リフェルトの花に誓う

おきょう

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3-①

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 ぱたぱたとした軽やかな足音が遠くからこちらへと近づいてくるのが聞こえて、その足音の主に心当たりがある第一王女付き騎士団の副隊長ジン・カーベルは動きを止める。

「副隊長?」


 ふいに停止してしまったジンに向かって剣を構えていた見習いの騎士が、首を傾げて大柄な体躯を見上げた。

「あー…姫様が来たわ」

 苦笑してからジンは剣を腰の鞘へと戻す。
 逆立てた赤毛の後頭部を掻きながら眉を下げて「悪い」と言いながら両手を合わせた。

「ちょい抜ける。あとでもう一回見てやるから自主練しててくれ」
「はっ!了解しました!ご指導有難うございました!」

 規則正しく敬礼する騎士見習いに手を振って鍛錬場から出ようとしているジンの視線の先には、綺麗なドレス姿にも関わらず駆け足でこちらにかけてくる小柄な少女の姿。
 近づくにつれて鮮明になるのは、興奮のあまり赤く染まっている頬と、つり上った眉。
 どこからどうみても彼女の機嫌はよくないようだ。
 その分かりやす過ぎる顔に、笑ったら悪いかと思いながらもうっかり噴き出してしまった。

「ジン!!」

 体当たりと呼ぶにふさわしいほどに、ロザリアはジンの広い胸元に勢いをつけて飛び込んでくる。
 難なくその小さな体を受け止めたジンは、苦笑しつつロザリアの頭に手を置いた。

「おいおい姫様。むさっくるしい鍛錬場なんかに一人で来ていいのかー?また侍女長殿にお叱り受けるぞ」
「叱られてもいいの!そんな場合じゃないの!」
「どうせまたセイン王子にこんな意地悪されたー。あんなこと言われたー。だろ?」
「そう!…?あら、セインが来てるって良く知っているのね」
「いやいや、一応は姫様専属騎士団の副隊長だからね?俺。警備の都合上、姫様関係の客人とかは全部把握してるに決まってるでしょ」

 ロザリアは思いもつかなかったようで、驚いたように頷いている。

「それなら知っているの? セインが私の……だなんて」

 認めたくないらしく、彼女は肝心の部分を音にはしなかった。
 しかしジンは何を言いたいかなど簡単に読んでしまう。

 少しだけ昔。雑用ばかりで暇を持て余した若い見習い騎士達は、おしゃまでいたずら好きな王女殿下の体のいい遊び相手にされていた。
 ジンは面倒見の良い気質なこともあって殊のほか懐かれてしまい、ロザリアが物心ついた頃からの知り合いだ。

「そりゃあね」
「っ!ジンも黙ってたのね。皆でよってたかって隠すなんて酷いわ!」
「姫様には知られないようにセイン王子殿下を迎える準備を進めるようにって王命だもん。逆らうわけにはいかないだろー」
「お父様…用意周到すぎるわ」

 肩を落としたロザリアを、ジンが慰めるように頭をぽんぽんと軽くたたくのだった。

「別にいいじゃん。幼馴染で気心知れてるし。姫様も嫌いじゃないんだろ?」
「き、嫌いではないけれど…でも婚約よ?近い将来夫婦になりますって誓うのよ?!」

 正式に2人が結婚するのはまだ数年先で、今回のセインの訪問では婚約したことを世間に正式発表するだけなのだが。
 まだまだ何年もの準備期間があるのにこの騒ぎよう。
 どうやらロザリアにとっては結婚も婚約も大差はないようだ。

「……ぅあぁぁぁぁ」

 ついには奇声を発して項垂れだした。
 いつもいつも思うが年頃の少女にしては少し豪快すぎる反応だ。

「なーんでそこまで嫌がるんだ? 確かに2人とも顔を合わせるたびに言い合いをしてるけどさ。でも普通に仲良くおしゃべりをしている時も頻繁に見るし。いいじゃないか別に」

 ジンから見たロザリアとセインはお互いにお互いを嫌ってはいない。
 ロザリアからすればセインに見下されていると感じるのかもしれないが、結局はセインが天の邪鬼で素直になれない性格なだけだ。
 むしろ変に気取らなくても良いきやすい関係で、夫婦になる間柄としては良好とも言えた。

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