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朝めし前のできごと
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「わあっ! いっぱい! 回るっ!」
回るという言葉に嬉しそうに反応したルイに、エメリーンが慌てて告げる。
「ああ、いえ、ごめんなさいルイ様。今日は縦ではなく、横に回りましょう」
「よこ?」
抱えた子猫ごと首を傾げたルイの可愛らしさに、ついに侍従か兵士から「ぐぅ」という声が漏れた。表情から、たぶん女性兵士のセイディだろう。だが自身も危なかったエメリーンは、気が付かなかったフリをした。
「回るのにまず覚えていただきたいのは、目線の持っていき方です」
「めせん?」
「はい」と答えながら、エメリーンはルイから子猫を預かって、控えていた侍従に手渡す。
「ルイ様は完成形を見た方が、習得が早いので、見ていてくださいね」
グッと一瞬沈み込んだエメリーンの身体が、真ん中に一本芯が通ったかのようにクルクルと回る。その数、5回。
「うわぁ」と目を輝かせたルイと同時、控えていた兵士や侍従からも、ざわっと反応があった。だが、エメリーンが見ているのはルイの反応だけだ。
ーー良かった。興味を持ってもらえたみたいね。
『面白そう』『やってみたい』、とより興味を引いたものほど、ルイの習得は早い。
「くるくるくるくるっ、てなったの。すごいっ!」
興奮してぴょんぴょん飛んでいる無邪気なルイに、エメリーンが笑いかける。
「ルイ様、じゃあやってみましょうか」
「うん! やりたいっ!」
縦ではなく、横に回ることから始めたのは、危険性が少し減らせるからだ。もちろん補助付きで、縦回りの練習をすることはできるが、もう少し身体の使い方を掴んでからの方が良いとエメリーンは判断した。
ルイの側に付いている兵士たちも有能ではあるが、万が一にでも、ルイが頭から落下するような可能性は防がなければならない。
「んーと、エメリーンさまのお顔がずっと見えてたから、んー?」
大きく首を傾げたルイに、エメリーンが話しかけた。
「どうしましたか? ルイ様」
「えっと……。エメリーンさまの首、どうなってたかな? あれ?」
首を右や左にちょこちょこ動かしながら、ルイが「あれ? あれ?」と唸っている。ルイの着眼点は正しい。
「ルイ様、じゃあ私と同じ動きをしてみてください」
「うん」
ルイがぴたりと動きを止めて、エメリーンをじっと見つめる。足を揃えて、手も身体の横に付けた体勢で、エメリーンが足をその場で細かく踏みながら回り始めた。ルイも同じように、とことこと足踏みをしながら回る。
「ルイ様、そのまま目線を逸らさないでくださいね」
身体はすでに半分近く回っているのに、ルイとエメリーンは目が合ったままだ。ルイの瞳が楽しそうに輝いている。口をきゅっと閉じて、頬が少し膨らんでいるのが可愛らしい。
「そう、ギリギリまで見てて……、くるっ! と回ったら、すぐ見る!」
見えなくなるはずの位置から、すばやく回ったエメリーンの目線は、すぐにルイを捉えている。ルイも少しだけもたついたが、エメリーンに目線を戻すことができた。
「で、できた?」
「ええ。いいですよ、ルイ様。じゃあ、このまま続けてもう一回。今度は私のお腹辺りを見て回ってください。上ではなく、真っ直ぐに見たほうが身体が安定しますからね」
「うん! 分かった」
ルイは2回目にはコツを掴んで、スッと回った。そのまま反対回りも問題なくできてから、今度は手と足の使い方を練習する。
――やっぱりルイ様は、覚えが良い。
あっという間にくるくると、2回転までできるようになったルイに感心していると、マーサが慌てた様子でやってくるのが見えた。
「エ、エメリーン、様っ」
「マーサ、何があったの?」
「急いでお戻りください。ルイ様も、急がれた方が良いかと」
エメリーンに次いで、ルイとルイの侍従に目を向け、マーサは言葉を続けた。
「本日のご朝食の席に、旦那様もご一緒されるそうです」
「え?」
ヒューバートに対し、ルイへの対応を改めるようにと、即日実行を求めたのはエメリーンだ。
――へえ、思ったより行動が早いわね。
寝耳に水のことで、ルイの侍従たちが慌てている。今まさに連れて行かれようとしているルイの顔色が悪いのを見て、エメリーンが「ちょっと待ってちょうだい」と声を掛けた。ルイと目が合うようにしゃがんでから、エメリーンはルイの手を取った。
「ルイ様、慌てずゆっくりで構いません。そうですね。ルイ様も私も汗をかきましたから、汗を流して綺麗にしてから朝食にしましょう?」
「え? そんなにゆっくりで良いのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「奥様、ヒューバート様をそんなにお待たせするというのは……」と口を挟んできたのは、兵士のセイディだ。侍従たちもセイディに同意しているのか、焦った表情でエメリーンを見つめてくる。エメリーンは立ち上がりながら、セイディたちに笑って答えた。
「問題ないわ。急な予定を入れて来られたのは旦那様の方ですもの。少しくらいお待ちになっても、まさか怒ったりできないと思いますよ? まさか、ねぇ?」
――ルイ様は2年待ったんですもの。朝食を少し待つぐらい、どうってことはないでしょう。少しでも不機嫌な様子を見せるなんてありえないと思うわ。
ふふふ、と笑うエメリーンに、セイディや侍従たちが引きつった顔で「失礼しました」と頭を下げた。エメリーンはすべてを口にしたわけではないのに、何か伝わったようだ。ルイは不思議そうな顔でセイディたちを見回している。
「それではルイ様、また後ほどお会いしましょうね。マーサ、私たちも行きましょうか。ゆっくり、しっかり準備しましょう?」
「はい、エメリーン様。ゆっくり、じっくりご準備いたしますね」
慌てていたマーサも、エメリーンの話を聞いてすっかり落ち着いたようだ。「ああ、汗をかいたわー」と、のんびり歩きだしたエメリーンたちを見送ってから、ルイ一行もゆっくりと動きだした。その中には、慌てた様子の者はもう誰もいなかった。
回るという言葉に嬉しそうに反応したルイに、エメリーンが慌てて告げる。
「ああ、いえ、ごめんなさいルイ様。今日は縦ではなく、横に回りましょう」
「よこ?」
抱えた子猫ごと首を傾げたルイの可愛らしさに、ついに侍従か兵士から「ぐぅ」という声が漏れた。表情から、たぶん女性兵士のセイディだろう。だが自身も危なかったエメリーンは、気が付かなかったフリをした。
「回るのにまず覚えていただきたいのは、目線の持っていき方です」
「めせん?」
「はい」と答えながら、エメリーンはルイから子猫を預かって、控えていた侍従に手渡す。
「ルイ様は完成形を見た方が、習得が早いので、見ていてくださいね」
グッと一瞬沈み込んだエメリーンの身体が、真ん中に一本芯が通ったかのようにクルクルと回る。その数、5回。
「うわぁ」と目を輝かせたルイと同時、控えていた兵士や侍従からも、ざわっと反応があった。だが、エメリーンが見ているのはルイの反応だけだ。
ーー良かった。興味を持ってもらえたみたいね。
『面白そう』『やってみたい』、とより興味を引いたものほど、ルイの習得は早い。
「くるくるくるくるっ、てなったの。すごいっ!」
興奮してぴょんぴょん飛んでいる無邪気なルイに、エメリーンが笑いかける。
「ルイ様、じゃあやってみましょうか」
「うん! やりたいっ!」
縦ではなく、横に回ることから始めたのは、危険性が少し減らせるからだ。もちろん補助付きで、縦回りの練習をすることはできるが、もう少し身体の使い方を掴んでからの方が良いとエメリーンは判断した。
ルイの側に付いている兵士たちも有能ではあるが、万が一にでも、ルイが頭から落下するような可能性は防がなければならない。
「んーと、エメリーンさまのお顔がずっと見えてたから、んー?」
大きく首を傾げたルイに、エメリーンが話しかけた。
「どうしましたか? ルイ様」
「えっと……。エメリーンさまの首、どうなってたかな? あれ?」
首を右や左にちょこちょこ動かしながら、ルイが「あれ? あれ?」と唸っている。ルイの着眼点は正しい。
「ルイ様、じゃあ私と同じ動きをしてみてください」
「うん」
ルイがぴたりと動きを止めて、エメリーンをじっと見つめる。足を揃えて、手も身体の横に付けた体勢で、エメリーンが足をその場で細かく踏みながら回り始めた。ルイも同じように、とことこと足踏みをしながら回る。
「ルイ様、そのまま目線を逸らさないでくださいね」
身体はすでに半分近く回っているのに、ルイとエメリーンは目が合ったままだ。ルイの瞳が楽しそうに輝いている。口をきゅっと閉じて、頬が少し膨らんでいるのが可愛らしい。
「そう、ギリギリまで見てて……、くるっ! と回ったら、すぐ見る!」
見えなくなるはずの位置から、すばやく回ったエメリーンの目線は、すぐにルイを捉えている。ルイも少しだけもたついたが、エメリーンに目線を戻すことができた。
「で、できた?」
「ええ。いいですよ、ルイ様。じゃあ、このまま続けてもう一回。今度は私のお腹辺りを見て回ってください。上ではなく、真っ直ぐに見たほうが身体が安定しますからね」
「うん! 分かった」
ルイは2回目にはコツを掴んで、スッと回った。そのまま反対回りも問題なくできてから、今度は手と足の使い方を練習する。
――やっぱりルイ様は、覚えが良い。
あっという間にくるくると、2回転までできるようになったルイに感心していると、マーサが慌てた様子でやってくるのが見えた。
「エ、エメリーン、様っ」
「マーサ、何があったの?」
「急いでお戻りください。ルイ様も、急がれた方が良いかと」
エメリーンに次いで、ルイとルイの侍従に目を向け、マーサは言葉を続けた。
「本日のご朝食の席に、旦那様もご一緒されるそうです」
「え?」
ヒューバートに対し、ルイへの対応を改めるようにと、即日実行を求めたのはエメリーンだ。
――へえ、思ったより行動が早いわね。
寝耳に水のことで、ルイの侍従たちが慌てている。今まさに連れて行かれようとしているルイの顔色が悪いのを見て、エメリーンが「ちょっと待ってちょうだい」と声を掛けた。ルイと目が合うようにしゃがんでから、エメリーンはルイの手を取った。
「ルイ様、慌てずゆっくりで構いません。そうですね。ルイ様も私も汗をかきましたから、汗を流して綺麗にしてから朝食にしましょう?」
「え? そんなにゆっくりで良いのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「奥様、ヒューバート様をそんなにお待たせするというのは……」と口を挟んできたのは、兵士のセイディだ。侍従たちもセイディに同意しているのか、焦った表情でエメリーンを見つめてくる。エメリーンは立ち上がりながら、セイディたちに笑って答えた。
「問題ないわ。急な予定を入れて来られたのは旦那様の方ですもの。少しくらいお待ちになっても、まさか怒ったりできないと思いますよ? まさか、ねぇ?」
――ルイ様は2年待ったんですもの。朝食を少し待つぐらい、どうってことはないでしょう。少しでも不機嫌な様子を見せるなんてありえないと思うわ。
ふふふ、と笑うエメリーンに、セイディや侍従たちが引きつった顔で「失礼しました」と頭を下げた。エメリーンはすべてを口にしたわけではないのに、何か伝わったようだ。ルイは不思議そうな顔でセイディたちを見回している。
「それではルイ様、また後ほどお会いしましょうね。マーサ、私たちも行きましょうか。ゆっくり、しっかり準備しましょう?」
「はい、エメリーン様。ゆっくり、じっくりご準備いたしますね」
慌てていたマーサも、エメリーンの話を聞いてすっかり落ち着いたようだ。「ああ、汗をかいたわー」と、のんびり歩きだしたエメリーンたちを見送ってから、ルイ一行もゆっくりと動きだした。その中には、慌てた様子の者はもう誰もいなかった。
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