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プロローグ
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高くそびえる天井から差し込む陽の光が、色とりどりのステンドグラスを通って華やかに舞い降り、祭壇の前に立つ花嫁――エメリーンの纏った純白のベールを虹色に染めていた。その姿はステンドグラスの光を受けてまるで天使のように輝いていたが、参列者たちはベールの下に隠された花嫁の顔も表情も知らないまま、ただ儀式の荘厳さに見とれるばかりであった。
王都の大聖堂で行われているその結婚式は、本来ならば王都中の注目を集めてもおかしくないものであるはずなのに、意外なほど参列者が少なかった。
この結婚式の主役の一人、花婿である辺境伯ヒューバート・ダイナリアは、このイルミナ国で知らぬものはいないほどの有名人だ。
『彫刻のように端正なその姿が眩い金の髪と青い瞳で彩られたとき、まるで神話の中の男神が現代に現れたかのような、そんな人々を魅了してやまない彼の存在感に、私は呼吸をすることも忘れてしまった』とは、彼が21歳のときに王都新聞の記者パメラが綴った有名な一節である。
それから5年後、そのヒューバートの二度目の結婚式は、必要最低限の参列者の前で、辺境伯の婚礼としては少々地味に行われている。
相手はしがない子爵家の令嬢、エメリーン・オルクス。辺境伯に嫁ぐにはあまりにも家格が足りないのだが、結婚式の様子を見る限り、熱愛の末というわけでもないようだと参列者たちは思っていた。
辺境伯夫人の長期不在を国の上層部が懸念し、ヒューバートに再婚を強く推し進めていた。それを断り続けることを面倒に思ったヒューバートが、御し易い身分の娘を後妻に望んだのだろうと見識あるものたちはそう見抜いていた。
「まあ、いくら辺境伯夫人とはいっても、今のあの方に愛する娘を託したいと思う上位貴族はいないだろう」
「そうですわよね。たとえ愛する娘でなければ、という野心家な方がいたとしても、それでもさすがに、外聞を考えると難しいのではなくって?」
「よほどお金に困っているとか、訳ありでないと……ねえ?」
振りまかれるヒューバートの笑顔はとても美しく、幸せな結婚を心から喜んでいるように見えるのに、その目が花嫁に向けられることはない。
そしてまた、ベールに隠された花嫁の表情は、誰の目にも映らなかった。肩にちょうど掛かる長さの栗色の髪で、どちらかといえば小柄。だが参列者たちは、その花嫁がよくある黒い瞳をしていることすら知らないままだった。
かくして、『お金に困りきっているオルクス子爵家の、家族に愛されていない次女が、あの辺境伯へ嫁いだ』という限りなく真実に近いうわさは、あっという間に王都中に広がったのだった。
だが王都の人々は――いや、花婿であるヒューバートも花嫁であるエメリーンですら、これから起こる辺境伯領での日々について正しく推測することはできなかった。
『は? それってどんなクズですか? ご自分でもクズだと思いませんか? いくら何でもクズ過ぎませんか? クズを極めたい夢でもお持ちですか? すでに極めているようにも見えますけど、さらなるクズ――クズの王様でも目指しているんですか? 頑張ってくださいね、ってどなたか応援でもしてくれているんですか?』
一体、何があったらそんな叱責の言葉を浴びることになるのか。ベールの中に包まれた大人しい花嫁の口から、どんな大舞台でも余裕綽々としている花婿への、手厳しい言葉の数々が飛び出すその未来は、王都の見識ある人々でさえ誰一人想像すらできなかった。もしかしたら、数いる占い師の一人くらいはまぐれ当たりを起こしていたかもしれないが、その占い結果は誰にも相手にされなかったに違いない。
それでも王都の人々の目に見えているものは、結果としては正しいのかもしれない。『この夫婦が幸せになるのは困難だろうな』とは、誰もが単純に思ったことだった。
王都の大聖堂で行われているその結婚式は、本来ならば王都中の注目を集めてもおかしくないものであるはずなのに、意外なほど参列者が少なかった。
この結婚式の主役の一人、花婿である辺境伯ヒューバート・ダイナリアは、このイルミナ国で知らぬものはいないほどの有名人だ。
『彫刻のように端正なその姿が眩い金の髪と青い瞳で彩られたとき、まるで神話の中の男神が現代に現れたかのような、そんな人々を魅了してやまない彼の存在感に、私は呼吸をすることも忘れてしまった』とは、彼が21歳のときに王都新聞の記者パメラが綴った有名な一節である。
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「まあ、いくら辺境伯夫人とはいっても、今のあの方に愛する娘を託したいと思う上位貴族はいないだろう」
「そうですわよね。たとえ愛する娘でなければ、という野心家な方がいたとしても、それでもさすがに、外聞を考えると難しいのではなくって?」
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振りまかれるヒューバートの笑顔はとても美しく、幸せな結婚を心から喜んでいるように見えるのに、その目が花嫁に向けられることはない。
そしてまた、ベールに隠された花嫁の表情は、誰の目にも映らなかった。肩にちょうど掛かる長さの栗色の髪で、どちらかといえば小柄。だが参列者たちは、その花嫁がよくある黒い瞳をしていることすら知らないままだった。
かくして、『お金に困りきっているオルクス子爵家の、家族に愛されていない次女が、あの辺境伯へ嫁いだ』という限りなく真実に近いうわさは、あっという間に王都中に広がったのだった。
だが王都の人々は――いや、花婿であるヒューバートも花嫁であるエメリーンですら、これから起こる辺境伯領での日々について正しく推測することはできなかった。
『は? それってどんなクズですか? ご自分でもクズだと思いませんか? いくら何でもクズ過ぎませんか? クズを極めたい夢でもお持ちですか? すでに極めているようにも見えますけど、さらなるクズ――クズの王様でも目指しているんですか? 頑張ってくださいね、ってどなたか応援でもしてくれているんですか?』
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