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怒られる人は
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その日の夜、マーサの意気込みは、王都の使用人たちの話を聞いているうちに、あっという間に萎んでしまった。辺境伯領地での生活が、魔物の襲撃はありつつも、それでも平和なものであったことに気が付いたからだ。
マーサは日々の生活の中ですっかり忘れていた、ヒューバートとエメリーンの結婚当初のことを思い出していた。
ヒューバートの再婚相手が、しがない子爵令嬢であるエメリーンに決まったとき、王都の辺境伯邸にいた使用人たちが、とてもがっかりしたのをマーサは覚えている。
いや、ただのしがない子爵令嬢であったなら、そこまでがっかりされることはなかったのかもしれない。オルクス子爵令嬢だったからこそ、使用人たちの拒否感は強かったと言えるだろう。
もちろん使用人ががっかりしようが、拒否感を持とうが、それは使用人の戯言でしかない。領地の使用人の中には、ヒューバートに意見出来る者がいるが、王都の使用人たちには出来なかった。だからこそ、不満が溜まってしまったということもある。
オルクス子爵領がどういうところなのか、その情報は得ようとしなくても彼らの耳に入ってきた。そしてオルクス子爵令嬢の評判もまた、同じように彼らの耳に入っていたのだ。
――何でよりにもよって。
かくいうマーサも、当初は彼らと同意見だった。領地を荒らして平然としている子爵家の娘など、碌な者ではない。それにオルクス子爵家の娘が、男爵家の娘に嫌がらせをしていた、なんて情報も、他家の使用人から流れてきていたのだ。今ならその娘はエメリーンのことではないと分かるが、当時はそれを信じきっていた。
――旦那様は、誰でも良かったんだわ。
結婚式前後、ヒューバートのエメリーンに対する姿を見たとき、ヒューバートが都合の良い『形だけの妻』を見つけたのだと、マーサには分かった。だが『形だけの妻』だとしても、もう少し選択の余地はあったのではないかという不満は残ったのだ。
――まあ、旦那様の評判も散々だったから、同じように散々な評判で、制御しやすい身分の相手を選んだのだろうけど。ほんの少しで良いから、使用人のことも考えて頂きたかったわ。
ヒューバートの評判は、そのまま使用人の評判にも繋がっている。女性の使用人たちは、女性からは羨まれ、嫉妬の的になった。男性からは、ダイナリア辺境伯家に仕えているというだけで、ヒューバートとの関係を疑われたり、尻軽扱いされたりすることもあった。
もちろん男性の使用人たちも、同じような目にあっていた。ヒューバートの悪行のせいで逆恨みされたり、バカにされたり、不貞を疑われたりと、とても辺境伯の使用人であることを誇れる状態ではなかったのだ。
マーサとエメリーン、そしてヒューバートが領地に戻った後も、彼らはそんな目に遭い続けてきた。そんな彼らの元に届く辺境伯領からの報告に、ヒューバートが変わったとか、エメリーンは面白い人だとか、ルイも含めて3人で仲良くしている、などと書かれていても、頭から信じられるはずがなかった。彼らの生活は、何一つ変わっていなかったからだ。
そしてヒューバートたちが王都に戻ると連絡があった頃、さらに問題が発生していた。王都の女性使用人の一人が、ヒューバート関連の根も葉もない噂で、婚約破棄をされる事態があり、彼らの不満は爆発寸前だったのだ。
「いや、だからって、あの態度はダメでしょう」という言葉を、マーサは声に出すことは出来なかった。想像以上に過酷な日々を過ごして来た彼らに、楽しく辺境伯領地で過ごして来たマーサが言えることではない。マーサだって、たまたまエメリーンの侍女に選ばれていなければ、全く他人事ではなかったからだ。だから「それは、大変だったのね……」としか、マーサには言えなかった。
一緒に聞いていたバアルは、「あー」と声を漏らして天を仰いでいるし、セイディは反対に深く俯いている。
「状況は分かった。俺から旦那様にちゃんと伝える」
バアルの言葉に、王都の使用人たちが不安そうな顔をするが、「大丈夫だ」とバアルが請け負った。
「旦那様、最近いろいろ言われ慣れてるから。すぐに対応もしてくれるさ」
信じられないと言った様子の使用人たちに、バアルが笑顔を向けた。
「大丈夫だって。出迎え時のことも、みんなの責任問題になったりなんかしないさ。旦那様も自分のせいだと思ってるから、あんな行動を取ったわけだし。奥様もみんなの状況を知れば怒ったりしない、いや、怒るだろうな、旦那様に対して……。ま、それはそれで良いか」
「奥様が、旦那様に対して怒る?」
それがどういう状態なのか、全く想像がつかない王都の使用人と、とても良く想像が付く領地の使用人との表情は、あまりにも違っていた。
マーサは日々の生活の中ですっかり忘れていた、ヒューバートとエメリーンの結婚当初のことを思い出していた。
ヒューバートの再婚相手が、しがない子爵令嬢であるエメリーンに決まったとき、王都の辺境伯邸にいた使用人たちが、とてもがっかりしたのをマーサは覚えている。
いや、ただのしがない子爵令嬢であったなら、そこまでがっかりされることはなかったのかもしれない。オルクス子爵令嬢だったからこそ、使用人たちの拒否感は強かったと言えるだろう。
もちろん使用人ががっかりしようが、拒否感を持とうが、それは使用人の戯言でしかない。領地の使用人の中には、ヒューバートに意見出来る者がいるが、王都の使用人たちには出来なかった。だからこそ、不満が溜まってしまったということもある。
オルクス子爵領がどういうところなのか、その情報は得ようとしなくても彼らの耳に入ってきた。そしてオルクス子爵令嬢の評判もまた、同じように彼らの耳に入っていたのだ。
――何でよりにもよって。
かくいうマーサも、当初は彼らと同意見だった。領地を荒らして平然としている子爵家の娘など、碌な者ではない。それにオルクス子爵家の娘が、男爵家の娘に嫌がらせをしていた、なんて情報も、他家の使用人から流れてきていたのだ。今ならその娘はエメリーンのことではないと分かるが、当時はそれを信じきっていた。
――旦那様は、誰でも良かったんだわ。
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――まあ、旦那様の評判も散々だったから、同じように散々な評判で、制御しやすい身分の相手を選んだのだろうけど。ほんの少しで良いから、使用人のことも考えて頂きたかったわ。
ヒューバートの評判は、そのまま使用人の評判にも繋がっている。女性の使用人たちは、女性からは羨まれ、嫉妬の的になった。男性からは、ダイナリア辺境伯家に仕えているというだけで、ヒューバートとの関係を疑われたり、尻軽扱いされたりすることもあった。
もちろん男性の使用人たちも、同じような目にあっていた。ヒューバートの悪行のせいで逆恨みされたり、バカにされたり、不貞を疑われたりと、とても辺境伯の使用人であることを誇れる状態ではなかったのだ。
マーサとエメリーン、そしてヒューバートが領地に戻った後も、彼らはそんな目に遭い続けてきた。そんな彼らの元に届く辺境伯領からの報告に、ヒューバートが変わったとか、エメリーンは面白い人だとか、ルイも含めて3人で仲良くしている、などと書かれていても、頭から信じられるはずがなかった。彼らの生活は、何一つ変わっていなかったからだ。
そしてヒューバートたちが王都に戻ると連絡があった頃、さらに問題が発生していた。王都の女性使用人の一人が、ヒューバート関連の根も葉もない噂で、婚約破棄をされる事態があり、彼らの不満は爆発寸前だったのだ。
「いや、だからって、あの態度はダメでしょう」という言葉を、マーサは声に出すことは出来なかった。想像以上に過酷な日々を過ごして来た彼らに、楽しく辺境伯領地で過ごして来たマーサが言えることではない。マーサだって、たまたまエメリーンの侍女に選ばれていなければ、全く他人事ではなかったからだ。だから「それは、大変だったのね……」としか、マーサには言えなかった。
一緒に聞いていたバアルは、「あー」と声を漏らして天を仰いでいるし、セイディは反対に深く俯いている。
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