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らっかさんの正体
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「っ!?」
——牢屋?
最初に目に飛び込んできたのは鉄格子だ。
次第に目が明るさに慣れてくると、奥のほうに固そうなベッドがあり、くの字形に横たわる痩せこけた老人の姿が見えた。
元は白だったのか、薄汚れた浴衣のようなものを身につけ、足は裸足。茶色の小さな毛布を、胸の前で抱いているその姿は痛ましかった。
唯一の救いは、老人が鎖で繋がれたりはしていないことぐらいだ。
壁が少し張り出している奥に、きっとトイレがあるのだろうと予想がついた。だがそこまで歩いていくことが出来ているのか不思議なほど、老人の足は細く頼りない。
「……元々の所有者は、旧ラオン国王でな。所有者がレドに移ったときには、まともに話が出来る状態になかった」
ブルの言葉が、言い訳じみて聞こえる。たとえそれが本当のことだったとしても、今現在の環境をもう少し整えるくらい簡単なはずだ。
——血の匂いの原因は?
「あ……? 手?」
抱いた毛布に隠れていた手がちらりと見えたとき、ナギは悲鳴を上げそうになって、両手で口元を押さえた。
——爪が、全部剥がされてる。
「な、んで」
後退ったナギの背中を、ユトがそっと支える。振り返って見たユトとトシェは無表情で、動揺のカケラもない。
今この場にあって、ナギ以外の誰もが冷静そのものだった。ナギの心とはあまりにも裏腹な、明るい声でピクが言った。
「軍事利用だよー」
「ぐんじ、利用?」
「ほら、この御守りの中身」
ピクが手のひらの上に乗せてみせたのは、かわいい花柄のピンクの小袋。とてもかわいらしいそれは、瞬間移動が出来るあの御守りに違いなかった。
だがその中身が、まさか生身の人間から剥いだ爪だとは、ナギは思ってもみなかったのだ。
かかとからふくらはぎを通って、背中から頭の先まで、ぞわりと総毛立つ。そんな感覚をナギは初めて味わっていた。いや、もしかすると両親の最期の姿を見たときに、同じ感覚があったのかもしれないが、あの時のことはそんなに明確には覚えていない。
「ナギ、大丈夫か?」
「……ゔぃ?」
ブルがナギを気遣う声に反応したかのように、老人が再び呻き声を上げた。
「……ゔぃ? ぁゔぃっ! ぁゔぃっ!」
「何だ? 珍しく興奮してるな」
「ホント。って、ええっ!?」
今にもよろけそうな足で立ち上がった老人は、前のめりにつんのめりそうになりながらも、ものすごいスピードでナギたちに近づき、カシャンと鉄格子を掴んだ。
足の爪も剥がされているせいか、ひょこひょこした歩き方だったが、老人は一直線にナギに向かって歩いてきた。
「ナァ、ゔぃ! なゔぃ!」
「えっ?」
「な、ゔぃっ!」
——もしかして、ナギって言ってるの?
やせ細った白髪の老人は、ナギの記憶には無い男だ。だが老人は、落ちくぼんだ目を見開いてナギを呼んだ。
「なゔぃ。 し、あわぜ、な、なゔぃ」
「……え?」
——幸せな、ナギ?
ナギを知っていて、かつそのフレーズを知っている男。
——まさか、そんな……?
そんなはずがない。否定の言葉は、ナギの思考の中で再び否定される。でも他に思い当たらない、と。
「……カ、ズ?」
答える代わりに、鉄格子がカシャンと鳴った。それはナギにはイエスという意味に聞こえた。
——牢屋?
最初に目に飛び込んできたのは鉄格子だ。
次第に目が明るさに慣れてくると、奥のほうに固そうなベッドがあり、くの字形に横たわる痩せこけた老人の姿が見えた。
元は白だったのか、薄汚れた浴衣のようなものを身につけ、足は裸足。茶色の小さな毛布を、胸の前で抱いているその姿は痛ましかった。
唯一の救いは、老人が鎖で繋がれたりはしていないことぐらいだ。
壁が少し張り出している奥に、きっとトイレがあるのだろうと予想がついた。だがそこまで歩いていくことが出来ているのか不思議なほど、老人の足は細く頼りない。
「……元々の所有者は、旧ラオン国王でな。所有者がレドに移ったときには、まともに話が出来る状態になかった」
ブルの言葉が、言い訳じみて聞こえる。たとえそれが本当のことだったとしても、今現在の環境をもう少し整えるくらい簡単なはずだ。
——血の匂いの原因は?
「あ……? 手?」
抱いた毛布に隠れていた手がちらりと見えたとき、ナギは悲鳴を上げそうになって、両手で口元を押さえた。
——爪が、全部剥がされてる。
「な、んで」
後退ったナギの背中を、ユトがそっと支える。振り返って見たユトとトシェは無表情で、動揺のカケラもない。
今この場にあって、ナギ以外の誰もが冷静そのものだった。ナギの心とはあまりにも裏腹な、明るい声でピクが言った。
「軍事利用だよー」
「ぐんじ、利用?」
「ほら、この御守りの中身」
ピクが手のひらの上に乗せてみせたのは、かわいい花柄のピンクの小袋。とてもかわいらしいそれは、瞬間移動が出来るあの御守りに違いなかった。
だがその中身が、まさか生身の人間から剥いだ爪だとは、ナギは思ってもみなかったのだ。
かかとからふくらはぎを通って、背中から頭の先まで、ぞわりと総毛立つ。そんな感覚をナギは初めて味わっていた。いや、もしかすると両親の最期の姿を見たときに、同じ感覚があったのかもしれないが、あの時のことはそんなに明確には覚えていない。
「ナギ、大丈夫か?」
「……ゔぃ?」
ブルがナギを気遣う声に反応したかのように、老人が再び呻き声を上げた。
「……ゔぃ? ぁゔぃっ! ぁゔぃっ!」
「何だ? 珍しく興奮してるな」
「ホント。って、ええっ!?」
今にもよろけそうな足で立ち上がった老人は、前のめりにつんのめりそうになりながらも、ものすごいスピードでナギたちに近づき、カシャンと鉄格子を掴んだ。
足の爪も剥がされているせいか、ひょこひょこした歩き方だったが、老人は一直線にナギに向かって歩いてきた。
「ナァ、ゔぃ! なゔぃ!」
「えっ?」
「な、ゔぃっ!」
——もしかして、ナギって言ってるの?
やせ細った白髪の老人は、ナギの記憶には無い男だ。だが老人は、落ちくぼんだ目を見開いてナギを呼んだ。
「なゔぃ。 し、あわぜ、な、なゔぃ」
「……え?」
——幸せな、ナギ?
ナギを知っていて、かつそのフレーズを知っている男。
——まさか、そんな……?
そんなはずがない。否定の言葉は、ナギの思考の中で再び否定される。でも他に思い当たらない、と。
「……カ、ズ?」
答える代わりに、鉄格子がカシャンと鳴った。それはナギにはイエスという意味に聞こえた。
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