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家族ごっこ
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そして今、テーブルに並ぶ家族と全く同じ料理を見つめてエメリーンは考え込んでいた。
――余計なことを言ったら怒られるかしら。
「あの……これは一体?」
「エメリーン、待っていたぞ。さあ、座れ座れ」
非常に機嫌の良い父がエメリーンに座るように勧め、にこやかな笑顔で義母がワインの入ったグラスを持つよう促した。
――えっ? どういうことかしら。
内心動揺しているエメリーンに向かって、満面の笑みを浮かべている義母がワイングラスを掲げた。そのワイングラスの中では、赤ワインが揺れている。
「さあ、乾杯しましょう。今日はお祝いですからね」
「お祝い?」
「ええ、そうよ」とエリナーにも良い笑顔を向けられて、エメリーンは戸惑った。
さすがにもう、家族の輪に入れたような、そんな気になれるほどおめでたくはない。12年も昔のことなど三人はとうに忘れているのだろうが、義母の戯れで初めて行われた『家族ごっこ』を、エメリーンが忘れることはない。
わずか6歳の子供の心を弄んだその遊びは、この歪んだ家族にぴったりの悪質なものだ。
2歳で母を亡くして父に引き取られたエメリーンは、家族とのふれあいに飢えていた。エリナーに悪口の限りを浴びせられていた頃、義母に優しく微笑まれて、そっと抱きしめられ、今まで構わずにいた謝罪を告げられたのだ。
抱きしめられたその温もりを幼いエメリーンが信じたのは、決してエメリーンが愚かだったからではないだろう。義母だけではなく、父もエリナーもその日は優しく、エメリーンはただただ嬉しかった。
「ねえ、エメリーン。そのルビーのネックレス、とても綺麗ね」
義母がエメリーンの目の前にしゃがんで、微笑みながら言った。その手入れの行き届いた美しい指が指しているのは、エメリーンの胸元だ。
小さな丸いルビーのついたネックレスは、幼いエメリーンがずっと身に付けていたものだった。父がエメリーンを迎えに来た時も、このネックレスが決め手になったのだと聞いたことがある。要するに、父がエメリーンの実母にプレゼントしたものだったのだろう。
「その赤いルビー、私の髪の色によく似ていると思わない?」
義母の艶やかな赤髪と、自身の胸元で輝くルビーを交互に見て、エメリーンは頷いた。
「ほんとうだ、お義母さまとおそろいですね」
エメリーンは無邪気にそう答えた。義母と同じ色を身に付けているのが、本当に嬉しいと思ったからだ。
そのエメリーンの言葉を聞いて、義母はさらに口角を上げて微笑んだ。
「エメリーン、そのルビーのネックレス、私には似合わないかしら?」
「え? ぜったいに似合います。だってかみの色とおそろいですから」
「じゃあ、試しに付けてみてもいい?」
「ええ?」
義母はいつももっと大きな宝石を身に付けている。イヤリングや指輪、もちろんネックレスもたくさん持っているのに、どうしてこんな小さなルビーが付いたネックレスを付けてみたいと言っているのか。その時のエメリーンは、そんなことを疑問にも思わず、好意的に考えた。
――お義母さまが、わたしの持っているネックレスをすてきだと思ってくださっているなんて、うれしい。
「どうかしら?」
エメリーンが差し出したネックレスを手早く自分の首元に当てた義母に、エメリーンは疑問にも思わず「とても似合います。やっぱり同じ色ですね」と喜んだ。
すると、鏡をチラリと見た義母はエメリーンを見下ろしながら言ったのだ。
「ねえ、エメリーン。私、このネックレスがとても欲しくなってしまったわ」
今となっては、あれは間違いだったとエメリーンにも分かっている。義母はただ、父がエメリーンの実母にプレゼントしたネックレスが――それを身に付けているエメリーンのことも、許せなかったのだろう。
だが当時のエメリーンは、そのネックレスを取り上げることが義母の狙いだとは思いもしなかったのだ。
そしてエメリーンが義母を喜ばせた翌日、義母や父、そしてエリナーの態度は、元通りの冷たいものに戻ってしまった。『家族ごっこ』は一日限定だったのだ。
前日にうれしかった分だけ、エメリーンはつらくて仕方がなかったが、エメリーンの涙を見てエリナーはとても喜んでいた。皮肉なことに、エリナーの嬉しそうな顔を見て、エメリーンの涙は驚いて止まったのだ。
「お母さまは私だけのお母さまなの。もちろんお父さまもよ。ちょっとやさしくされたからって、かんちがいしないでほしいって、お母さまも言っていたわ。平民のくせにって」
「かんちがい……」
――余計なことを言ったら怒られるかしら。
「あの……これは一体?」
「エメリーン、待っていたぞ。さあ、座れ座れ」
非常に機嫌の良い父がエメリーンに座るように勧め、にこやかな笑顔で義母がワインの入ったグラスを持つよう促した。
――えっ? どういうことかしら。
内心動揺しているエメリーンに向かって、満面の笑みを浮かべている義母がワイングラスを掲げた。そのワイングラスの中では、赤ワインが揺れている。
「さあ、乾杯しましょう。今日はお祝いですからね」
「お祝い?」
「ええ、そうよ」とエリナーにも良い笑顔を向けられて、エメリーンは戸惑った。
さすがにもう、家族の輪に入れたような、そんな気になれるほどおめでたくはない。12年も昔のことなど三人はとうに忘れているのだろうが、義母の戯れで初めて行われた『家族ごっこ』を、エメリーンが忘れることはない。
わずか6歳の子供の心を弄んだその遊びは、この歪んだ家族にぴったりの悪質なものだ。
2歳で母を亡くして父に引き取られたエメリーンは、家族とのふれあいに飢えていた。エリナーに悪口の限りを浴びせられていた頃、義母に優しく微笑まれて、そっと抱きしめられ、今まで構わずにいた謝罪を告げられたのだ。
抱きしめられたその温もりを幼いエメリーンが信じたのは、決してエメリーンが愚かだったからではないだろう。義母だけではなく、父もエリナーもその日は優しく、エメリーンはただただ嬉しかった。
「ねえ、エメリーン。そのルビーのネックレス、とても綺麗ね」
義母がエメリーンの目の前にしゃがんで、微笑みながら言った。その手入れの行き届いた美しい指が指しているのは、エメリーンの胸元だ。
小さな丸いルビーのついたネックレスは、幼いエメリーンがずっと身に付けていたものだった。父がエメリーンを迎えに来た時も、このネックレスが決め手になったのだと聞いたことがある。要するに、父がエメリーンの実母にプレゼントしたものだったのだろう。
「その赤いルビー、私の髪の色によく似ていると思わない?」
義母の艶やかな赤髪と、自身の胸元で輝くルビーを交互に見て、エメリーンは頷いた。
「ほんとうだ、お義母さまとおそろいですね」
エメリーンは無邪気にそう答えた。義母と同じ色を身に付けているのが、本当に嬉しいと思ったからだ。
そのエメリーンの言葉を聞いて、義母はさらに口角を上げて微笑んだ。
「エメリーン、そのルビーのネックレス、私には似合わないかしら?」
「え? ぜったいに似合います。だってかみの色とおそろいですから」
「じゃあ、試しに付けてみてもいい?」
「ええ?」
義母はいつももっと大きな宝石を身に付けている。イヤリングや指輪、もちろんネックレスもたくさん持っているのに、どうしてこんな小さなルビーが付いたネックレスを付けてみたいと言っているのか。その時のエメリーンは、そんなことを疑問にも思わず、好意的に考えた。
――お義母さまが、わたしの持っているネックレスをすてきだと思ってくださっているなんて、うれしい。
「どうかしら?」
エメリーンが差し出したネックレスを手早く自分の首元に当てた義母に、エメリーンは疑問にも思わず「とても似合います。やっぱり同じ色ですね」と喜んだ。
すると、鏡をチラリと見た義母はエメリーンを見下ろしながら言ったのだ。
「ねえ、エメリーン。私、このネックレスがとても欲しくなってしまったわ」
今となっては、あれは間違いだったとエメリーンにも分かっている。義母はただ、父がエメリーンの実母にプレゼントしたネックレスが――それを身に付けているエメリーンのことも、許せなかったのだろう。
だが当時のエメリーンは、そのネックレスを取り上げることが義母の狙いだとは思いもしなかったのだ。
そしてエメリーンが義母を喜ばせた翌日、義母や父、そしてエリナーの態度は、元通りの冷たいものに戻ってしまった。『家族ごっこ』は一日限定だったのだ。
前日にうれしかった分だけ、エメリーンはつらくて仕方がなかったが、エメリーンの涙を見てエリナーはとても喜んでいた。皮肉なことに、エリナーの嬉しそうな顔を見て、エメリーンの涙は驚いて止まったのだ。
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