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お勉強
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「で、さっきのは何ですか?」
朝食後、「今日も勉強がある」と張り切って退出したルイを見送って、エメリーンはヒューバートに向き直っていた。
「何のことだ?」
「何のこと、じゃありません。ルイ様とのコミュニケーションの取り方ですよ」
「ああ、確かに。……少し緊張した。ルイの姿を見て、冷静でいられるかどうか心配していたのだが、それは何の問題もなかったな」
ガチガチに緊張していたのは、そういう理由からだったのかと、エメリーンは呆れつつも納得した。だがヒューバートの次の言葉は、全く納得できないものだった。
「よく見たら、ルイは私に似ているな。鏡を見ているのかと思ったよ」
「は? どこがですか?」
「どこって、何もかもだろう」
「旦那様にもあんなに純真で可愛い時期があったと言うんですか? いや、ないでしょう。なかったと思います。なかったはずですよ。良く思い出してください」
エメリーンのあまりの言い草に、いつの間にか室内に控えていたルドガーが、ぶはっと吹き出した。その隣にいた執事長も肩を小刻みに震わせている。
「姿かたちだけで言えば、確かに旦那様の幼い頃に、ルイ様はそっくりです」
「へえ、そうなの?」
執事長にそう言われても、どこか納得がいかないといったエメリーンの様子に、二人はまだ笑っている。ルドガーは「ぶはは」と、執事長は声を押し殺している。
ヒューバートは一連の流れを、不機嫌になるでもなく楽しそうな顔で見ていた。
「エメリーンの言ったとおり、これからは少しずつでも交流を増やしていこう。昼や夜はしばらく忙しくなりそうだが、朝食時は今日のように三人で過ごせればと思っている」
「そうですか」
ヒューバートが努力しようとしていることは、エメリーンにも伝わった。これから毎日少しずつ進んでいけるなら、今日の交流はまずまずと言えるのかもしれない。
――もう少し、頑張ってほしいものだけど。でも……。
エメリーンは、ヒューバートに話しかけられただけで、目を白黒させて驚いていたルイを思い出して、この父子にはこのくらいの進み方でちょうど良いのかもと思い直した。失った2年を取り戻すのには、一体どれだけの時間が掛かるのだろう。
エメリーンは「先はまだまだ長そうですね」と深いため息を吐き、ヒューバートをじとりと見つめる。
「とりあえず、旦那様はもっとルイ様について勉強した方が良いと思いますよ」
「それはどういうことだ?」
「食べ物は何が好きか、嫌いか? 好きな花は何か? 好きな動物は? 好きな色は? 旦那様はルイ様について、どれか一つでも知っていますか?」
「……いや、知らないな」
「そうでしょう? ルイ様が今、何に一番興味を持っているのか、どういう服が好きか……。私もまだまだ勉強不足ですが、それでも旦那様よりは知っています。実の父親である旦那様より、義母である私のほうがルイ様について詳しいなんて、恥ずかしいことなんですよ?」
「なるほど……。確かにそうだな」
素直にエメリーンの言葉を受け止めるヒューバートに、エメリーンが「そうでしょう」と頷く。「もっと反省した方が良いですよ」と何度も頷いているエメリーンに、ヒューバートが言った。
「もちろんルイについてもだが、私は君のことも何も知らない。私はエメリーンについても勉強が必要だと思わないか?」
くつりと笑ったヒューバートの瞳が、楽しそうな色を宿して輝いている。その姿は、確かにルイに似ているとエメリーンは思った。
――まあ、父子なんだから、似ているところもあるわよね。ほんの少しだけど。
「エメリーン?」
「え? あら? 何の話でしたっけ?」
首を傾げたエメリーンに、ヒューバートが少し困ったような顔をしている。何か言おうとヒューバートが口を開いたタイミングで、「そうだ」とエメリーンが声を上げた。
「思い出しました。ルイ様のことですよ。ですから、旦那様はこれからもっと、ルイ様のことを一所懸命に勉強してくださいね。あ、先ほどのように事実確認だけじゃ駄目ですよ?」
「事実確認?」
「頑張っているようだな、で終わらせちゃ駄目なんですよ。もっと興味を持って、ルイ様と会話をしてください。せめて、『頑張っていてえらいな』くらいは言ってくれないと。『頑張っているようだな?』『はい!』とか、4歳の子供との会話がそれで良いはずないじゃないですか。勉強不足にもほどがあります」
「……分かった。勉強する。即日」
お手上げだと両手を軽く上げて、ヒューバートが答えた。「全くもう」とまだまだ言い足りない様子のエメリーンを見つめながら、ヒューバートがぽつりと呟く。
「エメリーンの好きなものはルイ。私との関係改善など、全く考えてすらいないということも、今日の私はしっかり学んだよ」
その小さな呟きは、ヒューバート以外の誰の耳にも届かなかった。
朝食後、「今日も勉強がある」と張り切って退出したルイを見送って、エメリーンはヒューバートに向き直っていた。
「何のことだ?」
「何のこと、じゃありません。ルイ様とのコミュニケーションの取り方ですよ」
「ああ、確かに。……少し緊張した。ルイの姿を見て、冷静でいられるかどうか心配していたのだが、それは何の問題もなかったな」
ガチガチに緊張していたのは、そういう理由からだったのかと、エメリーンは呆れつつも納得した。だがヒューバートの次の言葉は、全く納得できないものだった。
「よく見たら、ルイは私に似ているな。鏡を見ているのかと思ったよ」
「は? どこがですか?」
「どこって、何もかもだろう」
「旦那様にもあんなに純真で可愛い時期があったと言うんですか? いや、ないでしょう。なかったと思います。なかったはずですよ。良く思い出してください」
エメリーンのあまりの言い草に、いつの間にか室内に控えていたルドガーが、ぶはっと吹き出した。その隣にいた執事長も肩を小刻みに震わせている。
「姿かたちだけで言えば、確かに旦那様の幼い頃に、ルイ様はそっくりです」
「へえ、そうなの?」
執事長にそう言われても、どこか納得がいかないといったエメリーンの様子に、二人はまだ笑っている。ルドガーは「ぶはは」と、執事長は声を押し殺している。
ヒューバートは一連の流れを、不機嫌になるでもなく楽しそうな顔で見ていた。
「エメリーンの言ったとおり、これからは少しずつでも交流を増やしていこう。昼や夜はしばらく忙しくなりそうだが、朝食時は今日のように三人で過ごせればと思っている」
「そうですか」
ヒューバートが努力しようとしていることは、エメリーンにも伝わった。これから毎日少しずつ進んでいけるなら、今日の交流はまずまずと言えるのかもしれない。
――もう少し、頑張ってほしいものだけど。でも……。
エメリーンは、ヒューバートに話しかけられただけで、目を白黒させて驚いていたルイを思い出して、この父子にはこのくらいの進み方でちょうど良いのかもと思い直した。失った2年を取り戻すのには、一体どれだけの時間が掛かるのだろう。
エメリーンは「先はまだまだ長そうですね」と深いため息を吐き、ヒューバートをじとりと見つめる。
「とりあえず、旦那様はもっとルイ様について勉強した方が良いと思いますよ」
「それはどういうことだ?」
「食べ物は何が好きか、嫌いか? 好きな花は何か? 好きな動物は? 好きな色は? 旦那様はルイ様について、どれか一つでも知っていますか?」
「……いや、知らないな」
「そうでしょう? ルイ様が今、何に一番興味を持っているのか、どういう服が好きか……。私もまだまだ勉強不足ですが、それでも旦那様よりは知っています。実の父親である旦那様より、義母である私のほうがルイ様について詳しいなんて、恥ずかしいことなんですよ?」
「なるほど……。確かにそうだな」
素直にエメリーンの言葉を受け止めるヒューバートに、エメリーンが「そうでしょう」と頷く。「もっと反省した方が良いですよ」と何度も頷いているエメリーンに、ヒューバートが言った。
「もちろんルイについてもだが、私は君のことも何も知らない。私はエメリーンについても勉強が必要だと思わないか?」
くつりと笑ったヒューバートの瞳が、楽しそうな色を宿して輝いている。その姿は、確かにルイに似ているとエメリーンは思った。
――まあ、父子なんだから、似ているところもあるわよね。ほんの少しだけど。
「エメリーン?」
「え? あら? 何の話でしたっけ?」
首を傾げたエメリーンに、ヒューバートが少し困ったような顔をしている。何か言おうとヒューバートが口を開いたタイミングで、「そうだ」とエメリーンが声を上げた。
「思い出しました。ルイ様のことですよ。ですから、旦那様はこれからもっと、ルイ様のことを一所懸命に勉強してくださいね。あ、先ほどのように事実確認だけじゃ駄目ですよ?」
「事実確認?」
「頑張っているようだな、で終わらせちゃ駄目なんですよ。もっと興味を持って、ルイ様と会話をしてください。せめて、『頑張っていてえらいな』くらいは言ってくれないと。『頑張っているようだな?』『はい!』とか、4歳の子供との会話がそれで良いはずないじゃないですか。勉強不足にもほどがあります」
「……分かった。勉強する。即日」
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