

「え? どうしたの?」

「どうしたの、と言いますか……」

「あの使用人とはどのようなご関係ですか? 正直に申し上げて、ヒュ……、旦那様よりも親密そうに見えました」

 言葉を濁したバアルとは違い、セイディはハッキリとエメリーンに苦言を呈した。だが「親密そう」と言われて、思わずエメリーンは嬉しそうな顔をしてしまったのだ。

「え? まさか、本当に?」

「もしかして、想い人がいらしたのに政略結婚でやむなく旦那様と?」

 ――え?

「想い人? 誰が?」

「え? ですから先ほどの使用人のことですが」

「え? ええっ?」

 エメリーンとしては、全く思っても見なかったことを言われて驚いたのだが、エメリーンの反応に二人は驚いたようだ。

「どうやら違うようですね。安心しました」

 本気で心配していたのか、バアルがため息を吐いた。だがセイディは、まだ納得できていないようだ。

「お二人はとても、何というか雰囲気が似ている、というか。とてもただの使用人との関係には見えませんでした」

 セイディの追求の言葉も、エメリーンは何だか嬉しいと思ってしまったが、誤解が増さないように喜びを抑えた。

 ――それにしても、今のレイとは親子ほどの歳の差があるのだけど……。あっ。

 エメリーンは、レイがとても若く見えることを思い出して、セイディに説明した。

「セイディ、彼は、リザはね、とても若く見えるけど実際にはそんなに若くないのよ? 私が2歳の頃から、ずっと身の回りのお世話をしてくれていた人なの」

「は? え? 2歳から、ですか?」

「え? とてもそんな年齢には」

 バアルも気が付いていなかったのか、二人揃って目を丸くしている。

「本当よ。こんなことで嘘はつかないわ。まあ、だから心情的には家族みたいなものよね」

 ――うん。昔も今も、大切な家族だわ。

「そう、ですか……。分かりました」

 どうやらセイディも納得してくれたらしいとエメリーンは安堵した。別邸のある方を振り返って、エメリーンはつい名残惜しい心情になったが、エメリーンの帰りを心から待ってくれているであろう存在のことを思い出して、未練を振り払うことができた。

 ルイのことを考えたエメリーンは、知らず知らずのうちに微笑んでいた。

「さあ、じゃあ帰りましょうか。何だかとても、ルイ様に会いたくなっちゃったわ」

「はい、そうしましょう」

「きっとルイ様も、首を長くしてお待ちですよ」

 バアルやセイディは、エメリーンが自分たちの良く知る、いつもの明るいエメリーンに戻ったように感じて内心ホッとしていた。

 子爵家でのエメリーンの扱いについて報告する際、子爵家にエメリーンが家族のように慕っている使用人がいることも、ヒューバートに報告しておこうと、二人はそれぞれ思っていたのだった。
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