【完結】あなたにクズでいてほしい ~こちら滅び(予定)の国の兵士専用食堂配膳係~

空野 碧舟

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天職を見つけたのかもしれないけれど

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「だからっ、なんで1日2食にしてるの? 前回、3食にしてって言ったでしょう!」

 ナギが出した大声に、おじいさんは肩をすくめて笑うだけだ。

 ショッピングセンターで年に4回行う健康相談会。管理栄養士の資格を持っている人が他にいないということで、ナギがこの健康相談会に参加するようになって2年半になる。

 このおじいさん——武藤さん(83歳)は、糖尿病を患っており、すでに片足は義足だ。

「水沼さん、言い過ぎよ」

 小声でナギを制しに来たのは、55歳で栄養士の金子さん。金子さんは穏やかな笑顔で武藤さんに話しかけた。

「ごめんなさいね、武藤さん。水沼さんは、武藤さんのことが心配なだけなのよ」

 ——心配? そんなんじゃない……。

 ナギはその思いを唇を噛んで押し殺した。

「武藤さん、1日3食の方が膵臓に負担が少ないのは本当よ。できるだけで良いから、3食にするよう気にしてみてね。あと、そうね。書いてもらった昨日の食事で、これ。夜に食べたお刺身のトロね、赤身に替えたほうが脂身が少ないから、武藤さんには合いますよ」

 「ほー、そうか」と、武藤さんはニコニコしながら金子さんの話を聞いている。

 ——結局、優しく話を聞いてもらえればそれでいいのね……。

 高齢者相手に本気で腹を立てても仕方がないことくらい、ナギにも分かっている。だがどうしても、ナギは言わずにはいられないのだ。

「あのね、水沼さん」

 武藤さんが帰ってから、金子さんが困ったような笑顔でナギに近づいてきた。

「食生活って、そんなに一朝一夕に変えられるものではないじゃない? 私たちにできるのは、ほんの一歩のお手伝いだけなのよ」

「……そうですね」

「武藤さんは一人暮らしだし、1日3食を用意するだけでも大変なことになるだろうし」

「ええ、そうですよね」

 分かったような返事を返しながらも、ナギは全く納得なんてしていなかった。

 ——だけど、死んじゃうかもしれないんだよ? 次の相談会では、もう会えないかもしれないんだよ? 健康相談会に毎回来てるってことは、何とかしなきゃと思ってるってことじゃない。だったら、どうしてもっと生きることに執着してくれないの?

 相談に来た全員の日常の食生活を管理することなんてできるはずがない。そんなことくらい、ナギだって理解している。それでも、年に4回しかないからこそ、ここで「こうするべき」を叩き込んでおきたいとナギは思ってしまう。

 だが残念ながら、厳しい相談会は評判が悪いらしい。

 ——きっとみんな、金子さんのような優しい人に話を聞いてほしいのね……。

 ナギにはとうてい応えられそうにない相談者のニーズ。昏い笑みを浮かべて、ナギはひっそりとため息を吐いた。



************



 ——武藤さんにも、もう会えないんだろうな……。

 くしくも、あれから3ヶ月ぶりの相談会に向かう途中で、ナギはこの世界に来てしまった。

 あははと、誰もいなくなった食堂に、ナギの乾いた笑いが響く。

 食堂での仕事は、ナギには天職のように思える。何しろメランガでは、食堂で何をどれだけ食べても無料なのだ。ナギが小鉢一つを追加で押しつけても、目くじらを立てるような者はほとんどいない。

 ささやかではあるが、兵士たちの食生活改善に関われていることがナギには嬉しかった。

 だがそれも、この国が爆発してしまっては何の意味もないことになる。

「……逃げなきゃ」

 ——悪いけど、兵士たちの束の間の健康より、私は自分の命を選ぶわ。

 よしっと自身に気合いを入れると、ナギはショッピングセンターへと向かうことにした。
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