【完結】あなたにクズでいてほしい ~こちら滅び(予定)の国の兵士専用食堂配膳係~

空野 碧舟

文字の大きさ
67 / 68

番外編2 メランガのとある恋愛事情(番外編1の続き)

しおりを挟む
「いつまでトイレに篭ってんのよっ!」

 ドガンッという重い破壊音で穴を開けられたのは、アリギノ国の王宮にあるトイレのドアだ。

 ユトの肘打ちでぽっかりと開いた穴から、呑気な声が聞こえる。

「あれ? もう終わったんですか? アリギノ国王とのセックス」

「シてないわよっ!」

「そうなんですか? アリギノ国王、ずいぶん早いなーと思ったんですけど」

 用は終えていたのか、慌てることなくトイレから出て来た細身の兵士は、にひゃりと緊張感のない笑みをユトに向けた。

 人畜無害そうな、一見めちゃくちゃ弱そうなこの男が、メランガでシュテルンに次いで2番目に強いなど、一体誰が信じるだろう。

「それじゃ、帰りますか」

「あんたを待ってたのよ、この痔主ぢぬしがっ!」

 メランガで実質3番目に強いと言われるユトは、このあまりにも弱そうな見た目の男が嫌いだ。

 ユトは考えつく中で最大の悪口を男に向けて放ったが、男はにひゃりと嬉しそうに笑った。

「痔はほぼ治っていますよ。食堂のナギちゃんのお陰で」

「は? そうなの?」

「ええ。ナギちゃん、かわいいですよねー。ぼく、ナギちゃんの前だとドキドキし過ぎて挙動不審なんですけど、嫌われてないといいな」

「あんた、そんな趣味あったんだ」

 ユトが引き気味に言った言葉に、細身の兵士は首を傾げた。

「特殊な趣味じゃないでしょう?」

「いやいや、胸も発育前のあんな幼い子に、興味持ち過ぎでしょう」

「は? 幼い?」

「このロリコンッ!」

 ユトが罵倒ついでに男の頭をバシッと叩くと、男はもう一段階首を右に傾けた。

「あれれ?」

「何が『あれれ』よ。あたしの誘いに乗らないと思ったら、あんたそういう趣味だったのね」

「いいえ。ぼくがあなたの誘いに乗らないのは、……ですよ」

「は? 何? よく聞こえなかった」

 ユトが言うと、男はまたもにひゃりと笑った。

「それより、早く帰りましょうよ。ぼくは早くナギちゃんのご飯が食べたい」

「ナギちゃんの、じゃなくて、食堂のご飯でしょ」

「えー? いいじゃないですか。そのくらいの権利は主張しても」

「キモいから。この痔主ぢぬしのロリコンがっ!」

 ユトが俊速で繰り出した二段蹴りを、男は二発とも軽くかわして、ユトの前を歩き出した。

 「それにナギちゃんは、そんな子供じゃないと思うけどな」という男の呟きは、男の背中を追うユトの耳には届かなかった。

 苛々と男の後をついてくるユトをちらりと肩越しに振り返って、男の口元が微かに緩んだ。普段見せているヘラヘラした笑いではないその顔を、ユトは知らない。

 ——アリギノ国王は、好みではなかったということか。

 余計な手間が一人分減ったことを、男は微笑ったのだ。

 この男は、ユトが関係を持った男達に、密やかに新しい女をあてがっている。

 地味で影に徹したその活動は、感謝されることはあっても非難されることはない。男が取り持ったカップルは、遊びのセックスなど入る余地がないほど、お互いに満足しているからだ。

 被害を受けているのは、遊び相手が気がつくと減っているユトだけだろう。

 そんな男が唯一手こずっているのが、シュテルンだった。

 手軽に遊べる女にしか興味のないシュテルンには、男の策略はまるで効果がなかった。だがそれも、男の与り知らぬところで、近頃何か変化があったようだ。

 もしシュテルンが遊びを止めるようなことがあれば、男にとっては願ったりかなったりのはずだが、それはそれで男には面白くなかった。

 ——ぼくが受けた苛々は、必ず2倍にして返しますからね。

 腹黒な笑みを浮かべた男の背を追っていたユトが、男の少し前に出た。

「あんたが後ろを歩きなさいよっ。あたしの前を歩くなんて、生意気過ぎるでしょ」

 かわいらしい悪態を吐くユトに、男は目を細めた。ユトを追い抜くことは簡単だが、男はユトの望みどおりに、少し後ろをついていく。

 にひゃりと笑うと、そのよどんだ心とは裏腹の軽い声が出た。

「えー、じゃあユトさんのお尻は、ぼくが守りますね。まあ、ぼくのお尻はナギちゃんが守ってくれるんですけど」

「ば、バカじゃないのっ!? あたし、あんたのそういうとこ、大っ嫌いっ!」

「えー、ぼくは結構好きですよ、ユトさんのことー」

「うるさい、黙れ。この痔主ぢぬしがっ!」

 メランガに徒歩で戻る道中、タフな二人のそんなやりとりは、飽きることなく朝までずっと続いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...