辺境伯に嫁いだので、可愛い義息子と楽しい辺境生活を送ります ~ついでに傷心辺境伯とのぐずぐずの恋物語を添えて~

空野 碧舟

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おねえちゃん……?

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「すみません、寝ていました」

 眠そうな顔で、欠伸をしながらのそのそと部屋から出て来た使用人の姿に、エメリーンは釘付けになった。開いたドアからチラリと見えた、かつてのエメリーンの寝室には、使用人3人分のベッドが横並びに入っていたが、今は他の使用人はいないようだ。

 右頬に傷のあるその男は、どう見ても二十歳そこそこの若者で、見た目年齢だけなら、18歳のエメリーンの兄だと言っても通りそうだ。

 ――嘘……。

「おねえちゃん……」

「「「は?」」」

 謎でしかないエメリーンの呟きに、バアルとセイディ、そして使用人の男が疑問の声を上げた。

「エメリーン様、それはいくら何でも」

「え? 俺、女に見えます? そんなこと言われたの初めてですが」

「見えるわけがないだろう」

 バアル、使用人の男、セイディがそれぞれに話している中、エメリーンはまだその男から目を離すことが出来ずにいた。エメリーンが、「おねえちゃんだよ」と思わず言い掛けたその男は、エメリーンが会いたかった名前のない義賊のメンバーで、そしてアリサの弟であるレイその人だった。

 ――39歳?

 アリサが最期の時に見た19歳のレイよりも、体格ががっちりしてあご髭が生えてはいるが、やはり20代前半にしか見えない若々しい姿で、とても39歳には見えない。それより何よりもエメリーンが気になったのは、レイの頬の傷だった。

「……その、傷、は?」

「は? え? あ、これですか? まあ、昔ちょっと」

 それはエメリーンが知りたいことの答えとしては、全く情報が不足したものだったが、レイはそれ以上を話そうとはしなかった。

「あの、エメリーン様。知っている使用人の方でしょうか?」

 セイディの問いに、エメリーンはハッとしてセイディとバアルを振り返った。どこか心配そうな二人に、エメリーンは頷いて答える。

「ええ、そうなの。ごめんなさい、今日は先ほどからいろいろあって、ぼんやりしているわね。懐かしい使用人の方の姿を見て、いろいろ思い出していたの。あのお義姉様のことを、おねえちゃんと呼んでいたこともあったな、なんて」

「ああ……」

「なるほど……?」

 セイディとバアルが納得したような、そうでもないような相槌を打った。エメリーンはチラリとレイの方を見遣って、それからまたセイディとバアルに視線を戻す。

「セイディ、バアル。悪いのだけれど、少し彼と二人で話をさせてもらえないかしら。もちろん部屋から出て行けなんて言わないわ。目の届くところにいてもらえると私も安心だから」

 歳若く見えるレイと、辺境伯夫人であるエメリーンが、部屋に二人きりというのがまずいことくらい、エメリーンにも分かっている。特にダイナリア辺境伯家では、前辺境伯夫人のことが思い出されるだろう。

「あ、あの、彼と私が恋愛関係だとか、恋愛関係はなくても身体の関係はありとか、そういうことでは一切ないから! 本当にありえないから! 大丈夫だから!」

「何か、そんなに否定されると逆に怪しいのですが」

 バアルの言葉に、エメリーンがうっと言葉に詰まっていると、空気を読んでくれたのかレイが助け舟を出してくれた。

「はははっ、エメリーン様はお変わりありませんね。エメリーン様と俺は、誓ってそのような関係ではありませんよ」

「ええ、そうよ。あの子爵邸での使用人の態度を見たでしょう? この別邸の使用人だけは、昔から良くしてくれたの。だから少し、昔話をしても良いかしら?」

 話をしている間も、レイとエメリーンの様子を注意深く見ていたらしいバアルが了承し、セイディもそれに従った。レイとエメリーンは部屋の中に入り、ドアを開けたままにした。ドアの入り口付近で待機することにしたらしいバアルとセイディを見て、声が聞こえない距離だとエメリーンはホッとする。

「それで、エメリーン様? 俺と何の話がしたいんですか?」

 そう言ったレイは、何故か困った子供を見るような目でエメリーンを見つめていた。
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