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ぎこちない家族のひととき
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「ルイ様は本当に優秀ですね。あんなに短い時間で、ダブルターンまで習得してしまうなんて」
エメリーンがそう言うと、ルイが嬉しそうに笑み溢れた。
「エメリーンさまのおしえ方がいいと、セイディがいってたの」
「あら? そうなの?」
エメリーンは意外に思いながら、兵士たちが控えている方をみるが、どうやら今の時間はセイディはいないようだ。
「たいかん? をきたえられそうだから、セイディもやってみるんだって」
「なるほど。彼女は強くなることに貪欲なのね」
「どんよく?」
「熱心……、一所懸命と言うことですよ」
エメリーンの言葉に納得したのか、ルイはうんうんと頷いている。
「セイディはまじめだと、ルドガーがいってた」
「そうですか。ルイさまは、みんなの話をしっかり聞いていてえらいですね」
ルイと談笑していたエメリーンが、チラリと右に視線を向ける。目が合ったヒューバートは、ハムエッグを口に運ぼうとしていたところだったが、そのフォークとナイフを皿の上に置いた。
ーーはぁ。ようやくなの?
いくらでも話を始めるタイミングはあったはずなのに、あいさつの時も、途中でエメリーンがヒューバートに話を振ったときも、「おはよう」や「ああ」と短い言葉で会話が終わった。
ーー旦那様って、今までどうやって女性を口説いてきたのかしら? まさか口下手だなんてことはないわよね? 顔と身体で何とかなってたとか? まああの顔なら何とかなる……? いや、ならないでしょ。
じとりとしたエメリーンの視線に気付いたのか、ヒューバートはゴホッと軽く咳払いをした。
「あー、その、ル、ルイは」
――息子相手に緊張しすぎだと思うのだけど。
心の中で突っ込みながらも、エメリーンは黙って見守っている。エメリーンは急に喉が乾いた気がして、水を一口飲んだ。
「は、はい!」
ヒューバートの緊張がうつったのか、ルイの返事は、食事時ではありえないほど大きな声だ。ルイも手にしていたパンを一旦置いて、ヒューバートの方を向いている。
長テーブルに向かい合わせにヒューバートとルイが座っているのだが、エメリーンの位置はルイの右隣だ。大丈夫だろうとは思っていたが、いつも通りエメリーンの席は、ルイの側に用意されていた。
「そ、そんなに緊張する必要はない」
――旦那様もね。
「は、はい!」
「その、ル、ルイは礼儀作法や勉強を頑張っているようだな」
「は、はい!」
「…………」
それだけ言って食事を再開したヒューバートに、エメリーンは思わず目を見開いた。あまり疑問にも思っていないのか、ルイもエメリーンの隣でパンを再び手に取っている。
ルイはヒューバートに話し掛けられたこと自体に、とても驚いているようだ。何が起こったのか分からない、というように目を白黒させている。
――え? え? それで終わり?
執事長にでも聞いたのか、ルイの努力について口にしたヒューバートだったが、『頑張っているようだな』だけではただの事実確認だ。なぜそれで話が終わったのかと、エメリーンはため息を吐いた。
――いや、ないわ。本当にこれはひどい。
エメリーンはヒューバートからルイに視線を移した。
「まあ、ルイ様。礼儀作法や勉強を頑張っているんですか。だからお食事の食べ方も、こんなに綺麗なんですね。えらいですね。お勉強は、何を習ったのか、私にも教えて下さいますか?」
まだ不思議そうな顔をしていたルイが、エメリーンの言葉にパァッと笑顔に変わった。
「う、うん。きのうは、このりょうちの、とくさんぶつについてべんきょうした。あと、となりのりょうちのことも」
「まあ、そうなのですね。私もこれから学ぶことがたくさんあるのです。お互いに頑張りましょうね」
「エメリーンさまも?」
意外なことを聞いたというように、ルイが目を丸くしている。ルイの中で、エメリーンは色々なことを知っている大人なのだろう。
「ええ。まだまだ辺境伯夫人として、知らないことが多いのです。この辺境伯領のことについては、私よりルイ様の方が詳しいと思いますよ?」
「そうなんだ」
ルイの頬が少し赤くなった。照れながらも嬉しそうなルイの表情に、エメリーンも笑みこぼれる。
エメリーンがふと思い出してヒューバートの方を見ると、どういう感情なのかは分からないが、柔らかく微笑んでいた。
――何なの、その顔。いや、整ってはいるけどね。
ヒューバートは、家族とのコミュニケーションに難がある。いや、家族に限定されるのかどうかはエメリーンには分からないが、少なくともルイとの会話は0点だ。
確かに『頑張っているようだな』は、労いの言葉と取れなくもない。大人なら「恐縮です」とか何とか、受け取ることができただろう。だがルイは、しっかりしているとはいっても、4歳の子供なのだ。
――旦那様とは、もう少しお話合いが必要ね。
鋭い視線を向けたエメリーンに、ヒューバートは少し首を傾げた。微笑んだままのその顔は、やはり無駄なほどに整っている。
その造形美と中身とのギャップを感じたエメリーンは、食事時だというのに、消化が悪くなるのではないかと思うほどイライラしたが、ルイに伝わらないようにと考えて、ただ静かに微笑んだ。
傍目には、ヒューバートとエメリーンがただ穏やかに微笑み合っているように見えただろう。
エメリーンがそう言うと、ルイが嬉しそうに笑み溢れた。
「エメリーンさまのおしえ方がいいと、セイディがいってたの」
「あら? そうなの?」
エメリーンは意外に思いながら、兵士たちが控えている方をみるが、どうやら今の時間はセイディはいないようだ。
「たいかん? をきたえられそうだから、セイディもやってみるんだって」
「なるほど。彼女は強くなることに貪欲なのね」
「どんよく?」
「熱心……、一所懸命と言うことですよ」
エメリーンの言葉に納得したのか、ルイはうんうんと頷いている。
「セイディはまじめだと、ルドガーがいってた」
「そうですか。ルイさまは、みんなの話をしっかり聞いていてえらいですね」
ルイと談笑していたエメリーンが、チラリと右に視線を向ける。目が合ったヒューバートは、ハムエッグを口に運ぼうとしていたところだったが、そのフォークとナイフを皿の上に置いた。
ーーはぁ。ようやくなの?
いくらでも話を始めるタイミングはあったはずなのに、あいさつの時も、途中でエメリーンがヒューバートに話を振ったときも、「おはよう」や「ああ」と短い言葉で会話が終わった。
ーー旦那様って、今までどうやって女性を口説いてきたのかしら? まさか口下手だなんてことはないわよね? 顔と身体で何とかなってたとか? まああの顔なら何とかなる……? いや、ならないでしょ。
じとりとしたエメリーンの視線に気付いたのか、ヒューバートはゴホッと軽く咳払いをした。
「あー、その、ル、ルイは」
――息子相手に緊張しすぎだと思うのだけど。
心の中で突っ込みながらも、エメリーンは黙って見守っている。エメリーンは急に喉が乾いた気がして、水を一口飲んだ。
「は、はい!」
ヒューバートの緊張がうつったのか、ルイの返事は、食事時ではありえないほど大きな声だ。ルイも手にしていたパンを一旦置いて、ヒューバートの方を向いている。
長テーブルに向かい合わせにヒューバートとルイが座っているのだが、エメリーンの位置はルイの右隣だ。大丈夫だろうとは思っていたが、いつも通りエメリーンの席は、ルイの側に用意されていた。
「そ、そんなに緊張する必要はない」
――旦那様もね。
「は、はい!」
「その、ル、ルイは礼儀作法や勉強を頑張っているようだな」
「は、はい!」
「…………」
それだけ言って食事を再開したヒューバートに、エメリーンは思わず目を見開いた。あまり疑問にも思っていないのか、ルイもエメリーンの隣でパンを再び手に取っている。
ルイはヒューバートに話し掛けられたこと自体に、とても驚いているようだ。何が起こったのか分からない、というように目を白黒させている。
――え? え? それで終わり?
執事長にでも聞いたのか、ルイの努力について口にしたヒューバートだったが、『頑張っているようだな』だけではただの事実確認だ。なぜそれで話が終わったのかと、エメリーンはため息を吐いた。
――いや、ないわ。本当にこれはひどい。
エメリーンはヒューバートからルイに視線を移した。
「まあ、ルイ様。礼儀作法や勉強を頑張っているんですか。だからお食事の食べ方も、こんなに綺麗なんですね。えらいですね。お勉強は、何を習ったのか、私にも教えて下さいますか?」
まだ不思議そうな顔をしていたルイが、エメリーンの言葉にパァッと笑顔に変わった。
「う、うん。きのうは、このりょうちの、とくさんぶつについてべんきょうした。あと、となりのりょうちのことも」
「まあ、そうなのですね。私もこれから学ぶことがたくさんあるのです。お互いに頑張りましょうね」
「エメリーンさまも?」
意外なことを聞いたというように、ルイが目を丸くしている。ルイの中で、エメリーンは色々なことを知っている大人なのだろう。
「ええ。まだまだ辺境伯夫人として、知らないことが多いのです。この辺境伯領のことについては、私よりルイ様の方が詳しいと思いますよ?」
「そうなんだ」
ルイの頬が少し赤くなった。照れながらも嬉しそうなルイの表情に、エメリーンも笑みこぼれる。
エメリーンがふと思い出してヒューバートの方を見ると、どういう感情なのかは分からないが、柔らかく微笑んでいた。
――何なの、その顔。いや、整ってはいるけどね。
ヒューバートは、家族とのコミュニケーションに難がある。いや、家族に限定されるのかどうかはエメリーンには分からないが、少なくともルイとの会話は0点だ。
確かに『頑張っているようだな』は、労いの言葉と取れなくもない。大人なら「恐縮です」とか何とか、受け取ることができただろう。だがルイは、しっかりしているとはいっても、4歳の子供なのだ。
――旦那様とは、もう少しお話合いが必要ね。
鋭い視線を向けたエメリーンに、ヒューバートは少し首を傾げた。微笑んだままのその顔は、やはり無駄なほどに整っている。
その造形美と中身とのギャップを感じたエメリーンは、食事時だというのに、消化が悪くなるのではないかと思うほどイライラしたが、ルイに伝わらないようにと考えて、ただ静かに微笑んだ。
傍目には、ヒューバートとエメリーンがただ穏やかに微笑み合っているように見えただろう。
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