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後方からの景色
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ようやく食事を終えた兵士たちが、ぞろぞろとダイニングから退出してきた。エメリーンがそっと彼らの視界から身を隠したのは、エメリーンをこんなところで待たせていたのかという、余計な心労を与えたくなかったからだ。
ーー私がここから離れがたかっただけ。こんなところで待っている方が悪いんだもの。でもそれを一人一人に説明する訳にもいかないしね。
そんなことを思いながら、エメリーンは各部屋に戻っていく兵士たちの背中を見守っていた。兵士たちは肩を落とし、悲壮感が漂っている。
ーーお腹がいっぱいになれば、多少のことは忘れられるものだと思っていたけれど。そういう訳でもなさそうね。
「奥様、下りてきてください。旦那様がいらっしゃいます」
こそっとバアルに声を掛けられて、エメリーンは慌てて天井隅から飛び降りた。
「奥様、猫じゃないんですから。ひょいひょい壁を登らないでください」
呆れたようなバアルの口調に、エメリーンが決まりが悪そうに肩を竦めた。
「悪かったわ。でも急いで隠れられるような場所が、他になかったんだもの」
「無いようにしているんですよ。……でも、誰も奥様に気が付きませんでしたね。いつもなら2、3人は気が付いたはずですが……」
バアルが眉を顰めた意味がエメリーンにも分かった。兵士たちを悩ませているものが何かは分からないが、警戒心まで下がっている状況はあまり良くない。
「何はともあれ、旦那様に話を聞いてからよね。またバアルの部屋で良いのかしら?」
「はい、そうですね。ああ、いらっしゃいましたよ」
どうやら食事は何とか喉を通ったのだろう。少しだけ顔色が良くなったように見えるヒューバートの姿に、エメリーンはホッと胸を撫で下ろした。
「……何だ? 私の顔に何か付いているだろうか?」
ヒューバートの顔色を見て表情を緩めたエメリーンに、ヒューバートが首を傾げた。
「いえ、何も付いていませんわ。顔が良いと思っただけです」
「は?」
「ああ、間違えました。顔色が良い、ですね。まあ、顔も良いですが」
そう言って笑ったエメリーンは、「さあ、行きましょうか」とヒューバートに背を向けて歩き出した。エメリーンの背中を見つめて目を丸くしていたヒューバートが、くつりと笑ってその背中を追い掛ける。
「エメリーン、私はそんなに顔が良いだろうか?」
「ええ、顔色も顔もどちらもだいぶ良いですよ」
「だいぶとは、どのくらいだろうか」
「え、だいぶはだいぶですけど」
くだらない会話をしながら歩いている二人を見守りながら、バアルと執事長や護衛の兵士たちも、少し表情が和らいでいた。
さらにそこから離れた後方で、ようやく今夜の仕事を終えたウィローがポツリと呟く。
「お二方は思っていたより仲が良さそうね。もしものことを想像しただけで、思わず涙を流すほど、って、どんだけかしら。……まあ、せっかくわたしたちが長年見守り続けたお嬢様だもの。このまま幸せになってくれれば良いけど」
ウィロー(ヤナゼ)のその独り言は、誰にも聞かれてはいけないものだ。だからそれを聞くものも、その後ろ姿を覗き見るものもいなかったことは間違いない。
ふ、と微笑んだウィローの表情は、この邸宅にいる誰も見たことがないほど優しいものだった。
ーー私がここから離れがたかっただけ。こんなところで待っている方が悪いんだもの。でもそれを一人一人に説明する訳にもいかないしね。
そんなことを思いながら、エメリーンは各部屋に戻っていく兵士たちの背中を見守っていた。兵士たちは肩を落とし、悲壮感が漂っている。
ーーお腹がいっぱいになれば、多少のことは忘れられるものだと思っていたけれど。そういう訳でもなさそうね。
「奥様、下りてきてください。旦那様がいらっしゃいます」
こそっとバアルに声を掛けられて、エメリーンは慌てて天井隅から飛び降りた。
「奥様、猫じゃないんですから。ひょいひょい壁を登らないでください」
呆れたようなバアルの口調に、エメリーンが決まりが悪そうに肩を竦めた。
「悪かったわ。でも急いで隠れられるような場所が、他になかったんだもの」
「無いようにしているんですよ。……でも、誰も奥様に気が付きませんでしたね。いつもなら2、3人は気が付いたはずですが……」
バアルが眉を顰めた意味がエメリーンにも分かった。兵士たちを悩ませているものが何かは分からないが、警戒心まで下がっている状況はあまり良くない。
「何はともあれ、旦那様に話を聞いてからよね。またバアルの部屋で良いのかしら?」
「はい、そうですね。ああ、いらっしゃいましたよ」
どうやら食事は何とか喉を通ったのだろう。少しだけ顔色が良くなったように見えるヒューバートの姿に、エメリーンはホッと胸を撫で下ろした。
「……何だ? 私の顔に何か付いているだろうか?」
ヒューバートの顔色を見て表情を緩めたエメリーンに、ヒューバートが首を傾げた。
「いえ、何も付いていませんわ。顔が良いと思っただけです」
「は?」
「ああ、間違えました。顔色が良い、ですね。まあ、顔も良いですが」
そう言って笑ったエメリーンは、「さあ、行きましょうか」とヒューバートに背を向けて歩き出した。エメリーンの背中を見つめて目を丸くしていたヒューバートが、くつりと笑ってその背中を追い掛ける。
「エメリーン、私はそんなに顔が良いだろうか?」
「ええ、顔色も顔もどちらもだいぶ良いですよ」
「だいぶとは、どのくらいだろうか」
「え、だいぶはだいぶですけど」
くだらない会話をしながら歩いている二人を見守りながら、バアルと執事長や護衛の兵士たちも、少し表情が和らいでいた。
さらにそこから離れた後方で、ようやく今夜の仕事を終えたウィローがポツリと呟く。
「お二方は思っていたより仲が良さそうね。もしものことを想像しただけで、思わず涙を流すほど、って、どんだけかしら。……まあ、せっかくわたしたちが長年見守り続けたお嬢様だもの。このまま幸せになってくれれば良いけど」
ウィロー(ヤナゼ)のその独り言は、誰にも聞かれてはいけないものだ。だからそれを聞くものも、その後ろ姿を覗き見るものもいなかったことは間違いない。
ふ、と微笑んだウィローの表情は、この邸宅にいる誰も見たことがないほど優しいものだった。
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