転生した竜は異世界で幼児のペットになる

おきょう

文字の大きさ
7 / 35

7夜中の襲撃

しおりを挟む

 リュクスくんに拾われて以来、私の毎日はとってものどかだ。

 朝はリュクスくんと同じベッドで目覚め。
 毎食リュクスくんの足元でご飯を食べて。
 夕方までリュクスくんと遊んで、一緒にお風呂に入って眠りにつく。

 お勉強の時間だけは気が散ってしまうからと別室で、マリーさんと二人でのんびりして過ごすけれど、ほぼ二十四時間彼と一緒だ。 

 仕事をしなくていい。
 いつでもどこでも寝ていい。
 家事もしなくていい。
 前世の過労死するほど働きづめだった毎日とは比較できないほどまったりした生活は、うっかりこのままでもいいかも、なんて度々思ってしまうくらいに心地がいい。

 
 でもやっぱり外へ出て自由に生きてみたいな。
 ペットという『飼われる』立場は嫌だな、と思ってしまう複雑な気持ちは消えないのだ。

 外へのあこがれという小さな悩みをもちつつも、抵抗できる術もなく、過ぎていくのどかな毎日。




 ――その日々が激変するきっかけが、唐突とうとつに訪れた。



「きゃあぁぁぁぁぁ! 誰か! 誰かぁー……!!」

 誰もが寝静まっていた真夜中のこと。
 屋敷に響きわたった大きな悲鳴に、私はビクっと目を覚まし顔をあげる。

「きゅう?」

 いったい何ごとだろうと首を伸ばし、きょろきょろ辺りを見回した。
 すると暫しして、部屋の外からどたばたと走り回るいくつもの足音と、怒鳴ったり叫んだりするような大人のたくさんの足音が聞こえるようになった。

「侵入者だ!!」
「複数いるぞ、全員逃がすな!」
「剣をもてるものは全員でろっ!」

 男たちが怒号をあげ、廊下を走りまわっている。
 いくつもの悲鳴と、何かを壊すようなガンゴンッという大きな音。
 屋敷内は緊迫した空気に包まれていて、私は怖くなって息をつめて固まってしまった。
 寝ている間に見知らぬ誰かが家に勝手に入って来たなんて、こわすぎる。
 こっちに来ないよね。大丈夫だよね? ……目的はなんだろう。

「南だ! 南の方に逃げようとしてるぞ!」
「きゃぁぁあ! 誰か、お医者様を! 血が、血がとまらないわ!」
「ひぃっ、早く捕まえてぇ!」

 怪我人が出たのだろうか。
 ますます怖くて、私はぎゅうっと身体を縮めてしまう。
 大人の竜なら――魔法をつかえたら――力を持っていたら、戦えたのだろうか。
 でも今はただただ怖くて、震えるしかできない。

「シンシア……?」

 さすがの騒ぎに眠りの深いリュクスくんも起きてしまったらしい。
 暗闇の中、上半身を起こし目を擦ってパチパチさせてから、不安そうにドアの向こう側をみた。
 
「なに?」
「きゅう」

 侵入者だって。危ないからここで大人しくしていようね。
 そう思って彼を見上げると、リュクスくんはもうベッドから降りようとしていた。

「きゅう!」

 行っちゃだめだよ! 
 そう声を上げた私に、リュクスくんは違う方向を指さす。

「……シンシア。あっち」

 彼は指した部屋の奥の方へと駆けていく。

「きゅ?」
 
 何をするつもりだろうと、ベッドのわきに置いてある踏み台に助けられつつ私も降りて着いて行くと、彼は腰をかがめて部屋の奥の壁に手をあてていた。
 そして床に近い高さの壁と柱のつなぎ目を指で探り、難しい顔をしていたかと思えば。

「よ、いっしょ……」
「きゅ!?」

 ギィっという重い音と共に、壁の一部が扉みたいに開いた。
 中は何もない、大人が体育座りをしてぎりぎり入るだろうと言った感じの空間だ。

「シンシア。ここ、きんきゅーの、かくれるとこ」

 こんなのがあったのか。
 何よりたった四歳で、彼は緊急時はここに隠れるのだと理解しているのか。
 きっと大人が何度も何度も教え、リュクスくんも大切なことだと分かって覚えたのだろう。

 ……つまり、こういう非常事態がおこる可能性が結構高かったということ。
 公爵家という立場からなのか、それとも違う理由からなのか、またはこの世界では当然のことなのかは分からないけれど。

 それでもこの世界の子供は前世よりもずっと危ない中で生きているいるんだと、衝撃を受けてしまう。

 リュクスくんは私を抱いて穴に入り、そこにしゃがみ込むと内側の取っ手を引いて閉じた。
 ぎりぎり周りが見えるくらいの薄闇から、本当の暗闇になる。
 真っ暗闇の中、狭い隠れ穴で私をぎゅうっと抱きしめるリュクスくんは、ガタガタと震えていた。
 テキパキと隠れたところから冷静にみえていたけれど、やはりとても怖がっている。
 
「……きゅう」
「しっ」
「………」

 私は身体をリュクスくんのほうに摺り寄せた。
 ぎゅうっと、私を抱くリュクスくんの腕の力が強くなる。
 少し苦しいけれど、今は文句は言わない。
 私も怖いから、彼に力いっぱい抱き付いた。


 ―――二人で隠れ穴の中で抱きあいながら、ただ息をつめて待つしかない状況。
 
「いちにちでも、みっかでも、たすけがくるまではここにって」

 そう教えられているのだと言うリュクスくんと、私は真っ暗闇の中でただ待った。
 

 どれくらいたっただろうか。


 私たちのいたリュクスくんの私室に、誰かが大きな音を立ててドアを開け、荒々しくはいってきたのが分かった。
 足音が、まずはリュクスくんのベッドの方へと向かって行く。
 そして今度は、部屋の奥……私たちの隠れている方に近づいて来る。

「っ……」

 一歩一歩、確実に近くなっていく足音に、私たちはお互いの心臓の音が聞こえるくらいに強く抱き合いながら、息をのむ。

「だいじょうぶ」

 リュクスくんが、吐息ほどの小声で私に囁いた。

「ぜったい、ぜったい、シンシアはぼくがまもるから。だいじょうぶ」
「っ……きゅう」

 守ろうとしてくれている。それがもの凄く嬉しい。
 嬉しいけれど、体は赤ちゃんでも私は私の方が彼より大人だと思っている。
 いざとなったらこの鋭い牙で相手にかみついて、尖った爪で引っ掻きまくって、どうにか隙を作ってリュクスくんを逃がさなくては。  

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生してもオタクはなおりません。

しゃもん
恋愛
 活字中毒者である山田花子は不幸なことに前世とは違いあまり裕福ではない母子家庭の子供に生まれた。お陰で前世とは違い本は彼女の家庭では贅沢品でありとてもホイホイと買えるようなものではなかった。とは言え、読みたいものは読みたいのだ。なんとか前世の知識を魔法に使って少ないお金を浮かしては本を買っていたがそれでも限界があった。溢れるほどの本に囲まれたい。そんな願望を抱いている時に、信じられないことに彼女の母が死んだと知らせが入り、いきなり自分の前に大金持ちの異母兄と実父が現れた。これ幸いに彼等に本が溢れていそうな学校に入れてもらうことになったのだがそこからが大変だった。モブな花子が自分の願望を叶えて、無事幸せを握り締めるまでの物語です。

処理中です...