君の小水が飲みたい

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7、アラクネーの少女

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「どうしたんだよ?! そっちはなんんもねえ崖っぷちじゃん?! 止まっ、止まって、ぎゃあ~! 落ちるぅ~!」

 タシッ。タスッ。

「こっえぇ~! フリーホールじゃん。なあ、ゲリ、フレキ? オレ生きてる?」

「ウオン!」「オオ~ン!」

「ええええ~! まだ走んのかよ?! どこに行くんだよ~!」

 今日も狼のゲリに乗せられて、フレキと散歩に出かけていたんだ。
 二匹が急に走り出すまでは、いつもの散歩だった。
 果物が沢山とれて、ホクホクのオレを今度はフレキが乗せてくれていたら、突然の全力疾走。
 肩がけバックをフレキがくわえてくれてなかったら、振り落とされていたと思う。
 果物満載の肩かけバッグがまさかの安全ベルトに変身とは。
 そんで、崖からのダイブかまされて、フリーホールから、またも、全力疾走のジェットコースター!
 フレキさん。バッグをくわえてくれてありがとうございます。
 ですが、もうコレは、散歩では無いだろう?!

「おん!」

「こ、こわ、怖かったぞ! 『おん』って可愛いく吠えてんじゃねえよ?! 死ぬると思ったわ!」

 フレキがやっとバッグをはなして、安全ベルトが外れた。
 ン?! ゲリがなんかくわえて来たぞ?
 女の子?! ぐったりした女の子だ!

「ゲリ! 此処に寝かせてくれ。ねえ君?! 大丈夫? オレの声が聞こえる?」

「あ、あたし、村に帰らないと。お姉ちゃんが心配してるの」

「君、どうしたんだ? 大丈夫なの?」

「お腹すいて動けないの。ねえ、お兄ちゃんから、イイニオイがするの。欲しいの」

「オレから? ああ! 果物があった! ほら、食いな!」

 オレはバッグから果物を一つ出して、皮を剥いてから女の子にあげる。

「ッツ、いってえ。慌てんなよ? それ、オレの指だし。うわっ! 果物に血が?! ああ! 待て、そんなもん食うな!」

 女の子はオレの手から離れなくなってしまった。
 果物ごと指をしゃぶっている。

「お兄ちゃん、おいしいよ~!」

「いや、もう一個剥いてやるから、オレの指を口から出して? ほら、血が出てきて、気持ち悪いだろう?」

「ううん。もうちょっとだけだから、えっと、血も、止まってるよ?」

「ああ。舐めて治してくれたんだ? 治癒能力があるのか? ありがとうな」

「わたしもありがとうなの。とっても、おいしかったの。ごちそうさまです」

 うわあ! ペコッって可愛いおじぎ! それに、この子、めっちゃ可愛いじゃん!
 こんな子が一人じゃ、危ないぞ?!

「ねえ、君の村はこの近くなの? 一緒に帰らないか? ゲリ、お前が運んであげて」

「ウオン!」

 女の子の村はスヴァルトアールヴヘイムにあるアラクネーの村だった。
 《お姉ちゃん》はすっげえ美人。さすが姉妹。

「ありがとうございます! この子を送ってくれて。それに、食事まで頂いたそうで、申し訳ありませんでした」

「いや、果物を一つだけだからね?! そんな、頭を下げられることなんてないから!」

 こんな美人に頭を下げられるなんて! ペコッっておじぎは、女の子とおんなじ仕草でめっちゃ可愛い!

「じゃ、オレ、帰らないといけないから!」

 もうなんか、いたたまれない。果物一個で美人にペコッって。
 惚れてまうやろ~!

「あ! あの、お礼に、コレを!」

「え? そんな、頂けませんよ。たいしたことして無いですし!」

「いえ、ああ。私の紡いだ布などでは、お礼になりませんね……。で、では、少しお待ち下さい! 別の物を持ってきます!」

「わあー! そんな! 違います! その布! 凄く綺麗で、もったいないから!」

「え?! 私の紡いだ布ですよ?」

「凄く綺麗です! 頂けるなら、その布が欲しいです!」

「あ、嬉しい。どうぞ、お納め下さい」

「あ! じゃあ、果物を少し置いて行きます!」

「まあ! ありがとうございます! ご親切に」 ペコッ!

 ダメだ! 惚れてまう! 早く帰らないと。

「じゃあ! さようなら!」


 なんて、その時は思って、帰ってきましたよ?
 あの、崖が階層で、スヴァルトアールヴヘイムは黒い妖精の国だって?!
 あの姉妹がいた、アラクネーの村は、蜘蛛の怪物の村だった。
 で、頂いて帰った布。実はスゲーの!
 丈夫で、汚れる心配も無く、オレ以外では細工が出来ないという魔法の布。
 丁度欲しかったリュックサックを作ってみたら、なんちゅうか、エライモノが出来てしまった。
 オレから離れても帰って来る。最早ストーカーバッグ。
 いや、内容量がコレなら、喜んでイイよな?
 無期限収納、時間停止機能付き。温度調整も出来ちまう。
 とんでもないです! 
 なんてマジックバッグだよ?!

「ああ、リック、お前さん、よく無事に帰して貰えたな?! 成人した人間の雄は絶好の餌だぞ?」

 コモンさんに言われた。青い顔で。
 ああ思い出した! 血まみれ果物! オレ、確かに喰われてる!
 女の子が言ってた『イイニオイ』は果物じゃなくて、オレから?! そうだよ!『お兄ちゃんから』ってはっきり言われたじゃん! なんて正直なんだよ?!
 可愛い女の子と美人の姉ちゃん。
 ひょっとして、オレはまだ《成人した雄》じゃないから帰らせてくれた?
 分からないけど、セーフ! いいもの貰えたし。
 血もすぐに止まってる。治癒もしてもらったし。
 アラクネーの姉妹はいい人(?)ということで。

「なあ、ゲリ、フレキ? あの姉妹はいい人(?)だよな?!」

「おん?」「うお~ん?」

 ……。どうしたお前達。いつも『おん!』『ウオン!』ってはっきり返事するじゃん。
 なんて中途半端な吠え方してんだよ?!


 こうしてオレはアラクネー特製布のマジックリュックサックを手に入れた。

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