転生した竜は異世界で幼児のペットになる

おきょう

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4赤ちゃん竜のごはん

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 リュクスくんに捕まり、ペットにされてから一週間が経ってしまった。

 あれから私は何度も何度もこの屋敷からの逃亡をこころみた。
 しかし結果は全部失敗。
 
 隙をついて部屋からの脱出には成功するのだ。
 でも廊下で一つ目の曲がり角を曲がる前に使用人の誰かに見つかってしまう。
 どうやらリュクス君は公爵家のご子息様らしく、王都に建っているらしいこの屋敷は広いが使用人の数も多かった。
 新しくペットとして迎えられた私の姿をみつけると、皆キラキラ目を輝かせて寄ってくる。どうやっても誰かに見つけられてしまう。


 なにより私はおそらく生まれたての赤ちゃん竜。
 歩くのも遅ければ飛ぶこともできない。
 自力で逃げるにはあまりにも貧弱だった。
 


「きゅう」
「リュクス様―。まーたこいつ廊下に出てましたよ。ちゃんとドアしめないと」

 今日もまた、護衛のトマスさんに捕まってリュクスくんのもとに戻された私。
 侍女のマリーさんと、このトマスさんが、リュクスくん専属のお付きらしい。

 マリーさんは前世の私より若い十九歳なのに二児の子持ちで、リュクスくんの乳母も兼任しているのだとか。
 最初は乳母としての役割だけで雇われていたそうだが、より広い分野でリュクスくんの成長を守りたいということで侍女の役職ももらったそうだ。

 護衛のトマスさんの手は大きくて、片手でガシっと私を掴んで持ち上げられてしまう。
 せめて優しく取り扱いしてほしい。
 
「あ! もう、ぼくがおべんきょーのあいだにあそびにいこうとするなんて、シンシアはやんちゃさんだなぁ」

 そして今日も私を受け取ったリュクスくんがほのぼのとした笑顔で抱きしめる。
 屋敷からの脱走を企てていたのだと、気づいてくれる欠片もない。

「坊っちゃま。昼食の用意がととのいましたわ」
「ごはんだって。シンシア、いこ」
「きゅぅ……」

 侍女のマリーさんの声に、私は脱出をいったん休憩することにした。
 そのままリュクスくんに抱かれながら食堂へとむかう。
 でも四歳児に赤ちゃん竜は重い。

「おっととー」
「きゅっ⁉」

 よたよた頼りなく進んだもののすぐに腕の限界がきて落とされかけ、マリーさんに引き渡された。
 

 
 たどり着いた食堂には、使用人さんしかいなかった。
 リュクスくんの両親は忙しいらしく、昼食はたいてい私と二人きりだ。
 でも朝と夜は家族一緒に食べている。

「うれしいな。いっしょにたべるとおいしいよね」

 にこにこ顔のリュクスくん。
 いつも一人だったお昼ごはんで、一緒に食べる相手ができて嬉しいのだろう。



 そうして始まったお昼ご飯の時間。
 私は、目の前のテーブルに並んだ食事をにらみつける。

 籠に盛られているのは、香ばしく芳しい焼きたてパン。
 お皿を動かすだけでふるふる揺れるスフレオムレツには真っ赤なトマトとオニオンのマリネが添えられている。
 大きなウインナーには香草が練り込まれているみたい。
 ほかに野菜たっぷりのスープと、搾りたてのオレンジジュース。
 高級ホテルで出る食事みたいな完璧なごはんを前に、私は我慢を強いられていた。

「きゅう! きゅうきゅう!」

 食べたい食べたい食べたい!

「シンシア、のぼっていいのはイスまでだよ。テーブルはだめー」

 食堂の八人掛けの大きなテーブルの、隣の席に座るリュクスくんにたしなめられた。
 わかってます。私、心は大人ですから。
 テーブルにのぼるだなんてお行儀のわるいことはしませんとも。

「あぁシンシア! よだれよだれ!」
「坊ちゃま、こちらのハンカチを」

 よだれは仕方が無い。だって体は赤ちゃんだもの。
 
「さぁシンシアもどうぞ」

 よだれを拭いてもらったあと。
 マリーさんに抱っこされた私は、床に降ろされる。
 リュクスくんの足もとで差し出されたのは深めのお椀に注がれたミルクだ。


 この床におかれた、人肌に暖められたミルク。

 これが私のごはん。

 たったのこれだけ。

「きゅう……」

 思わずため息をはいてしまう。

 ……私だって、最初は人間と同じ食事をもとめましたさ。
 テーブルで食べたいと訴えましたさ。
 しかしリュクスくんが本で調べた結果、竜の赤ちゃんの離乳食開始は生後五年後からということが分かった。
 それまでは母竜がもつ自分の魔力を栄養として与えているらしい。
 っていうかやっぱり魔力ってこの世界にあるのね。魔法つかえるようになりたいな。
 
 母竜の魔力以外で唯一赤ちゃん竜が摂取できるのが、ムゥムという動物のミルクなのだとか。
 つまり私は、リュクスくんの席にならぶ美味しそうなご飯を食べられないのだ。
 ミルク以外は絶食。
 信じられない。

「きゅ……」

 あぁ、パン美味しそう……バターをたっぷり塗ったふわふわもちもちのパン…絶対おいしい。 
 リュクスくんのちいさな口に、ちぎったパンが放り込まれる。
 噛むたびにやわらかそうなふにふにほっぺが動いて、ごっくんと細い喉がのみこんだ。
 口元がふにゃっと緩んで、緑色の目が細くなって、あぁ美味しいのだなと見ているだけで分かってしまう。

「きゅ!」

 は! リュクスくんがパンの欠片を落とした!
 床に落ちたそれに、そろりそろりと手……というか私の前足がのびていく。
 あぁ、だめだ。落ちたやつなのに。
 お行儀わるすぎるよ……だめ、だめなのに止められない。

「こら! シンシア!」

 ぺしっとマリーさんに手を叩かれてしまった。
 そしてすぐにパンの欠片が回収されていく。

 気づいたリュクスくんも、怖い顔を作って見おろしてくる。

「だーめだよ! シンシア、きのう、たいへんだったでしょ!」
「きゅー……」

 そう昨日、私は別に構わないだろうとリュクスくんの目の離した隙に彼のおやつのクッキーをいただいたのだ。
 甘くてサクサクでものすごく美味しかった。
 しかしその一時間後、気持ち悪くてゲロゲロ吐き出すことになってしまった。
 
 あんな気持ち悪いのはもういやだ。
 でもご飯がたべたい。
 身体的にはミルクで十分だとしても、普通の赤ちゃん竜とはちがって、私はそのパンの味をしっている。
 お肉のジューシーさも、野菜のみずみずしさも、どれだけ美味しいかも知っている。

 それを赤ちゃん竜卒業の五年後までいっさい食べられないなんて! 絶望しかない!

「ほら、ミルクおいしいよ?」
「きゅう」

 ミルクじゃない。欲しいのはこれじゃないんだよ。
 床にお皿もなんかいやだ。
 それでもお腹はすくので、私は肩を落としながらもチロチロ舐める。
 まるで犬猫みたいな食べ方だけれど、椅子に座らせてもらったってテーブルに届かないし。
 結局お皿に顔を突っ込んでミルクを舐める体勢になるので、床のほうが食べやすいのだ。

 
「んー! ういんな、おいしーい!」

 にこにこで食べるリュクスくんの声が、もの凄く羨ましい。

「あぁシンシア! またよだれが……!」

 マリーさん、床汚しちゃってごめんね。
 なにせ赤ちゃんなので、もうしょうがないのです。




 
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