6 / 39
3-①
しおりを挟むぱたぱたとした軽やかな足音が遠くからこちらへと近づいてくるのが聞こえて、その足音の主に心当たりがある第一王女付き騎士団の副隊長ジン・カーベルは動きを止める。
「副隊長?」
ふいに停止してしまったジンに向かって剣を構えていた見習いの騎士が、首を傾げて大柄な体躯を見上げた。
「あー…姫様が来たわ」
苦笑してからジンは剣を腰の鞘へと戻す。
逆立てた赤毛の後頭部を掻きながら眉を下げて「悪い」と言いながら両手を合わせた。
「ちょい抜ける。あとでもう一回見てやるから自主練しててくれ」
「はっ!了解しました!ご指導有難うございました!」
規則正しく敬礼する騎士見習いに手を振って鍛錬場から出ようとしているジンの視線の先には、綺麗なドレス姿にも関わらず駆け足でこちらにかけてくる小柄な少女の姿。
近づくにつれて鮮明になるのは、興奮のあまり赤く染まっている頬と、つり上った眉。
どこからどうみても彼女の機嫌はよくないようだ。
その分かりやす過ぎる顔に、笑ったら悪いかと思いながらもうっかり噴き出してしまった。
「ジン!!」
体当たりと呼ぶにふさわしいほどに、ロザリアはジンの広い胸元に勢いをつけて飛び込んでくる。
難なくその小さな体を受け止めたジンは、苦笑しつつロザリアの頭に手を置いた。
「おいおい姫様。むさっくるしい鍛錬場なんかに一人で来ていいのかー?また侍女長殿にお叱り受けるぞ」
「叱られてもいいの!そんな場合じゃないの!」
「どうせまたセイン王子にこんな意地悪されたー。あんなこと言われたー。だろ?」
「そう!…?あら、セインが来てるって良く知っているのね」
「いやいや、一応は姫様専属騎士団の副隊長だからね?俺。警備の都合上、姫様関係の客人とかは全部把握してるに決まってるでしょ」
ロザリアは思いもつかなかったようで、驚いたように頷いている。
「それなら知っているの? セインが私の……だなんて」
認めたくないらしく、彼女は肝心の部分を音にはしなかった。
しかしジンは何を言いたいかなど簡単に読んでしまう。
少しだけ昔。雑用ばかりで暇を持て余した若い見習い騎士達は、おしゃまでいたずら好きな王女殿下の体のいい遊び相手にされていた。
ジンは面倒見の良い気質なこともあって殊のほか懐かれてしまい、ロザリアが物心ついた頃からの知り合いだ。
「そりゃあね」
「っ!ジンも黙ってたのね。皆でよってたかって隠すなんて酷いわ!」
「姫様には知られないようにセイン王子殿下を迎える準備を進めるようにって王命だもん。逆らうわけにはいかないだろー」
「お父様…用意周到すぎるわ」
肩を落としたロザリアを、ジンが慰めるように頭をぽんぽんと軽くたたくのだった。
「別にいいじゃん。幼馴染で気心知れてるし。姫様も嫌いじゃないんだろ?」
「き、嫌いではないけれど…でも婚約よ?近い将来夫婦になりますって誓うのよ?!」
正式に2人が結婚するのはまだ数年先で、今回のセインの訪問では婚約したことを世間に正式発表するだけなのだが。
まだまだ何年もの準備期間があるのにこの騒ぎよう。
どうやらロザリアにとっては結婚も婚約も大差はないようだ。
「……ぅあぁぁぁぁ」
ついには奇声を発して項垂れだした。
いつもいつも思うが年頃の少女にしては少し豪快すぎる反応だ。
「なーんでそこまで嫌がるんだ? 確かに2人とも顔を合わせるたびに言い合いをしてるけどさ。でも普通に仲良くおしゃべりをしている時も頻繁に見るし。いいじゃないか別に」
ジンから見たロザリアとセインはお互いにお互いを嫌ってはいない。
ロザリアからすればセインに見下されていると感じるのかもしれないが、結局はセインが天の邪鬼で素直になれない性格なだけだ。
むしろ変に気取らなくても良いきやすい関係で、夫婦になる間柄としては良好とも言えた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
恋の締め切りには注意しましょう
石里 唯
恋愛
侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。
幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。
最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。
そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、
「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。
その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。
天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く
りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。
私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。
それなのに裏切りやがって絶対許さない!
「シェリーは容姿がアレだから」
は?よく見てごらん、令息達の視線の先を
「シェリーは鈍臭いんだから」
は?最年少騎士団員ですが?
「どうせ、僕なんて見下してたくせに」
ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる