辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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アンコール

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 食事中、ヒューバートとルイの様子を観察していたエメリーンは、ルイからは緊張感がすっかり消えていることに気が付いた。

「ちちうえ、あれは、できましたか?」

「い、いや、あれはまだだ。魔物が出たからな」

 ――あれ、って何かしら?

 ルイからヒューバートに話し掛けて、ヒューバートが何やら慌てているようだ。サラダのポテトをポトリと皿に落としたヒューバートの姿を、ルイがジッと見つめている。

 ルイに見つめられて、「本当だ」「忙しかったんだ」と、ヒューバートが言葉を重ねている。それは本当のことのはずなのに、何だか言い訳のように聞こえるのは何故だろう。

「いつ、できますか?」

「はっ?」

「きょう、できますか?」

「き、今日はまだ仕事が」

「あしたですか?」

「ちょ、ちょっと待て、ルイ。少し時間をくれないか」

 あどけない口調で、しかしヒューバートに詰め寄るルイは、なかなかに押しが強い。むぅっ、と不満そうな顔で、さらにヒューバートを追い詰めているのも見事だ。

 ――ずるいわ。私もルイ様に詰め寄られたい。今日ですか、明日ですか、なんて、ちょっと言われてみたいかも。私なら、ルイ様が望むことなら何でも、「はい、ルイ様。今すぐ!」って答えるのに。って、筋トレは断ったんだわ。そんなこともあるわよね。

 エメリーンは、呑気にそんなことをつらつらと思っていた。

 ヒューバートとルイは、エメリーンの知らない話をしている。父子の秘密の話の内容を、エメリーンは知りたいような知りたくないような複雑な気分だ。

 端から見ていると、じゃれあっているようにしか見えない父子の掛け合いだが、まだまだ始まったばかりの脆いものだ。今度こそ、このまま大切に時を重ねて行ければ良いと、エメリーンは思う。

「はやいほうが、よいとおもう」

 ルイにきっぱりと言われて、ヒューバートは言葉に詰まったようだ。今度は言い訳が出てこないらしい。

 ――何のことかは分からないけど、ルイ様の言う通りよね。旦那様は、一体何をぐずぐずしているのかしら? 旦那様は行動を起こすと決めたら早いのに、その前にぐずぐずするのよね。分かる、分かるわー。

 うんうん、と頷いているエメリーンに、不意にルイから声が掛かった。

「エメリーンさまも、はやいほうがよいとおもう?」

 小首を傾げてルイに問われたエメリーンは、先ほど考えていたとおり、即座に答えた。

「はい、ルイ様。今すぐ!」

「いますぐは、メッなの」

「へっ?」

 ――可愛い顔をしかめても、可愛いんですが……。っていうか、「メッ」って、可愛すぎるんですが。もう一度お願いしてもいいかしら? そんな感じじゃないかしら? どうかしら?

「はやく、だけど、いまはメッなの」

「ぐっ」

 もう一度という夢が叶って、思わず身体が少し跳ねたエメリーンは、忘れていた筋肉痛を痛みと共に思い出した。

「エメリーンさま?」

「大丈夫ですよ」

 大丈夫かと聞かれてもいないのに、即座に笑顔で大丈夫と答えたエメリーンは、きっと大丈夫ではない。大人たちにはエメリーンがおかしいことが伝わったと思うが、ルイは言葉をそのまま受け取ってくれた。

「だいじょうぶ、ならいいの」

 にこっと微笑むルイの優しさにエメリーンが感動していると、ヒューバートから物言いたげな視線が飛んできた。

「何でしょうか?」

「大丈夫か?」

「大丈夫だと言ったではないですか」

「……そうか」

 笑みを深めたエメリーンの様子を、ヒューバートは怪しんでいるようだが、ルイの手前、追求するのはやめたようだ。

「ところで、何の話か、想像がついていたりするのか?」

 秘密の話を悟られたくないのか、そんなことを聞いたヒューバートに、エメリーンは正直に答える。

「いえ、サッパリ」

「そんな気はしていた」

 何故かヒューバートは肩を落としたが、そんなヒューバートにも、ルイが「ちちうえ、いまはメッなの」と繰り返している。

 ――ああ、ルイ様のメッ、が旦那様にも。ずるいわ。

 無意識なのか意識してかは分からないが、ルイはヒューバートに、敬語を使おうとしているようだ。だがところどころ、崩れているところを見ると、やはり緊張したり、怖がったりはしていないようだとエメリーンは思った。

「わ、分かっている」

 むしろ、責め立てられて慌てているヒューバートの方が、少し緊張しているように見える。ずっとわたわたしているヒューバートは、何をそんなに慌てているのだろうと、エメリーンは首を傾げた。

「っ……」

 今度は声が漏れるのを耐えたエメリーンは、ふと「もしかしたら、ルイ様が緊張しないように、旦那様は、わざとわたわたしているのかしら?」と思ったが、どれだけ二人のやりとりを見つめていても、その答えは出なかった。
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