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王都の辺境伯邸
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王都にある辺境伯邸に着いたとき、ルイは深い眠りの中だった。
出迎えに出てきた王都の使用人たちは、ヒューバートがルイを大事そうに抱いているのを見て、驚愕の表情を隠せていない。
――あら? こちらの使用人と領地の使用人とで、情報交換とかしてないのかしら? そんなことないわよね?
「お帰りなさいませ」
気を取り直したのか、ルイを起こさないように、使用人たちは小声でヒューバートに挨拶をする。彼らには、まるでエメリーンの存在が目に入っていないかのようだ。
「マジか……」
「ここは愚か者ばかりのようだな」
「何て失礼な」
バアルとセイディ、そしてマーサの呟きが、エメリーンの耳に届いた。
――これは何か言わないとダメかしら?
ようやくゆっくり休めると思っていたエメリーンが、面倒なことになるかもと思っていると、ヒューバートが振り返ってエメリーンを呼んだ。
「エメリーン、ルイを部屋に連れて行った後、君の部屋に案内しよう」
「分かりましたわ」
王都の使用人たちが、再び驚愕の表情を浮かべているのを横目に、エメリーンはヒューバートに続いた。
なぜヒューバートがわざわざエメリーンを部屋に案内するのか、と一瞬疑問に思ったエメリーンだったが、ヒューバート自身がエメリーンを大切にしていることを周りに見せているのだと分かった。要するに結婚式前後とは真逆だ。
そもそもあのとき、ヒューバートがエメリーンを蔑ろにしていなければ、王都の使用人たちが先程のような対応をすることはなかっただろう。
領地からどのような報告を聞いていても、王都の使用人にとってのエメリーンは、結婚式前後の印象のままだ。だがそれも仕方のないことだろう、とエメリーンは思う。
彼らにとってエメリーンは、初夜さえヒューバートと共に過ごすことなく、辺境伯領地へ一人で送られた、形だけの妻だ。その後もヒューバートは王都で浮名を流していたのだから、彼らには、エメリーンが敬うべき辺境伯夫人であるという認識がない。
――そりゃ、そうよね。
自身の扱いについては納得しながらも、エメリーンは彼らがルイにも同じような認識でいるのなら、徹底して教育するつもりだ。
「ルイ様のお部屋はどんな感じかしら?」
「私も見ていないから、分からないが、気になるようなら、エメリーンが好きに内装を変えて構わない」
「そうですか。ルイ様と相談して、より好みの部屋に整えるのも楽しそうですね」
「もちろん、君の部屋もだが、屋敷全体でも問題ない」
ルイの部屋に向かって歩いているヒューバートとエメリーンに、ぞろぞろと使用人たちがついてきている。王都の使用人たちが、二人の会話にざわりとしている気配が伝わってきた。
少しの会話だけでも、二人が打ち解けている、というかヒューバートがエメリーンを信頼していることが分かったのだろう。
領地からヒューバートたちとともに王都に来た使用人たちは、この後、王都の使用人たちに質問攻めにあうことを、揃って覚悟した。
特にマーサは、彼らにエメリーンとルイの素晴らしさを夜通し語り尽くすつもりだ。エメリーンやルイに、今後はふざけた態度を取る者がいないようにしたい、とマーサは心に決めていた。きっとマーサの他にもそう感じた者がいるはずだ。そう確信しているマーサの足取りは軽かった。
出迎えに出てきた王都の使用人たちは、ヒューバートがルイを大事そうに抱いているのを見て、驚愕の表情を隠せていない。
――あら? こちらの使用人と領地の使用人とで、情報交換とかしてないのかしら? そんなことないわよね?
「お帰りなさいませ」
気を取り直したのか、ルイを起こさないように、使用人たちは小声でヒューバートに挨拶をする。彼らには、まるでエメリーンの存在が目に入っていないかのようだ。
「マジか……」
「ここは愚か者ばかりのようだな」
「何て失礼な」
バアルとセイディ、そしてマーサの呟きが、エメリーンの耳に届いた。
――これは何か言わないとダメかしら?
ようやくゆっくり休めると思っていたエメリーンが、面倒なことになるかもと思っていると、ヒューバートが振り返ってエメリーンを呼んだ。
「エメリーン、ルイを部屋に連れて行った後、君の部屋に案内しよう」
「分かりましたわ」
王都の使用人たちが、再び驚愕の表情を浮かべているのを横目に、エメリーンはヒューバートに続いた。
なぜヒューバートがわざわざエメリーンを部屋に案内するのか、と一瞬疑問に思ったエメリーンだったが、ヒューバート自身がエメリーンを大切にしていることを周りに見せているのだと分かった。要するに結婚式前後とは真逆だ。
そもそもあのとき、ヒューバートがエメリーンを蔑ろにしていなければ、王都の使用人たちが先程のような対応をすることはなかっただろう。
領地からどのような報告を聞いていても、王都の使用人にとってのエメリーンは、結婚式前後の印象のままだ。だがそれも仕方のないことだろう、とエメリーンは思う。
彼らにとってエメリーンは、初夜さえヒューバートと共に過ごすことなく、辺境伯領地へ一人で送られた、形だけの妻だ。その後もヒューバートは王都で浮名を流していたのだから、彼らには、エメリーンが敬うべき辺境伯夫人であるという認識がない。
――そりゃ、そうよね。
自身の扱いについては納得しながらも、エメリーンは彼らがルイにも同じような認識でいるのなら、徹底して教育するつもりだ。
「ルイ様のお部屋はどんな感じかしら?」
「私も見ていないから、分からないが、気になるようなら、エメリーンが好きに内装を変えて構わない」
「そうですか。ルイ様と相談して、より好みの部屋に整えるのも楽しそうですね」
「もちろん、君の部屋もだが、屋敷全体でも問題ない」
ルイの部屋に向かって歩いているヒューバートとエメリーンに、ぞろぞろと使用人たちがついてきている。王都の使用人たちが、二人の会話にざわりとしている気配が伝わってきた。
少しの会話だけでも、二人が打ち解けている、というかヒューバートがエメリーンを信頼していることが分かったのだろう。
領地からヒューバートたちとともに王都に来た使用人たちは、この後、王都の使用人たちに質問攻めにあうことを、揃って覚悟した。
特にマーサは、彼らにエメリーンとルイの素晴らしさを夜通し語り尽くすつもりだ。エメリーンやルイに、今後はふざけた態度を取る者がいないようにしたい、とマーサは心に決めていた。きっとマーサの他にもそう感じた者がいるはずだ。そう確信しているマーサの足取りは軽かった。
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