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2-②
しおりを挟む将来女王となることを、ロザリアは受け入れている。
当然のことをいまさらにと言うふうに、ふんと鼻をならしてみせた。
「私にだって王族に生まれた者。責任くらい承知しているわ。ロイテンフェルトの為ですもの、政略結婚だろうがなんだろうが、結婚くらい喜んでします。よほどの相手ではない限り嫌がらないわ」
「そうかそうか。喜ばしいことだ」
「それで、何方?」
「ロザリアもよく知っている人物だ。誰だと思う?」
勿体ぶってみせる父に、ロザリアは片眉を上げた。
頭の中に覚えている貴族たちの顔を次々に思い浮かべてみる。
「王家と婚姻を結びたい家でしょう? その上、独身。さらに私とほどほどに年齢があって、お互いの家に利益がある人」
「そんなに数はないな?」
「えぇ。おおかたグラリエール公爵か……あとはロニ公国の第二公子あたりかしら」
「残念、違う」
「だったら、あとはメロウ侯爵家の次男とか。リーリオ伯爵の三男とか?」
「それも違う」
「うーん? なら、スワロー男爵の子息は? 爵位は低いけれどお金はあるもの。年は離れているけれどココ侯爵も可能性ありかしら」
「……ロザリア、一番可能性のある男をわざと外しているだろう」
「え? えぇっと……」
エリックの指摘どおり、ロザリアは一番可能性の高い人物の名前をわざと口にしていなかった。
言葉として出してしまえば、現実になってしまいそうで。
それが嫌だから、あえてはずしたのに。
しかしロザリアの逃げ道を防ぐかのごとく、エリックは彼の名前を口にしてしまう。
「我がロイテンフェルト王家、第一王女の婿として迎える人の名は、セイン・ルー・ニーチェ殿。隣国ニーチェ国の第四王子だ」
ニーチェ国は、このロイテンフェルト国と国境を隣接する隣国。
長年に渡って友好を築いてきた親しい関係である。
血による絆を深めて、関係をより強度なものにすると話が出るのはとても自然な流れだった。
でも。
「………やだ」
「嫌がらないと、先ほどいったばかりだろう」
「余程の相手でなければ、とも言ったわ。セインが旦那様なんて絶対いや。上手くいくはずがないじゃない。お父様は一体いままで、娘の私の何を見てきたの? 私が一度だってセインを褒めたことがあった?」
「まぁ確かにお前たちは、顔を合わせるたびに問題を起こしている。が……しかし。見ず知らずの男よりよほど良いだろう?」
エリックの言葉に、ロザリアは眉を吊り上げる。
(まったく良くないわ!)
たしかに行事や会談がある度にお互いの王や重鎮を招待しあっていることもあり、ロザリアもセイン王子も幼いころから何度も顔を合わせてきた。
二人はいわば、幼馴染と呼べる間柄だ。
でもセインのことを良く知っているからこそ、ロザリアはこの婚約話に頷くことなんてできなかった。
「気が合わないのよ。口を開けば文句ばっかり!」
「遠慮なく言い合える相手に出会えるのは。なかなか無い貴重なことだぞ。それにな、お前の相手には思慮深く冷静な男がいいとおもうのだ。放って置いたらどこまでも突っ走っていくから、止められるくらいの気概がないといけないだろう?」
「それってもしかして、私に思慮深さと冷静さが足りないと言う意味?」
「まぁ、もう少し落ち着きを持ってほしいとは思わないでもないな」
父からの微妙に遠回しな小言に、ロザリアは不満そうに口を尖らせてそっぽを向く。
父のエリックと亡き母フローラは、周囲も羨む仲の良さだった。
亡くなって五年もたつのにエリックは後妻はおろか側室さえ取ろうとせず、王家というのに直系の子供はロザリア一人きりという少し奇異な状況。
そんな相思相愛な二人を見て育ったのだから、自分が築く家庭にも愛の溢れたものを夢見るのは当然だ。
あまり他人に嫌われる性質でないロザリアだから、政略結婚だろうと相手と上手くやれる自信もあった。
(なのに、よりにもよってセインだなんて)
大抵の人と仲良く出来るロザリアの、唯一の例外が相手だなんてがっかりだ。
二歳年上であるニーチェ国のセイン王子。
彼とは、本当にことごとく気が合わない。
冷静沈着なセインと明るく素直なロザリアの性格は正反対で、昔からどうやっても仲良く出来ないのだ。
だからと言って簡単に拒否出来ないことも分かっているから、ロザリアはため息をはいて肩を落とす。
一介の貴族どころか、平民であっても基本的には親同士の話し合いか、もしくはお見合いかで決まる世の中だ。
世の女の子はロマンス小説のような熱く燃えるような恋愛の末の結婚をもちろん望んでいるけれど、実際に恋愛結婚する人なんてあまり聞いたことがない。
「……決定なのね?」
「あぁ。決定だ。すでに婚約披露の場の準備を進めている。明日にはニーチェ国から王子御一行も到着される予定だ」
「明日!? 待ってよ。ニーチェ国の王城からここまで1か月半はかかるはずよ?」
急過ぎる予定に驚いて、思わず立ち上がったロザリア。
勢いをつけ過ぎてテーブルの上のカップが跳ねて、白いクロスに紅茶の茶色いしみがじわじわと広がっていく。
でも今はそんな事にかまってられない。
(両国の話し合いの上に婚姻が決定して、婚約披露の準備、その後政務や諸々の予定を立ててニーチェ国を発って今にいたるまでに、どれほどの月日があったと言うのよ)
想像するだけでも少なくとも半年以上、いやおそらく年単前から計画されていたはずだ。
心の準備さえさせてくれないのかと目眩さえおぼえて、手を付いたクロスの上できゅっと手を握り込む。
「いくらなんでも勝手すぎるわ。まさか明日だなんて……こんなに直前になるまで秘密にしておくなんて、信じられない」
「セイン殿が相手だと言ったら嫌がってしばらく行方をくらます程度のことするだろうからな」
「あ、当たり前よ。せめて抵抗くらいさせて貰わないと気が収まらないもの」
最終的に断ることなんて不可能と分かってはいても、ロザリアが大人しく頷くなんてありえない。
せめて納得いくまで悪あがきをさせて貰わないと。
(あぁ、そうか。顔合わせが明日にせまるまで私に秘密にしていたのは、そんな行動をやらかす隙を与えないためなのね)
準備期間さえあればセインの来る時期に合わせて城下へと一時的な家出くらいしてしまうロザリアへの対抗策のうちの一つなのだろう。
ロザリアの性格がこうだから、ここまで強引に進めるに至った経緯と理由に理解はできる。
だがもちろん納得はできない。
テーブルの上の拳を震わせて睨みつけてくる娘を見あげながら、国王エリックは朗らかにほほ笑んだ。
「私の後を継ぐ大事なお客人だ。いつものようにけんか腰にならないようにな」
「……セインに言ってちょうだい。いつもいつもいっつも!悪いのはセインだもの!」
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