辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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オルクス子爵令嬢

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 オルクス子爵家の令嬢がヒューバートの後妻になると知ったとき、セイディは落胆した。ヒューバートの立場上のこともあるため、再婚を止めることは出来ないだろうと思っていたが、後妻が辺境伯領へ来るなら話は別だ。セイディは、直ぐにでもエメリーンを王都に追い返すべきだと思っていた。

 そこにセイディの私情が含まれていたことも事実だ。セイディもそれは理解していた。だがそれ以上に、オルクス子爵家やその令嬢の評判は悪かったのだ。

 もちろんヒューバートの評判も悪かったのだが、それに関してはセイディは少し擁護したい気持ちもある。

 元ダイナリア辺境伯夫人のグレイスが辺境伯領を去ったとき、ヒューバートがどれだけ取り乱していたか、憔悴していたか、セイディは見ていたからだ。

 そしてヒューバートが、可愛がっていたルイのことを、視界に入れることすら困難になったのも、セイディは見ていた。

「ルイの側にいてやりたいのに、ルイを見ただけで、涙と吐き気が止まらないんだ。私は、どうすれば良い……」

 身体に異変の起きたヒューバートを、使用人たちは慌ててルイから引き剥がした。

「旦那様はきっとお疲れなのでしょう。ルイ様のことは我々に任せて、少し気晴らしに出かけてみるのはいかがですか?」

 そう最初に言ったのは誰だったか。犯人さがしのようなことをしたところで意味はない。それは使用人たちの総意と言っても過言ではなかったからだ。あのとき、ヒューバートが拒んでも医師に見せていれば、状況は変わっていたのかもしれないと、今更ながらセイディは思っている。

 まさかそれから2年に渡り、ヒューバートがルイを避け続けることになるなど、誰も想像すらしていなかったのだ。妻一筋だったヒューバートが、女の敵のような有り様になったこともまた、想定外としか言いようがなかった。

 だからそんな状態のダイナリア辺境伯家に、オルクス子爵令嬢が後妻として来ると知ったとき、落胆したのはセイディだけではなかった。

 自分たちがどれほど理不尽な目に遭わされても、ルイが虐げられることがないように、とにかくルイだけは守り抜こう。だがそんな使用人たちの思いは、良い方向に裏切られた。

 ――あれは、ショック療法、というのかな。

 使用人たちの言葉が届かなくなっていたヒューバートに、ガツンと、いやガツガツゴツゴツと喝を入れたエメリーンのおかげで、辺境伯家は再生の道を進んでいる。

 そしてセイディは、王都のオルクス子爵邸に来て、ようやく分かった。評判の悪かったオルクス子爵令嬢と、エメリーンは別人だったのだ。

「はあ? エメリーン? 突然何しにきたのよっ!」

 ドタドタと無作法に応接室にやって来た、エメリーンの「義姉」の物言いや立ち振る舞いは、セイディがオルクス子爵令嬢に抱いていたイメージそのものだった。

 辺境伯夫人に対しての礼儀が全くなっていないエリナーだったが、どうやらエメリーンには少し情があるようだとセイディは判断した。父親のことは「オルクス子爵」と呼び、名前を呼ぶことも許さなかったエメリーンが、「お義姉様」と呼んでいたからだ。

 ――まあ、面倒臭そうと判断されたのかもしれないが……。

 まるで呼吸をするように、次から次へと悪態をつくエリナーに対し、エメリーンがどこか懐かしそうな顔をしていることに、セイディは気が付いた。「平民」と言われたことに対しても、エメリーンは特に怒りもしなかったのだ。

 ――もしかしたら、これが日常だったのかもしれないな。

 オルクス子爵邸では、使用人ですらエメリーンに侮った態度を取った。子爵夫人は娘の帰郷だというのに、顔を見せもしなかった。あまり事前情報を持っていなかったセイディでさえ、エメリーンがこのオルクス子爵家でどういう扱いをされていたのかが分かったのだ。

 きっと情報通なバアルは、すでに知っていた情報だったのだろうと、セイディは少し悔しいような気がしたが、「これが……?」と呟いたバアルの声に同意しつつ、実際に見なければ分からないこともあるよな、と気を取り直した。

「ああ、変わってないわ」

 エメリーンが微笑んで見つめるその先には、とても子爵令嬢が暮らしていた場所としてはあり得ない、別邸という名の小屋が建っていた。
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