リフェルトの花に誓う

おきょう

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3-②

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 見知らぬ余所の男と結婚させられるよりよっぽどいい縁談だ。

 何年も王宮に仕えてロザリアとセインの関係を見てきた騎士や侍女たちの誰もが賛成している。
 セイン王子はロザリアの伴侶としてふさわしいと、誰の目から見ても明らかなのだ。

「…分からないわ」
「はい?」
「分からないけれど、セインだけは駄目な気がするの! 他の人とは違いすぎるもの! むずむずするの!」
「んんん??」

 両手を握り占めてまで力説するロザリアに、ジンは太い眉を寄せて首を捻る。

(これってセイン王子だから・・・動揺してるって意味だよなー)

 しかしロザリアはセインにだけ持っている特別違う感情が何かをまったく理解していない。
 15歳の乙女にしては鈍すぎないだろうか。

「普通は5つか6つで初恋くらい経験してるはず……箱入りに育て過ぎたか? いやでもその辺の令嬢なんかよりよっぽど外に出てんのに…」
「何ぼそぼそ言っているの?ジン?」
「あー…のねぇ、姫様?」

 さすがに世間様からずれ過ぎている感覚に心配になったジンは、せめてヒントくらいはやるべきだろうと口を開こうとした。
 しかしその台詞は音になることなく、後ろから発せられた若い女性の声にかき消されてしまう。

「ロザリア様!」
「ミシャ」
「ん?おー、姫様のお付きの侍女さん……大丈夫か?」

 ミシャの額には汗がにじんでいて、呼吸も荒い。
 なんとか体裁を繕って立ってはいるものの、今にも倒れそうな有様だ。

「お、お見苦しくて…申し訳…ありません。ロザリア様を探して王宮中を駆け回っていたもので…」
「それはそれは…ご苦労様」

 王女という立場のロザリアが普段いるような奥まった区画から、騎士たちが鍛錬するようなこの場までは幾つもの建物と庭園を隔ている。
 まっすぐに歩いてきたとしても相当の距離があり、馬で移動してしまうことも珍しくない。
 そもそもが王女様がこんな汗と埃にまみれた男の園まで来ることを想定した構造をしておらず、むしろ見苦しいものは王族や訪れる客人からなるべく見えないように、離れた場所に造るのが当たり前なのだ。

 ロザリアの立ち寄りそうな場所をしらみつぶしに回りながらここまでたどり着くまでに、どれほどの労力を使ったのか。
 その苦労を想像すれば、さすがのジンも息を荒げている侍女に対しての同情心も沸くものだ。

「おい姫様……」
「ご、ごめんなさい、ミシャ」
「いいえ…ロザリア様の行動力を甘く見ておりましたわ。最近大人しくしてくださっていたものだから油断しておりました……私、精進いたします!」
「え、えぇ。頑張ってちょうだ、い?」

 よく分からないがミシャは何やら固い決心を決めたらしい。

「んで、そんな必死に姫様を探すなんて、何かあったのか?」
「……………あ」

 ミシャに訪ねてみたジンだったが、答えたのはロザリアの声だった。
 小さな声を漏らしたロザリアの顔を屈んで覗き込んでみると、青い顔をして視線をさまよわせている。

「わ、忘れてた」
「何?」
「思い出していただけたようで何よりですわ」
「だから何?」
「あのね、リンヘル伯爵夫人のダンスのレッスンの日だったの。2時から…」
「あー。あのやったら行儀やマナーに厳しい怖いおばちゃんね」

 礼節に厳しく少しの不作法も見逃さないマダムは、イマドキの若い少女たちにとって恐怖の対象にもなっている。
 しかも怖い教師との授業の時間が過ぎているのにロザリアはここにいる。
 それでミシャが大慌てでロザリアを探しにきたと言うことか。
 怒れるリンヘル伯爵夫人を必死でなだめている侍女達の姿が目に見えるようだ。

「…相当なご立腹ですわ」
「あぁぁぁ…ジ、ジン!」
「いや、俺に振られても。大人しく謝るのがいいんじゃね?」
「うぅ。ね、ジンも一緒に来て?」
「あー、うん…。でもほら、俺もさすがに仕事にもどらないと」
「私を護るのが仕事でしょう?!」
「いやいや、だって可愛い部下たちが首を長くして待ってるしなー。うんうん、ってことで頑張れ姫様!」

 ぐっと親指を突き立てて励ましてから、ジンは大きな手でロザリアの髪を一度撫でる。
 そうしてからお説教の嵐に巻き込まれない為、砂埃の舞う鍛錬上に足を向けて後ろ手を振りつつ足早にその場を退散するのだった。
 背中に恨めしそうな文句が届いたけれど、もちろん聞こえない振りをして。
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