辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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ご機嫌な家族たち

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 エメリーンが最後に家族と食事をともにしたのは、一体いつのことだったか。

 ――あれは確か、川辺で咲く黄色い花の話をしたときだったかしら。王都で発生していた流行り病についての話だった気もするけれど。

 そんな話をしたことは覚えているが、エメリーンはそれがいつだったかは思い出せない。あれは何年前のことだったか。ともかく、それほど遠い日のことだった。

 ダイニングルームの中心にあるテーブルには、子爵である父フリッツ・オルクスと義母コンスタンス、そして義姉のエリナーがすでに着席している。美しいドレープのあるテーブルクロスの上には、銀製のキャンドルスタンドが並び、エメリーンの目に家族――父と義母と義姉の、明るい表情が良く見えた。

 ――何だかお父様もお義母様も、お義姉様まで機嫌が良さそうね。

 家族のものと同様に、エメリーンの席にもローストビーフに色鮮やかなグリル野菜、クリームスープに焼き立ての香りが漂うパン、そしてデザートのフルーツタルトが用意されている。

 ――あら? 私の分もあるみたい。

 派手で贅沢な生活を好むという点で、父と義母と義姉はとても良く似ていた。その基準からすると今日の食事内容は控えめな方だとは思うが、エメリーンの食事としては滅多にないと言えるほど豪華なものだ。同じテーブルに着き、その上、父たちと全く同じ料理内容がエメリーンの前にも並んでいるのは、とても珍しいことだった。

 ――どういうことかしら?

 エメリーンは王都のオルクス子爵邸――いや子爵邸の離れにある別邸、とは名ばかりの小屋のような小さな家で暮らしており、侍女すら付いていなかった。だが掃除や洗濯などは、エメリーンのいない時間を狙って行われており、不自由には感じなかった。使用人たちの姿を見ることは滅多になかったこともあり、必要最低限の関わりしかなく、エメリーンは彼らのただの一人の名前も覚える機会なく過ごしていた。エメリーンが幼い頃からずっとそうだったので、父か義母がそのように指示しているのだろうと、エメリーンはそのことを疑問にも思っていなかった。

 普段の食事は、おそらく使用人たちと同様のものだろうが、一日二回エメリーンの家に運ばれてきた。食器は洗って置いておくと、次の食事と入れ替わりで下げられていて、これもまたそういう指示が出ているのだろうとエメリーンは思っていた。

 幼い頃には時々、義母や義姉から「今日は食事抜きよ」と冷たく言われることがあったのだが、実際にはエメリーンが食事抜きだったことは、一日どころか一食たりともなかった。

 服や靴は義姉のおさがりなのか、不足はなかったが少々派手なものが多く、エメリーンには似合わなかった。勉強道具も義姉のおさがりの教科書があり、教師がいないので時間が掛かったが、文字を覚えることから少しずつ進めた。教科書に混ざって、裁縫の仕方や畑仕事や草花についてなど、いろいろな種類の本も混ざって渡されたのは、もしかしたら使用人たちの配慮だったのかもしれない。

 裁縫の本を読んでしばらくして、食事を持ってきた使用人にお願いしたら裁縫道具を貰えたので、派手なフリルや飾りを外したりして、シンプルな服装で過ごせるようになって嬉しかった。

 草花の本だけではなく虫や魚の本を貰ったせいか、オルクス子爵邸の裏庭にある池がエメリーンのお気に入りの場所になった。小さな魚が涼しげに泳ぐ姿を四六時中眺めているのは、とても楽しい時間だった。

 そんな環境にありながら、エメリーンが寂しさを感じなかったのは、人との関わりは面倒なものだと思っていたからだ。エメリーンの元に訪れる人と言えば、ほぼ義姉であるエリナーだった。エメリーンのことを罵るのが趣味のようなエリナーは、新しい暴言を覚えたらエメリーンに聞かせにきているのではないかと思うほど、ちょくちょくエメリーンに会いに来ていた。

 エリナーの良いところは、どれだけ悪口を重ねても手は出さないところだ。だが渾身の悪口を持ってきても、エメリーンが特に反応を見せなくなってからは、つまらなくなったのか会いに来ることが減っていった。それはもう、12年も昔のことだ。あまりに衝撃的なことがあった時期なので、エメリーンも覚えている。
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