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2-④
しおりを挟むロザリアの元々あまり頑丈でもない堪忍袋の緒は、失礼な幼馴染の台詞によって、盛大な音を立ててあっさり切れた。
「わざわざ王女様っぽく整えてあげた苦労を、「気持ち悪い」ですって?」
「あぁ」
「ぅわぁ、王子! この馬鹿!」
側付きの制止など気にもせず、力強くうなずくセイン。
怒りのあまり小刻みに震えながら、ロザリアは思いっきり息を吸った。
そして頭を側近に押さえつけられながらも飄々とした態度を崩さないセインに、大きな声で吐き捨てる。
「セインの馬鹿ぁーー!!」
顔を赤くして怒るロザリアに、セインはにやりと歯を見せて意地悪く笑う。
「やっとらしくなったな。ロザリアはそうやって騒いでいればいいんだ」
「このっ……!」
これは『無理して気取る必要はないんだよ。そのままの君でいいんだ』なんて優しい心遣いからの台詞では絶対にない。
セインは本気で大真面目に、気持ち悪くて見たくもないから止めろと言っているのだ。
「どうせ騒がしいわよ。お淑やかな女でなくてごめんなさい? あぁもうっ、やっぱりあなたと結婚なんて絶対無理! いつだって意地悪ばっかり言うんだから!」
「私だって不本意だ」
「なら断れば良かったじゃない!」
「出来るならとっくに実行しているだろう。お互いに」
それが出来ないのは、本人たちの意志など関係ない政略結婚だから。
両国の関係をよくするために必要なもの。
文句を言っても無駄。
絶対にこの婚約は変えられないと分かっている。
けれど、それでも言わずにはいられないのだ。
怒りと憤りにわなわなとふるえるロザリアに、セインは首を振って呆れるようにため息を吐く。
「ロザリア、君は確かもうすぐ十六になるのだろう?」
「そうだけど?」
「いい年をして、子供みたいに我が儘を言うなよ」
「わ、我儘じゃないわ! セインみたいに失礼な人のお嫁さんなんて、どんな令嬢も嫌がるはずよ!」
「あのな、この婚姻はもう決定事項なんだ。好き嫌いで無かったことに出来るはずが無いだろう。役目を放棄するなんてありえない。大人しく受け入れろ。いくら地団駄踏んだって、泣き喚いたって、無駄だ。むだ」
「地団駄なんて踏んでないものー!」
怒りのあまり感情が高ぶり、目尻に涙をため始めたロザリア。
さすがにセインについてきたニーチェ国側の側近達は、本気で王子を止めにかかる。
腰に剣を穿いた胸当てと肘当てのみの簡易鎧を着た、騎士らしき茶色の髪の男は後ろから羽交い絞めに。
黒髪にメガネをかけた、神経質そうな顔の男は前に回って口を塞いでいる。
「もごっ……お前たち、一国の王子にむかって…」
「王子への不敬より両国の和平の方が大事です!」
「まったくー……普段は無口で何にも無関心なくせに、ロザリア王女殿下にだけはどうしてこんなに饒舌になるのやら」
茶髪の騎士がセインを取り押さえている間に、黒髪で銀縁メガネの側近らしき男が後ろ手に口を押えながらもロザリアの前へ進み出た。
メガネの淵を指先で押し上げて、無駄のないきびきびとした動きで頭をさげる。
お堅い容姿と、定規が入っているかのような真っ直ぐな姿勢。
非常に生真面目な人間のように見える。
「王女殿下、大変申し訳ありません。セイン王子殿下は長旅の疲れから寝ぼけているようでして。早く部屋へ下がらせていただいて宜しいでしょうか」
「…構いませんわ。晩餐会での国王陛下との顔合わせまでにその厭味ったらしい口を縫い付けて置いて下さい。……お三方をお部屋までご案内してちょうだい」
控えさせていた侍女が、主の指示を受けて進み出る。
引きずられていくセインを見送ったロザリアは、応接室を出ると頬を膨らませ眉を吊り上げて廊下をかけていく。
「もう! 本当に腹立つ!」
こんな場には、一分だって留まっていたくなかった。
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