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6おさんぽ
しおりを挟むお昼寝をして起きた時には、もうリュクスくんは部屋に戻って来ていた。
そのまま一緒にお昼ご飯を食べて、午後はどう過ごそうかと思っていたころ。
「シンシア。おさんぽいこ」
そうリュクスくんに誘われた。
でもさ、お散歩っていっても、どうせ廊下をテクテク歩くだけでしょ?
この一週間、何度も同じ誘いに乗っては落胆させられた。
外にはまだ一回もだしてもらえてない。
だから私はふてくされた気分で、プイっと首を横に背けてやったんだ。
「きゅっ!」
「そっかー。シンシアうれしいんだね!」
この丸わかりの嫌がりっぷりを見てどうしてそう取れるのかな!
「きゅう! きゅー!」
「あの、リュクス坊ちゃま。シンシアは嫌がってるのでは?」
良かった、マリーさんには伝わってたらしい。
でもリュクスくんは不思議そうだ。
「えー? そうかなぁ。シンシア、おさんぽすきだよね!」
「きゅう!」
廊下を歩くだけのお散歩は好きじゃないよ。
外に出たい。外に出たい、外に出たい!
閉じ込められた私は爆発しそうだ。
「きゅう、きゅー!」
「そうだよね! すきだよね! ぼくもすきー。さぁいこう!」
でもやっぱり意志が通じることはなく、私はがっくりと肩を落とすのだった。
……同じ廊下を行ったり来たり。
どうせそんなお散歩でしょ? どれだけ広いお屋敷でももう飽きたよ。と思ってごめんなさい。
連れて来られたのは、なんとお庭でした。外でした!
目の前に広がる豊かな緑に、色とりどりの花。
土の香りに、肌を撫でる風。
外に出られたという開放感に、私のテンションは爆あがりだ。
「きゅう! きゅ、きゅう!」
「まぁ坊ちゃま。シンシアとても嬉しそうですね」
「やっぱりシンシア、おさんぽすきなんだね!」
うんうん。こっちのお散歩は大好き。
でも広い庭の向こうにそびえる壁は大人の背の高さよりずっと高くて、飛べない私にはどうやっても越えられないのだろう。
よじ登るのももちろん不可能っぽくて残念だ。
本当の意味で外には出られてないけれど、ここに来て初めての庭遊びは凄く嬉しい。
むこうの世界にはなかった気がする、見覚えのない花がたくさん植えられている。
何より広い庭は、走らずにはいられない。
「きゅ、きゅう!」
私は嬉しさから全速力で駆けだそうとした。
「あ、シンシア!」
しかし一歩目にして蹴躓いて転んだ。
ころっと横に転がって、二回転もしてしまった。
「シンシア、だいじょうぶ?」
「きゅう!」
大丈夫、いたくないよ。心はちょっと痛いけど。
でも今度こそ、と思って気合いをいれてまた走り出したけれど、やっぱり転んだ。三回転だった。
「シンシア、ゆっくりゆっくりね?」
「きゅう!」
さらに張り切ってもう一度、私は四本の足で駆けだす。
しかし何度やっても走れなかった。
急ごうとすればするほどに足がもつれ、転がって何回転かしてしまう。
短い脚と重くてまん丸な体が恨めしい。
「きゅう……」
「シンシア、本当に竜なのかしら」
「しっ! マリー、それはいっちゃかわいそうだよ」
「す、すみません失言でしたわ」
うーん。もしかすると私ってよその赤ちゃん竜よりどんくさいのかな。
「シンシア。竜の移動って飛ぶのがほとんどだから、大人でも歩くのはとてもゆっくりらしいぞ」
護衛で控えていたトマスさんが教えてくれた。
「そうなんだ。シンシア、よかったねぇ」
そっか、私の運動神経のせいじゃなかったんだ!
竜の移動は歩きじゃなくて飛んでするもの。
なるほどなるほど、それならもう少しして飛べるようになれば問題ないじゃないと、気分があがったのは一瞬。
「でもまぁ、飛ぶのは生まれてすぐにできるはずなんですけどね」
「そうなんだ」
「まぁ……」
「シンシア、かわいそう」
ふたたび皆からの憐れむような視線が私に注がれた。
なんてこと、飛べないのは普通じゃなかったのか。
他の赤ちゃん竜は飛べるのか。
「きゅう」
ショックをうけつつ、私は哀愁の目で広い空を見上げた。
私よりちいさな小鳥が群れをなして羽ばたいている。
いつか私もああやって華麗に自由に飛べる日がくるよ……ね?
ちょっと成長が遅いだけだよね? ね?
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