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北の国で
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その日、リュシーは薬草園の手入れをしていた。
いくつかの束を作って乾燥部屋に吊り下げ、乾燥が終わったものは茶箱に入れる。
茶箱はお茶屋さんから譲り受けたものが少しずつ増えて、今の数になったのだそう。
一通り出来たかなと薬草を観察していたところで声を掛けられた。
「リュシー!」
敷地の外を見ると、パメラが浮動椅子に乗って手を振っている。
「パメラ!一人で来たの?」
予想外の人がいて驚きつつ、近くまで行く。
「椅子の動かし方を練習しながら来ちゃった」
浮動椅子は徒歩と変わらないくらいの速さしか出ない。
三十分ほどかけて来てくれたようだ。
「びっくりした。動かし方はもう慣れた?魔石の魔力は足りてる?補充は出来る?」
次々と質問するリュシーが珍しくて、くすくすと笑いながらパメラは答える。
「お母さんに頼まなくても移動出来て便利だわ。魔石の魔力は寝る前に補充してるの。灯りの魔道具よりも魔力を使うから最初は驚いたわ」
庭先で賑やかに話している声が聞こえたのか、マルゴが出てきた。
「おや、誰かと思ったらパメラじゃないか。体調はどうだい?」
「あっ!魔女様。新しい椅子でクッションを使えるようになったし、体を動かしやすくなったら、お尻の痛みが軽減したの」
「それは何よりだね。母親の体調は?」
「お母さんも元気よ。寝る前の薬が減ったかもしれない」
「良い事だね。上がってお茶でも飲んでいくかい?」
マルゴの提案に首を横に振る。
「魔女様の薬草園を見せてもらっても良いですか?初めて見るものもあるから」
「ああ、いいよ。ゆっくりしていきな」
リュシーの案内でパメラは薬草を一つ一つじっくりと観察し、いくつかの薬草を持ち帰った。
一週間後、再びパメラがリュシーの所へ来る。
「リュシー、これを受け取ってくれる?」
大きな布状の品物をずいっと差し出すので、思わずと言った感じで受け取る。
「ここの薬草を刺繍したクッションなの。浮動車で使えるように厚みを抑えてみたんだけど、使ってもらえるかな?」
まさかの贈り物に驚くリュシー。刺繍された絵を見ると、見慣れた薬草だ。
「難しい所はお母さんも手伝ってくれたんだよ。私とお母さんから、リュシーへのお礼なの」
驚きすぎて動きが止まっていたリュシーだが、じわじわと嬉しさがこみ上げる。
「あ、ありがとう・・・。友達から贈り物をもらうなんて初めてで、びっくりしたけど・・・すごく嬉しい」
ぎゅっとクッションを抱きしめて言うリュシーを見て、パメラは微笑んだ。
「パメラのお母さんにもお礼を言いたいから、今度行くね。あ、もし良かったら今度はお母さんも一緒に出掛けないかな?三人で」
「うわー!また景色が見られるの?楽しみ」
三日後、リュシーたちは北の国の上空にいた。
「こんなに沢山の雪って初めて見るわ」
頬を上気させてパメラの母親が言う。
「雪の結晶って色々あるのでしょう?溶ける前に見る事が出来るかしら?」
わくわくした様子でパメラが外を見ている。
「そろそろ下りますね」
大きな木の下に浮動車を降ろし、周囲に結界を張る。
結界の外に枝を一本置いて、観察できるようにすると、パメラと母親は景色よりも枝に降り積もる雪の結晶の観察に夢中になった。
熱心にスケッチする様子を見ていると、離れたところに人影が見えた。
どんどん近づいてきたのは無精ひげの男性だった。
「あの!この辺で子供を見かけませんでしたか?」
結界の外に出てリュシーは返事をする。
「さっき来たばかりだけど、子供は見かけないわ。何かありましたか?」
「息子が家を出て、行方が分からないんです」
その言葉にパメラ親子もスケッチの手を止めて男性を見る。
「息子さんはいつからいないのでしょう?」
「雪の中を一緒に歩いていたんですが、気が付けばいなくなっていて・・・」
浮動椅子の完成後に輝きの魔術を使う許可が出ていたリュシーは男性に問う。
「願いはありますか?」
唐突な言葉に疑問を抱きつつも、男性は心のままに言う。
「息子を見つけてくれ」
「分かりました。叶えましょう」
リュシーは髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
「この方の息子さんをここへ。『Movere』(モヴェーレ)」
言葉の終わりに両手に持っていた白く輝く毛髪が風に飛んでいく。
数秒後、男性のそばには二人の人間がいた。
一人はリュシーくらいの年齢の男の子で、居場所が突然変わった事に驚いている様子だ。
もう一人はぐったりと横になっている。
「親父!急に景色が変わって驚いた・・・おいっ!こいつ怪我してるじゃないか!何があったんだ?」
「・・・おおっ!見つかった!おいっ、大丈夫か?」
混乱する人達を放置して、リュシーはぐったりしている小さな子供の様子を見る。
呼吸をしているようなので、生きている事にほっとしつつ、回復と治癒の魔法をかける。
結界の範囲を広げ、結界内の温度を上げた。
パメラの母親が自分のひざ掛けを子供に掛ける。
ある程度の処置をして、ふぅと息を吐き出し、リュシーは無精ひげの男性を見る。
「あなたの息子さんで間違いないですか?」
「ああ、下の息子だ。こっちは上の息子だが・・・」
「願いの魔法で『貴方の息子』さんを移動したら、二人共ここに来てしまいました。すみません」
息子『達』ではなく、息子と言うので一人だと思い、魔法を行使したリュシー。
「あんた、魔女様だったのか・・・」
「回復と治癒の魔法をかけたので、怪我は治っていると思います。後は家でゆっくりと休むことが出来れば・・・家はここから遠いのですか?」
父親だという男性に聞く。
「あ、ああ、少し歩いたところにある」
男性の返事を聞いたところで、じっと様子を見守っていたパメラがリュシーを呼ぶ。
「ねぇ、リュシー、ちょっといいかな?」
男性達をその場に置いて、パメラの元へ行くと、パメラが浮動車の方へ進んで小声で言う。
「リュシー、話し声があちらに聞こえないようにする事って出来る?」
パメラの様子に何かあると思い、こくりと頷いて二人の周りだけ防音の結界を張った。
「どうしたの?」
「あのね、なんだかあのお父さん、言う事が変だったの」
「言う事?」
「最初は『息子が家を出て』って言ってたのに、その後は『雪の中を一緒に歩いていた』って言ってる。息子さんが自分で出て行ったのか、一緒に出掛けていてはぐれたのか、食い違うような気がして・・・」
パメラの言葉で先ほどのやり取りを思い出す。
確かにそうだった。そして怪我は・・・両足の腱の辺りから出血していた。
魔獣の仕業ではなく、わざとだったら・・・。
「パメラ、教えてくれてありがとう。少しの間浮動車に入っていてもらっても良いかな?」
「うん。お母さんも?」
「呼んでくるから中にいてね」
リュシーは横たわった男の子の所へ戻り、ひざ掛けを洗浄してパメラの母親に渡しながら移動を促す。
「パメラの体調が気になるので、車に行って様子を見ていてもらえますか?」
男の子を気にしつつも、パメラの様子を見るために戻る母親。
二人が浮動車に乗り込んだところで、結界を分けた。
父親は子供の様子を見ているのか、下を向いたままなので、上の息子とリュシーだけの防音結界を張って話を聞く。
「えっと、倒れていた子のお兄さんですか?」
「ああ、そうだ」
「弟さんはいついなくなったんですか?」
「いなくなった?朝から親父が連れて行ったから、帰りを待ってたんだが・・・」
「お父さんは弟さんとよく出かけるんですか?」
「いや、初めてだ。こんな雪の日に出かけなくてもと言ったが、出かけた」
そこまで聞いたところで防音結界を解く。
男の子の側に行き、怪我をしていた足の衣服を確認する。
「傷は綺麗に治っていますね。服は後で修復できるでしょうけれど・・・。あら?魔獣に噛まれたんじゃないんですね」
ズボンの裾辺りを見て言うと兄も近くで確認する。
「なんだって?ああ、真っすぐ刃物で切った・・・よう・・・な・・・。っ!親父!」
張り上げたような声で呼ばれた父親は、びくりと体を震わせ、顔を上げる。
「腰に差しているナイフを見せてくれないか?」
「ナ、ナイフは洗っていないから汚いぞ」
「いいから見せてくれ」
しぶしぶという態度でナイフを腰から外す父親。
息子に渡そうとしたその時、鞘から外して切りかかった。
嫌な予感がしていたリュシーは父親を結界の中に閉じ込める。
「くそっ!なんだこれ、通れないじゃないか!」
血がこびりついたナイフを振り、悪態をつく父親を見て息子は言葉を失う。
「親父、一体何をしようとしたんだ・・・」
ぎょろりとした目で息子やリュシーを睨んだ後、唇を片側だけ上げるように笑う。
「へっ、先にチビを歩けないようにして森に放置したら、今晩、お前を刺すつもりだったんだよ。それが、こんなところで魔女に会うなんてな」
とんでもない事を言い出した父親を唖然と見るリュシーと息子。
「えーっと、どうしたらいいでしょうか?」
こんな事態に遭遇したことが無いリュシーは困惑する。
助けを求めて浮動車の方を見ると、パメラと母親が何か言っているので、そちらへ行く。
話しの内容は聞き取れなくても、状況はしっかり見ていたらしい。
補足として父親の言葉を伝えると、パメラの母親がリュシーの肩に手を置いた。
「小さい子は少しの間ここで私が見ていてもいいのよ。後はお兄さんに任せたら?」
そう言ってもらえて肩の荷が下りた。
「お兄さんはお父さんをどうしたいですか?」
危険を承知で家に連れ帰るのか、保安部に連れて行くか、はたまた報復するか。
しばらく考えた後、苦悩するように願いを口にする。
「・・・一人で連れて行くのが難しいから、親父を保安部に運んでもらえるか?その間、弟を見ていてくれたら助かる」
リュシーとパメラの母親に頭を下げるのだった。
父親を保安部に連行し、息子が事情を話した。
その後は自宅に弟と共に戻り、二人で暮らしていくそうだ。
北の国から戻り、ほっと一息つく三人。
「変な事に巻き込んですみません。それとパメラ、ありがとうね」
「ううん。私もお母さんも大丈夫。ねっ」
「そうね。一番大変だったのはリュシーだもの。家に帰ったらゆっくりしてね。今日はありがとう」
雪の結晶スケッチが少ししか出来なかったようなので、また機会があれば出かける約束をして、その日は別れた。
いくつかの束を作って乾燥部屋に吊り下げ、乾燥が終わったものは茶箱に入れる。
茶箱はお茶屋さんから譲り受けたものが少しずつ増えて、今の数になったのだそう。
一通り出来たかなと薬草を観察していたところで声を掛けられた。
「リュシー!」
敷地の外を見ると、パメラが浮動椅子に乗って手を振っている。
「パメラ!一人で来たの?」
予想外の人がいて驚きつつ、近くまで行く。
「椅子の動かし方を練習しながら来ちゃった」
浮動椅子は徒歩と変わらないくらいの速さしか出ない。
三十分ほどかけて来てくれたようだ。
「びっくりした。動かし方はもう慣れた?魔石の魔力は足りてる?補充は出来る?」
次々と質問するリュシーが珍しくて、くすくすと笑いながらパメラは答える。
「お母さんに頼まなくても移動出来て便利だわ。魔石の魔力は寝る前に補充してるの。灯りの魔道具よりも魔力を使うから最初は驚いたわ」
庭先で賑やかに話している声が聞こえたのか、マルゴが出てきた。
「おや、誰かと思ったらパメラじゃないか。体調はどうだい?」
「あっ!魔女様。新しい椅子でクッションを使えるようになったし、体を動かしやすくなったら、お尻の痛みが軽減したの」
「それは何よりだね。母親の体調は?」
「お母さんも元気よ。寝る前の薬が減ったかもしれない」
「良い事だね。上がってお茶でも飲んでいくかい?」
マルゴの提案に首を横に振る。
「魔女様の薬草園を見せてもらっても良いですか?初めて見るものもあるから」
「ああ、いいよ。ゆっくりしていきな」
リュシーの案内でパメラは薬草を一つ一つじっくりと観察し、いくつかの薬草を持ち帰った。
一週間後、再びパメラがリュシーの所へ来る。
「リュシー、これを受け取ってくれる?」
大きな布状の品物をずいっと差し出すので、思わずと言った感じで受け取る。
「ここの薬草を刺繍したクッションなの。浮動車で使えるように厚みを抑えてみたんだけど、使ってもらえるかな?」
まさかの贈り物に驚くリュシー。刺繍された絵を見ると、見慣れた薬草だ。
「難しい所はお母さんも手伝ってくれたんだよ。私とお母さんから、リュシーへのお礼なの」
驚きすぎて動きが止まっていたリュシーだが、じわじわと嬉しさがこみ上げる。
「あ、ありがとう・・・。友達から贈り物をもらうなんて初めてで、びっくりしたけど・・・すごく嬉しい」
ぎゅっとクッションを抱きしめて言うリュシーを見て、パメラは微笑んだ。
「パメラのお母さんにもお礼を言いたいから、今度行くね。あ、もし良かったら今度はお母さんも一緒に出掛けないかな?三人で」
「うわー!また景色が見られるの?楽しみ」
三日後、リュシーたちは北の国の上空にいた。
「こんなに沢山の雪って初めて見るわ」
頬を上気させてパメラの母親が言う。
「雪の結晶って色々あるのでしょう?溶ける前に見る事が出来るかしら?」
わくわくした様子でパメラが外を見ている。
「そろそろ下りますね」
大きな木の下に浮動車を降ろし、周囲に結界を張る。
結界の外に枝を一本置いて、観察できるようにすると、パメラと母親は景色よりも枝に降り積もる雪の結晶の観察に夢中になった。
熱心にスケッチする様子を見ていると、離れたところに人影が見えた。
どんどん近づいてきたのは無精ひげの男性だった。
「あの!この辺で子供を見かけませんでしたか?」
結界の外に出てリュシーは返事をする。
「さっき来たばかりだけど、子供は見かけないわ。何かありましたか?」
「息子が家を出て、行方が分からないんです」
その言葉にパメラ親子もスケッチの手を止めて男性を見る。
「息子さんはいつからいないのでしょう?」
「雪の中を一緒に歩いていたんですが、気が付けばいなくなっていて・・・」
浮動椅子の完成後に輝きの魔術を使う許可が出ていたリュシーは男性に問う。
「願いはありますか?」
唐突な言葉に疑問を抱きつつも、男性は心のままに言う。
「息子を見つけてくれ」
「分かりました。叶えましょう」
リュシーは髪の毛の中から、白く光り輝く一本の毛をつまみ、プチッと抜き取る。
「この方の息子さんをここへ。『Movere』(モヴェーレ)」
言葉の終わりに両手に持っていた白く輝く毛髪が風に飛んでいく。
数秒後、男性のそばには二人の人間がいた。
一人はリュシーくらいの年齢の男の子で、居場所が突然変わった事に驚いている様子だ。
もう一人はぐったりと横になっている。
「親父!急に景色が変わって驚いた・・・おいっ!こいつ怪我してるじゃないか!何があったんだ?」
「・・・おおっ!見つかった!おいっ、大丈夫か?」
混乱する人達を放置して、リュシーはぐったりしている小さな子供の様子を見る。
呼吸をしているようなので、生きている事にほっとしつつ、回復と治癒の魔法をかける。
結界の範囲を広げ、結界内の温度を上げた。
パメラの母親が自分のひざ掛けを子供に掛ける。
ある程度の処置をして、ふぅと息を吐き出し、リュシーは無精ひげの男性を見る。
「あなたの息子さんで間違いないですか?」
「ああ、下の息子だ。こっちは上の息子だが・・・」
「願いの魔法で『貴方の息子』さんを移動したら、二人共ここに来てしまいました。すみません」
息子『達』ではなく、息子と言うので一人だと思い、魔法を行使したリュシー。
「あんた、魔女様だったのか・・・」
「回復と治癒の魔法をかけたので、怪我は治っていると思います。後は家でゆっくりと休むことが出来れば・・・家はここから遠いのですか?」
父親だという男性に聞く。
「あ、ああ、少し歩いたところにある」
男性の返事を聞いたところで、じっと様子を見守っていたパメラがリュシーを呼ぶ。
「ねぇ、リュシー、ちょっといいかな?」
男性達をその場に置いて、パメラの元へ行くと、パメラが浮動車の方へ進んで小声で言う。
「リュシー、話し声があちらに聞こえないようにする事って出来る?」
パメラの様子に何かあると思い、こくりと頷いて二人の周りだけ防音の結界を張った。
「どうしたの?」
「あのね、なんだかあのお父さん、言う事が変だったの」
「言う事?」
「最初は『息子が家を出て』って言ってたのに、その後は『雪の中を一緒に歩いていた』って言ってる。息子さんが自分で出て行ったのか、一緒に出掛けていてはぐれたのか、食い違うような気がして・・・」
パメラの言葉で先ほどのやり取りを思い出す。
確かにそうだった。そして怪我は・・・両足の腱の辺りから出血していた。
魔獣の仕業ではなく、わざとだったら・・・。
「パメラ、教えてくれてありがとう。少しの間浮動車に入っていてもらっても良いかな?」
「うん。お母さんも?」
「呼んでくるから中にいてね」
リュシーは横たわった男の子の所へ戻り、ひざ掛けを洗浄してパメラの母親に渡しながら移動を促す。
「パメラの体調が気になるので、車に行って様子を見ていてもらえますか?」
男の子を気にしつつも、パメラの様子を見るために戻る母親。
二人が浮動車に乗り込んだところで、結界を分けた。
父親は子供の様子を見ているのか、下を向いたままなので、上の息子とリュシーだけの防音結界を張って話を聞く。
「えっと、倒れていた子のお兄さんですか?」
「ああ、そうだ」
「弟さんはいついなくなったんですか?」
「いなくなった?朝から親父が連れて行ったから、帰りを待ってたんだが・・・」
「お父さんは弟さんとよく出かけるんですか?」
「いや、初めてだ。こんな雪の日に出かけなくてもと言ったが、出かけた」
そこまで聞いたところで防音結界を解く。
男の子の側に行き、怪我をしていた足の衣服を確認する。
「傷は綺麗に治っていますね。服は後で修復できるでしょうけれど・・・。あら?魔獣に噛まれたんじゃないんですね」
ズボンの裾辺りを見て言うと兄も近くで確認する。
「なんだって?ああ、真っすぐ刃物で切った・・・よう・・・な・・・。っ!親父!」
張り上げたような声で呼ばれた父親は、びくりと体を震わせ、顔を上げる。
「腰に差しているナイフを見せてくれないか?」
「ナ、ナイフは洗っていないから汚いぞ」
「いいから見せてくれ」
しぶしぶという態度でナイフを腰から外す父親。
息子に渡そうとしたその時、鞘から外して切りかかった。
嫌な予感がしていたリュシーは父親を結界の中に閉じ込める。
「くそっ!なんだこれ、通れないじゃないか!」
血がこびりついたナイフを振り、悪態をつく父親を見て息子は言葉を失う。
「親父、一体何をしようとしたんだ・・・」
ぎょろりとした目で息子やリュシーを睨んだ後、唇を片側だけ上げるように笑う。
「へっ、先にチビを歩けないようにして森に放置したら、今晩、お前を刺すつもりだったんだよ。それが、こんなところで魔女に会うなんてな」
とんでもない事を言い出した父親を唖然と見るリュシーと息子。
「えーっと、どうしたらいいでしょうか?」
こんな事態に遭遇したことが無いリュシーは困惑する。
助けを求めて浮動車の方を見ると、パメラと母親が何か言っているので、そちらへ行く。
話しの内容は聞き取れなくても、状況はしっかり見ていたらしい。
補足として父親の言葉を伝えると、パメラの母親がリュシーの肩に手を置いた。
「小さい子は少しの間ここで私が見ていてもいいのよ。後はお兄さんに任せたら?」
そう言ってもらえて肩の荷が下りた。
「お兄さんはお父さんをどうしたいですか?」
危険を承知で家に連れ帰るのか、保安部に連れて行くか、はたまた報復するか。
しばらく考えた後、苦悩するように願いを口にする。
「・・・一人で連れて行くのが難しいから、親父を保安部に運んでもらえるか?その間、弟を見ていてくれたら助かる」
リュシーとパメラの母親に頭を下げるのだった。
父親を保安部に連行し、息子が事情を話した。
その後は自宅に弟と共に戻り、二人で暮らしていくそうだ。
北の国から戻り、ほっと一息つく三人。
「変な事に巻き込んですみません。それとパメラ、ありがとうね」
「ううん。私もお母さんも大丈夫。ねっ」
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