3 / 35
3ペットにはならないってば!
しおりを挟む「……あ、おきた」
「きゅう?」
目を覚ますと、私はふわふわのクッションの上にいた。
そしてものすごい至近距離で私を凝視している二対の瞳が目の前にあった。
リュクスくんと、彼によく似た大人の女のひとだ。
「シンシア、おぼえてるー? ばしゃでねぇ、ねちゃったんだよ?」
こてんと可愛い顔をかたむけながらリュクスくんが教えてくれる。
「ここ、ぼくのいえ! きょーからシンシアのいえ!」
なるほど。どうやら眠っている間に彼の家についていたらしい。
私ってば赤ちゃん竜だから、頻繁な睡眠が必要っぽくて起き続けられなかった。
馬車の揺れがほど良くてめちゃくちゃ心地よかったんだよね。
眺めてみたリュクスくんの家は豪華なヨーロッパのお屋敷といった感じ。
レンガ造りの暖炉に、クリスタルのシャンデリア。壁には大きな絵がかかっていて、壺や甲冑が壁際に飾られている。
家具類は全部重厚で艶のある木製で、さらに侍女や護衛がいることからして、リュクスくんはいいところのお坊ちゃんなのだろう。
電子機器は見当たらないから、ファンタジー小説にありがちな中世ヨーロッパっぽい文明発展具合かな?
私の寝かされていたクッションは、ソファに乗っているようだ。
その高さに合わせて人間二人はしゃがみ込みじぃっと観察していたらしかった。
ずっと寝顔を凝視されてたなんて恥ずかしいったらない。
よだれ垂らしてなかったかな。
もう、女の子の寝顔を覗き見るだなんて配慮が足りない!
「きゅう!」
抗議をこめてひと鳴きした。
同時に尻尾をぺちっとクッションにたたきつける。
自分が竜って自覚してから気が付いたのだけど、私には尻尾の他に羽もついていた。
でも残念ながらいまのところ、どう力をこめても飛べない。
まぁ赤ちゃんだしね。
きっともう少ししたら自由に飛び回れるのだと思う。楽しみだ。
羽を動かせば訓練になるかな?
私が背に力をこめると、羽がピクピク動いた。開きそうで開かなくて、羽ばたくとはとても言えない状態だが反応はしているし慣れればいけるかもしれない。
「きゅーうー」
「はねうごいてる! ね、ははうえ、かわいいでしょう? ぼくのりゅう! シンシア!」
「えぇリュクス。とても可愛らしい竜だわ。それに真っ黒な鱗に深紅の瞳がとても綺麗ね」
「ちちうえが、かってもいいって」
「良かったわね。でももし親竜が探しに来たりしたら、きちんと返してあげるのよ」
「うん……さみしいけど。それはしかたない」
リュクスくんのとなりにいる女性は、会話からするとどうやら彼のお母さんらしい。
この親子、揃って金髪に緑の瞳、そのうえふんわり優し気で癒し系な雰囲気がそっくりだ。
そしてリュクス母はおっぱいが大きい。目の前のふわふわ谷間に女の私でも思わずダイブしたくなる。
竜の身なら許されちゃいそう。
それはともかく。
いつの間にか私がこの家のペットになることに決まってしまったみたいだが、もちろん飼われるつもりはないのです。
「きゅ!」
私は行きます。旅に出ます。
追わないでください、さようなら。と一声鳴いて歩きだそうとした。
しかし乗っていたのはソファの上。
高さがあるって完全に忘れてた。
一歩踏み出した途端、ガクッと床に落ちそうになる。
「シンシア!」
「っ!」
落ちる手前でリュクスくんが手を出して助けてくれた。
「はぁ……よかったぁ。もうシンシア! きをつけないと、だめでしょ?」
「きゅう」
すみません。助けてくれてありがとう。
でもぎゅっと抱きしめてないで、そこの床におろしてくれないだろうか。
「きゅ、きゅう。きゅう!」
「リュクス、シンシアが苦しそうよ。生き物なのだからもっと優しく扱いなさい」
「あ! ご、ごめんねシンシア。くるしかった?」
全然苦しくないから、私が鳴いてるのはおろして! って訴えてるだけだから。聞いて。
「きゅう」
「あぁ、ゆるしてくれるんだね?」
「シンシアは優しい子ね」
違う、抱きしめ直すんじゃなくて下ろして! 離して! 外へだしてって言ってるの!
私は、君の家のペットになるつもりはない!
言葉が通じないって本当に不便だ。
私は抗議のためにバタバタと手足を動かし、体をひねった。
「あ!」
よっし、ごろっと一回転したけど今度はちゃんと床に着地できた。
ちゃんと成長してるぞ私。えらい!
さっそく逃げだすために歩きだそう。
全速力で手足を動かして前へ前へと歩をすすめる。
しかしこっちの五歩に対してたったの半歩で前に回り込んでしまったリュクスくんが、しゃがみこんでじいっとその様子を眺めてきていた。
よっせよっせと歩みを進める私をながめ、可愛く首をかしげる。
「うーん? あ! あるきたいのかなぁ?」
「かもねぇ。ドアは閉めてあるし、見守ってあげなさいな」
「はーい」
違う、逃げたいんだよ。
しかし二人の会話通り、ドアは閉じられていた。
しかもやっとのことでたどり着いたドアのノブにも届かない。
何度もドアノブ目指してジャンプするけど……ジャンプしても一センチも体が浮かない。
この体、どれだけどんくさいんだろう。
丸くて手足が短くてよちよち歩きしかできないうえ、重くてジャンプもできないなんて。
竜とはいえ赤ちゃんならばこんなものなのか?
それともこの世界の竜はそろってこうなの?
自力でドアを開けることさえできないとか、二十代の成人女性としては情けないことこのうえない。
この体、不自由すぎる!
「ははうえみて、シンシアおどってる!」
「ふふふ。可愛いわねぇ」
こっちは必死に逃げ出す手口をさぐっているのに、人間ふたりは察してくれない。
踊ってるんじゃなくて、ドアノブに頑張って手を伸ばしてるの!
のんきなリュクスくんは隣で「ぼくも!」と言い出して全身をつかって踊りだした。
すぐに「じゃあ私も」とリュクス母がくるくるまわりだす。
親子の笑い声と、私の「きゅう!」という怒りの声がかさなり、とても賑やかな部屋。
隅に控えている侍女のマリーさんがくすくす笑っている。
お茶を淹れている途中のメイドのお姉さんも、微笑ましそうにみている。
必死なのは私だけだ。
どうやら私の異世界生活は、この温かいながらも意志の通じないのんきな家から逃げ出すことが第一目標らしい。
1
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
転生してもオタクはなおりません。
しゃもん
恋愛
活字中毒者である山田花子は不幸なことに前世とは違いあまり裕福ではない母子家庭の子供に生まれた。お陰で前世とは違い本は彼女の家庭では贅沢品でありとてもホイホイと買えるようなものではなかった。とは言え、読みたいものは読みたいのだ。なんとか前世の知識を魔法に使って少ないお金を浮かしては本を買っていたがそれでも限界があった。溢れるほどの本に囲まれたい。そんな願望を抱いている時に、信じられないことに彼女の母が死んだと知らせが入り、いきなり自分の前に大金持ちの異母兄と実父が現れた。これ幸いに彼等に本が溢れていそうな学校に入れてもらうことになったのだがそこからが大変だった。モブな花子が自分の願望を叶えて、無事幸せを握り締めるまでの物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる