辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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秘密の話とケーキ

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 声を潜めたヒューバートに対して、王太子夫妻はティーカップを手にしたり、何気ない雰囲気で聞いている。秘密の話など何もしていないという演技が自然で、エメリーンは感心した。

 ――やっぱり王族の方は、こういうことにも慣れているのね。

 今この場には、お互いに信頼できるものしか同席していないはずだが、それでもヒューバートが声を潜めたのは、念には念を入れてのことだろう。

 ヒューバートたちが、旅行でオルクス領に向かうことは、なるべく事前に知られない方が良い。

 オルクス子爵領内にある子爵邸への先触れも、ヒューバートたちが着く直前に届けるように手配してあるのだ。

 そうして欲しいと願ったのはエメリーンだが、ヒューバートも「それで問題ないだろう」と賛同してくれた。ヒューバートは「面白そうだな」と悪い顔をして呟いていたが、エメリーンも同意だった。

「それは、何とも都合が良いタイミングですが……。でも、せっかくの家族旅行に水を差してしまうのは申し訳ないですね」

 そんなことを言っている場合では無いと思うのだが、ファビアンは先ほどのヒューバートのぼやきを気にしているようだ。

「ええ、本当に申し訳ないですわ」

 オリヴィアもそう言って、王太子夫妻は揃って「困ったわ」「困ったね」と言い合っている。

 二人はチラリともエメリーンを見てはいないのに、何か圧力を感じたエメリーンだったが、先ほどヒューバートに黙っているようにと怒られたことを思い出して、鈍感なフリをした。

 静かな戦いに決着をつけるのは、ヒューバートの役目だ。エメリーンはそう開き直って、再びあの赤い花びらで飾られたケーキに手を伸ばした。

 ーーうん。食べ過ぎなのは分かっているから、そんなに見つめないで欲しいわ。

 先ほどまでは、あえてエメリーンを見ていなかったファビアンとオリヴィアが、エメリーンの食欲に目を丸くして見つめてくるのは何だか微妙な気分だ。

 ついでに、何故だかヒューバートが嬉しそうな顔でエメリーンを見つめているのにも気が付いて、エメリーンがヒューバートを睨んだ。

「……旦那様?」

 ――大切な話の途中で、ぼんやり私を眺めている場合じゃないでしょ?

 大切な話の途中で、ケーキを頬張っているのはエメリーンなのだが、エメリーンの言わんとしたことがヒューバートには伝わったらしい。

 ゴホッと軽く咳払いをして、ヒューバートがファビアンに向き直った。

「……ファビアン様、オルクス子爵領で調べることの確認ですが、まずは金の流れでしょうか?」

「うん。そうだね」

「出入りしている悪党の情報はすでに掴んでいるので、その確認と、あとは情報元……」

「心当たりがあるのかな?」

 不意に表情が暗くなったヒューバートを見逃さず、追及してきたファビアンに、ヒューバートは首を横に振った。

「いや、もう少し調べてみないことには何とも……。調査が終わったら、包み隠さず報告します」

 どうやらヒューバートには思い当たることがあったようだ。確かに、先ほどの資料を作ることができる人物は、きっと限られるだろうとエメリーンにも分かった。

「じゃあ、お願いするよ。……こちらからも人員を出そうか?」

 資料の中にあった辺境伯領の兵士の数を思い出したのか、ファビアンがそう提案したが、ヒューバートはニヤリと不敵に笑った。

「不要です。一騎当千のわが兵士たちの実力が、あんな紙切れ一枚で伝わるわけがありません。……もしあの資料を元に、愚か者たちがダイナリア辺境伯領に足を踏み入れたときは、その日がその者たちの命日となるでしょう」

「そう。それは頼もしいね。本当は少し心配していたのだけど、その言葉で安心したよ」

 ヒューバートの言葉に、ファビアンが深く頷いた。話の内容と男二人の醸し出す迫力に押されたのか、オリヴィアは少し青ざめている。

 エメリーンは、最後にもう一つケーキに手を伸ばそうとしたが、さすがに思い留まった。代わりにティーカップの紅茶をコクリと飲んで、密やかに微笑む。

 ――これで、私が調べたかったことも、旦那様と一緒に調べられるわね。

 どうなることかと思っていた王太子夫妻とのティーパーティだが、思わぬ助けとなったことにエメリーンは大満足だ。

 ――ルイ様は、子供たちのお茶会を楽しめているかしら?

 エメリーンは、ルイが自身と同じく、お茶会よりも、ほぼケーキを楽しんで過ごしているとは、思いもよらずにいたのだった。
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