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与えられるもの
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「ナギ——水沼 凪です」
「みずぬま?」
シュテルンが疑問の声を上げるが、アゴーレは黙ってうなずいた。
「良い。分かっておる」
軽い羽ばたきで出窓から飛び降りたアゴーレは、その下にある玉座に座ってナギたちを待った。玉座の前、アゴーレに向かって片膝をついたシュテルンの横に、ナギは少し悩んだが正座をした。
「なぜ、わらわに呼ばれたか、理解しておるか?」
ゆっくりとした口調は、子供のような声でありながら、やはり子供とは異なる。それは、その安定した声量やテンポのせいだ。本当の子供なら、その幼い心そのままに、声も大きく揺れるだろう。
「……ラオン国王弟を、混乱させました。またラオン国の宝を殺そうとしました」
こうべを垂れたナギは、まるで神の前で懺悔でもしている気分だ。
天使——神の使いを前にしているのだから、ナギの抱いた心情はそう間違ってはいない。ただし、それはナギが元いた世界での常識ならだ。
「シュテルン、お主、伝えてないのか?」
「は? あ? 何のことだ?」
大きなため息がアゴーレの口から漏れた。
「役に立たんのぅ」
「うるさい、俺に託したのが悪い」
「ナギよ」と突然間近で聞こえたアゴーレの声に、ナギが顔を上げると、なんとアゴーレはシュテルンの頭頂に座っていた。
着物のせいでシュテルンの顔は見えない。シュテルンが着物を暖簾のように手で横に避けると、アゴーレは素直に横座りになり、シュテルンの不機嫌極まりない顔もそのまま見えるようになった。
「すまんの。出来の悪いバカ——いや部下がのぅ、伝書鳩より役に立たんようじゃ」
「い、いえ」
ひどい言い様にナギは笑いそうになったが、眉間に皺を寄せたシュテルンの顔もすぐそこだ。
「え、えーと、あの……?」
「ラオン国のことは、どうでもいいことじゃ」
「え?」
「よその国でナギが何をしようが構わん。ナギは落下さんじゃから、他国で何をしようが罰を受けることもない。たとえ、誰を殺そうとも、じゃ」
「えっ?」
——誰を、殺しても?
驚いたナギがシュテルンの方を見ると、シュテルンがうなずいた。
落下さんに与えられた特権は、そこまで強力なものだったのかと、ナギは驚くばかりだ。
だがそんなことも、カズは知りようもない。ラオン国に落ちた。ただそれだけの運の無さで、天国と地獄というのはこういうことかとナギは思った。
「まあラオン国としては、ナギが落下さんに危害を加えることを阻止するじゃろうが、ナギを裁くことは出来ん。メランガに送り返すことは出来てもな」
「ああ、なるほど……」
ナギを拘束しただけで、それ以上のことは何もしなかったレドたちは、しなかったわけではなく、ナギを裁くことが出来なかったようだ。
「さて。わらわがナギを呼んだ理由じゃが。ナギはこのメランガに幸をもたらした落下さんじゃからの。わらわからの褒美として、何でも一つだけ願いを叶えてやろう」
「え? 褒美?」
「そうじゃ。例えば元の世界に戻りたいという願いでも、わらわなら叶えることが可能じゃ」
「えっ!?」
——帰れる? 元の世界に? そんな、まさか。
「で、でも……」
ナギはメランガに来る前、ウリ坊を避けて車ごと崖から落ちたのだ。戻ったところで身体はもうないだろう。そんなナギの思いを、アゴーレは明確に読み取った。
「ウリ坊とやらが出てくる少し前に、戻してやることも可能じゃぞ」
「えっ!?」
フフと笑うアゴーレには、どうやらナギの心の中まで見えているらしい。それが分かっても、ナギはもう疑問には思わなかった。
「疑おうとも構わぬが、無駄なことじゃの。そんな嘘を吐いて、わらわに何の得がある」
「い、いえ、疑っているわけでは」
「ほ、そうかの」
シュテルンの頭から飛び上がって、アゴーレは高い出窓の前にまた座った。
「すぐにとは言わんよ。わらわの空いている時間なら、いつでも聞いてやろう。まあ、少しだろうが長めだろうが考えてみるが良い」
「はい。ありがとうございます」
こうして、初めてのアゴーレとの面談は終わった。
ナギの少し前を歩くシュテルンの大きな背中を追いかけながら、ナギは上手く歩けているのかどうかも分からなくなってきた。
——帰れる? あの世界に?
てっきり叱られる、処罰を受けると思っていたアゴーレとの面談が、思ってもみなかった褒美を与えられる話であったこと、それもすでに諦めていた元の世界に戻れる話だと知って、ナギは困惑していた。
「着いたぞ」
シュテルンの部屋の前に着くと、シュテルンは「ちょっと出てくる」と、そのまま部屋には入らずにいなくなった。アゴーレの話を一緒に聞いていたはずのシュテルンだが、ナギには何も言おうとしなかった。
——どうせ面倒くさいって、思ってるんでしょ。
ベッドの上に身を投げ出して、緊張を解くようにハアーッと大きく息を吐く。
——元の世界に帰ったら……。
まずは住んでいた家と両親と暮らした家を両方確認しに行って、それから両親の墓参り。それからと、そこまで考えてナギの思考はぴたりと止まった。
「……それから?」
「みずぬま?」
シュテルンが疑問の声を上げるが、アゴーレは黙ってうなずいた。
「良い。分かっておる」
軽い羽ばたきで出窓から飛び降りたアゴーレは、その下にある玉座に座ってナギたちを待った。玉座の前、アゴーレに向かって片膝をついたシュテルンの横に、ナギは少し悩んだが正座をした。
「なぜ、わらわに呼ばれたか、理解しておるか?」
ゆっくりとした口調は、子供のような声でありながら、やはり子供とは異なる。それは、その安定した声量やテンポのせいだ。本当の子供なら、その幼い心そのままに、声も大きく揺れるだろう。
「……ラオン国王弟を、混乱させました。またラオン国の宝を殺そうとしました」
こうべを垂れたナギは、まるで神の前で懺悔でもしている気分だ。
天使——神の使いを前にしているのだから、ナギの抱いた心情はそう間違ってはいない。ただし、それはナギが元いた世界での常識ならだ。
「シュテルン、お主、伝えてないのか?」
「は? あ? 何のことだ?」
大きなため息がアゴーレの口から漏れた。
「役に立たんのぅ」
「うるさい、俺に託したのが悪い」
「ナギよ」と突然間近で聞こえたアゴーレの声に、ナギが顔を上げると、なんとアゴーレはシュテルンの頭頂に座っていた。
着物のせいでシュテルンの顔は見えない。シュテルンが着物を暖簾のように手で横に避けると、アゴーレは素直に横座りになり、シュテルンの不機嫌極まりない顔もそのまま見えるようになった。
「すまんの。出来の悪いバカ——いや部下がのぅ、伝書鳩より役に立たんようじゃ」
「い、いえ」
ひどい言い様にナギは笑いそうになったが、眉間に皺を寄せたシュテルンの顔もすぐそこだ。
「え、えーと、あの……?」
「ラオン国のことは、どうでもいいことじゃ」
「え?」
「よその国でナギが何をしようが構わん。ナギは落下さんじゃから、他国で何をしようが罰を受けることもない。たとえ、誰を殺そうとも、じゃ」
「えっ?」
——誰を、殺しても?
驚いたナギがシュテルンの方を見ると、シュテルンがうなずいた。
落下さんに与えられた特権は、そこまで強力なものだったのかと、ナギは驚くばかりだ。
だがそんなことも、カズは知りようもない。ラオン国に落ちた。ただそれだけの運の無さで、天国と地獄というのはこういうことかとナギは思った。
「まあラオン国としては、ナギが落下さんに危害を加えることを阻止するじゃろうが、ナギを裁くことは出来ん。メランガに送り返すことは出来てもな」
「ああ、なるほど……」
ナギを拘束しただけで、それ以上のことは何もしなかったレドたちは、しなかったわけではなく、ナギを裁くことが出来なかったようだ。
「さて。わらわがナギを呼んだ理由じゃが。ナギはこのメランガに幸をもたらした落下さんじゃからの。わらわからの褒美として、何でも一つだけ願いを叶えてやろう」
「え? 褒美?」
「そうじゃ。例えば元の世界に戻りたいという願いでも、わらわなら叶えることが可能じゃ」
「えっ!?」
——帰れる? 元の世界に? そんな、まさか。
「で、でも……」
ナギはメランガに来る前、ウリ坊を避けて車ごと崖から落ちたのだ。戻ったところで身体はもうないだろう。そんなナギの思いを、アゴーレは明確に読み取った。
「ウリ坊とやらが出てくる少し前に、戻してやることも可能じゃぞ」
「えっ!?」
フフと笑うアゴーレには、どうやらナギの心の中まで見えているらしい。それが分かっても、ナギはもう疑問には思わなかった。
「疑おうとも構わぬが、無駄なことじゃの。そんな嘘を吐いて、わらわに何の得がある」
「い、いえ、疑っているわけでは」
「ほ、そうかの」
シュテルンの頭から飛び上がって、アゴーレは高い出窓の前にまた座った。
「すぐにとは言わんよ。わらわの空いている時間なら、いつでも聞いてやろう。まあ、少しだろうが長めだろうが考えてみるが良い」
「はい。ありがとうございます」
こうして、初めてのアゴーレとの面談は終わった。
ナギの少し前を歩くシュテルンの大きな背中を追いかけながら、ナギは上手く歩けているのかどうかも分からなくなってきた。
——帰れる? あの世界に?
てっきり叱られる、処罰を受けると思っていたアゴーレとの面談が、思ってもみなかった褒美を与えられる話であったこと、それもすでに諦めていた元の世界に戻れる話だと知って、ナギは困惑していた。
「着いたぞ」
シュテルンの部屋の前に着くと、シュテルンは「ちょっと出てくる」と、そのまま部屋には入らずにいなくなった。アゴーレの話を一緒に聞いていたはずのシュテルンだが、ナギには何も言おうとしなかった。
——どうせ面倒くさいって、思ってるんでしょ。
ベッドの上に身を投げ出して、緊張を解くようにハアーッと大きく息を吐く。
——元の世界に帰ったら……。
まずは住んでいた家と両親と暮らした家を両方確認しに行って、それから両親の墓参り。それからと、そこまで考えてナギの思考はぴたりと止まった。
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