【完結】あなたにクズでいてほしい ~こちら滅び(予定)の国の兵士専用食堂配膳係~

空野 碧舟

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シュテルンのことがスキダカラー

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 ——今日も帰ってこないのかな。いや、帰ってこない方が楽なんだけど。でも、変わらずクズであることの確認はしないと……。

 ナギには大きすぎるベッドの上で、前転を2回、続いて後転を2回。シュテルンの部屋で、寝る前の運動を兼ねて暇つぶしをしていたナギは、突然バァン! という激しい音を立ててドアが開き、反射的に引きつった悲鳴を上げた。

「ひぃっ!?」

 だがドアから入ってきたシュテルンを見て、もう一度ナギは悲鳴を上げることになった。

「ひゃ、ひああっ! また血まみれーっ!?」

「うるせえ、黙れ」

「け、ケガ、ケガは?」

 黙れと言われても黙っていられなかったのは、前回同様、血の量があまりに多すぎるからだ。

「ねえよ。ほぼ返り血だ。この間からお前、俺の強さを疑ってんのか?」

「そ、そんなんじゃないよ。でも、シュテルンに死なれたら私が困るの」

「ああん? 何だ、それは」

「そ、それは……」

 シュテルンの死は、メランガの爆発に繋がる。ナギにとってはそれこそが真実だが、そんなことをシュテルンに伝えたところでどうにもならない。だからナギはまた下手くそな嘘を吐く。

「シュテルンのことがスキダカラー」

「はあ?」

 うふうふと作り笑いも振る舞ったが、シュテルンは冷めた目でナギを見つめた。

「相変わらず意味不明だな。まあ、良い。ちょっと来い」

「え? うわっ!」

 来いと言いながら、シュテルンは自分からナギに近づいて細い腕を引くと、唐突に強く抱きしめた。

  ——え?

 血に濡れた全身黒ずくめの軍服は、ナギの顔をも血に染めてしまった。

「……シュテルン?」

「あーあ。こんなに汚しちまって」

 シュテルンがナギの顔を軍服の袖で拭おうとしたが、厚手で固い布地ではうまくいくはずがない。

「無理だよ。痛いし。大体シュテルンが汚したくせに」

「そうだな。じゃあ、今日は俺がお前を洗ってやろう」

「ひえっ!? そういうことっ?」

 見上げたシュテルンの顔はやはり血まみれで恐ろしいと思うのに、ニヤリと笑われてナギの心臓がドクンと跳ねた。

 ——あ、あれ?

「おら、早くしろ」

「うひょっ!」

 意図してナギの思考を遮るつもりはなかったのだろうが、シュテルンは右手でナギを小脇に抱えた。気が急いていようといまいと、シュテルンはどうしてもナギの運び方が雑だ。

 ナギを降ろしてすぐに近づいてきたシュテルンの顔を、ナギが両手で押し返した。

「あっ、先にっ、血を落とさなきゃダメっ!」

「ああ?」

「いいから! さ、とっとと洗うよ」

「チッ、お前は本当にムードがないな」

「それ、シュテルンにだけは言われたくない」

 シュテルンの大きな舌が、ナギの首筋をべろりと這った。シュテルンの視線とナギの視線が絡み合う。シュテルンの翠の瞳が欲望に揺れるのを見つめながら、ナギはドクリと波立った心臓の音に気が付いた。

 ——こら、心臓! クズ相手に高鳴るな! い、いや、これはあれだ、セックスの快感を期待してのドキドキって、うわああぁ! それも何か嫌だあぁーっ!

「おい、何睨んでる。文句でもあるのか?」

「も、もももももんくなんか、別に」

 どもりすぎて不審なナギを、シュテルンが鼻で笑う。その不敵な笑みにまで思わず見惚れてしまったナギは、不意に自覚した。

 ——やばい。私、クズのシュテルンに惹かれてる? 「シュテルンのことがスキダカラー」が本気になるなんて、ああ、もう、絶対に無理っ!

「顔が赤いな。おい、熱でも出たか?」

 鼻が触れるほど近くで、シュテルンがナギの顔を覗きこんでいる。より赤面しそうなのを抑えるため、ナギは自身に暗示を掛けようと足掻いた。

 ——クズ爆発、クズ爆発、クズ爆発……。うん、落ち着いてきた。

 効果てきめんな暗示の言葉に、ナギの頭は急速に冷めた。

「あー、ダイジョウブ。続けて続けて」

「そうか? まあ止めるつもりは端からないがな」

 ——うん、安定のクズだ。

 ひとまず収まった胸の高鳴りにナギは安堵した。

 ——クズを本気で好きになるとか、私に限っては絶対にあり得ないから……。
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