辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

文字の大きさ
131 / 155

嘘から出たまこと

しおりを挟む
 さてどうしようと考えて、エメリーンはふとあることに気が付いた。

 ーーあら? ちょっと待って。良く考えたら、ナパール湖で亡くなった人って私とは限らないんじゃない? ……そうよ。あれから20年も経っているんだもの。その間に他の人があそこで亡くなっていたとしても何の不思議もないわ。そもそも、私がサイラスの『大切な方』だなんて、ちょっとおこがましい妄想よね。……嫌だ、恥ずかしい。勘違いで泣くなんて、恥ずかしいわ。……まあ、もしかしたらってこともあるし、今度サイラスにあったら、さりげなく誰のことか聞いてみよう。あ、っていうか、ごまかさないといけない状況なのは、変わらないんじゃない?

 あれこれ考えた結果、つい泣いてしまったけど勘違いかもしれないと結論付けたエメリーンは、すっかり涙も止まり冷静さを取り戻した。

「ごめんなさい、驚かせてしまって。……あの、私、もし自分が大切な人を喪ってしまったらと想像してしまって……」

「「「え?」」」

 エメリーンの言葉に疑問の声があちこちから上がった。かなり無理がある言い訳だ。そう思いながらも、エメリーンは話を続けた。

「その、私は今まで家族に恵まれてこなかったから、だからもし、旦那様やルイ様を喪ったら……っ」

 そんな想像をしながらルイの名前を口にしたところで、エメリーンの目から再び涙が溢れた。

 ーーえ? ルイ様を喪ったら、なんて、そんなの本当にあり得ない……。

 嘘から出たまこと、というべきか。もしもそんなことがあったらと想像しただけで、エメリーンの涙腺は崩壊した。おそらく先ほどの涙で緩くなっていたせいもあるだろうが、死というものがそう遠いところにあるわけではないことを、改めて思い出したせいだ。

 ――結局アントスとも接触してしまったものね……。

「いえ、そんなことは絶対にあり得ないし、そんなことはさせないわ。何があってもルイ様のことは私が守ります」

 涙を流しながらも力強く言い切ったエメリーンに、ウィローや執事長、使用人たちが呆気に取られている。

 ーーあら? これって、何とかなったんじゃない?

 エメリーンにとっても予想外のことだったが、サイラスの話の流れでエメリーンが涙を流した不自然さは、払拭されたのではないだろうか。エメリーンは心の片隅に残っていた冷静な部分でそう思いながら、涙を拭った。

「……ごめんなさい。何度も」

 ほう、と息を吐いたエメリーンを気遣って、執事長が座るように促した。「ありがとう」と答えてエメリーンが椅子に座ると、ほぼ同時にウィローが冷たい水を差し出す。

「エメリーン様は、今のご家族のことをとても大切に思っていらっしゃるのですね」

「ええ、本当に」

 ウィローの言葉に同意の言葉を重ねたのは執事長だ。穏やかな二人が、たったそれだけの会話でざわついた室内を鎮めた。全員が納得したかどうかは不明だが、とりあえずそれでこの話を終わりにしようとしているのは明らかだ。

「エメリーン様、こちらをご使用ください」

 いつの間に用意したのか、エメリーンに冷たいタオルを差し出したのはバアルだ。

「こちらで瞼を冷やせば、旦那様がいらっしゃるまでに少しは赤みが引くかと思います」

「そうね。ありがとう。……手を煩わせてごめんなさい」

 バアルにも謝罪の言葉を述べると、それにバアルが軽く両手を上げて否定した。

「いえいえ。何も。奥様にはこんな繊細なところもあったのかと、驚きはしましたが」

「っ」

「っと、これは軽口が過ぎました。すみません」

 謝りながらも笑っているバアルの姿に、エメリーンの気持ちも浮上してきた。苦笑いを浮かべて、エメリーンが呟く。

「もうルイ様に何かあったら、の想像はやめておくわ」

「はい。そうしましょう。自分も何もないように努めますし、万が一の時も自分や兵士たちが、ルイ様を全力でお守りします」

 「ええ、よろしくね」と答えながら、エメリーンは今度はしっかりと笑うことができた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜

黒崎隼人
ファンタジー
ブラック企業で過労死したシステムエンジニアの茅野蓮は、豊穣の女神アリアによって剣と魔法のファンタジー世界へ転生する。 彼に与えられた使命は、呪われた「嘆きの荒野」を開拓し、全ての種族が手を取り合える理想郷を築くこと。 女神から授かったチート神具「ガイアの聖クワ」を一振りすれば、枯れた大地は瞬時に極上の黒土へと変わり、前世の知識と魔法の収納空間を駆使して、あっという間に規格外の美味しい作物を育て上げていく。 絶品の「ポトフ」で飢えたエルフの少女を救ったことを皮切りに、訳ありの白狼族の女戦士、没落した元公爵令嬢、故郷を失った天狐の巫女、人間に囚われていた翼人族の少女など、行き場を失った魅力的なヒロインたちが次々と彼の農園に集まってくる。 蓮が作る「醤油」や「マヨネーズ」などの未知の調味料や絶品料理は、瞬く間に世界中の胃袋を掴み、小さな農園はいつしか巨大な経済網を持つ最強の都市国家へと発展していく! 迫り来る大商会の圧力も、大国の軍勢も、さらには魔王軍の侵攻すらも、蓮は「美味しいご飯」と「農業チート」で平和的に解決してしまう。 これは、一本のクワを握りしめた心優しい青年が、傷ついた仲間たちと共に美味しい食卓を囲みながら、世界一豊かで幸せな国家「アルカディア連邦」を創り上げるまでの、奇跡と豊穣の異世界スローライフ!

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます

由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。 だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。 そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。 二度目の人生。 沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。 ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。 「今世は静かに生きられればそれでいい」 そう思っていたのに―― 奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。 さらにある日。 皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。 「沈薬は俺の妃だった」 だが沈薬は微笑んで言う。 「殿下、私は静王妃です」 今の関係は―― 皇叔母様。 前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。 それを静かに守る静王。 宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

処理中です...