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5-②
しおりを挟む「王子!セイン王子?!」
アーサーは青ざめた顔でシーツをバサリと持ち上げた。
次にカーペットの上に這いつくばりベッドの下を一生懸命覗いている。
「あの、アーサー様?何をされてらっしゃるのでしょう」
あまりの騒ぎように、控えの間に控えていた侍女が怪訝そうに顔を出した。
白髪が数本見える初老の侍女に振り向いたアーサーは、いまだ己の身支度さえ整えておらず寝間着姿。
長い黒髪には盛大な寝癖がついていてあちこちに飛び跳ねている。
そんな朝早くから寝室で暴れている不審者を見る侍女の目はひどく冷たい。
「王子が! セイン王子がいらっしゃらないのです!」
すごい勢いで立ち上がって侍女ににじり寄るアーサーに、彼女はたじろぎつつも客人へ微笑を返す。
「…ああ、今朝ロザリア様とお出かけになられたらしいですわよ?」
「は?ど、どうして!私は何も伺っておりませんよ?!」
「お忍びですから。護衛も側付きもお付けになりませんわ」
慣れた様子で言う侍女の台詞に、アーサーは耳を疑う。
仮にも自国の王女と隣国の王子が2人きりで消えてしまったと言うのに、なんだこの反応。
どうして止めない。なぜ追わない。
「いやいやいやいや、いくら忍びだと言っても護衛くらいつけるでしょう!」
「たまにロザリア様付き騎士団のジン・カーベル様がおつきになってらっしゃるようですけど」
「たまにとか意味ないです!」
規則と礼儀に厳しい厳格なお国柄であるニーチェの人間にとって、王女にこんな自由を許しているロイテンフェルトの緩い行動はさっぱり理解できなかった。
今度は頭を抱えて苦悩し出しているアーサー。
「有り得ない。緩すぎる…」
「そうは言いましても。剣を穿いた騎士を付けると町の子供たちが怖がるからと、ロザリア様が嫌がられるんですもの」
「それで納得して一人で王女を放置って!!…いや、ロザリア王女だけならかまわないんです。うちの国には関係ないからな。私だって他国の常識を否定はしたくない」
しかし問題なのは、今回はセインが一緒だということだ。
冷静沈着で頭脳派な、アーサーがこの世の誰よりも尊敬している主が。
「き、きっと嫌がる王子を無理やり連れて行かれたんですね?!」
「まさか。有り得ません。それに別に遊びが目的なわけでもありませんし」
「いいえ!絶対そうです!私のセイン様が、そんな奔放で馬鹿げた行為を自ら行うはずがない!あのじゃじゃ馬王女が引きずって行かれたに違いありません!」
「……………何と言うか、アーサー様って残念な方ですのね」
侍女は肩をすくめると、セインの寝室を見渡してため息を吐いた。
ベッドの傍で暴れていたため、盛大に埃が舞っている。
隣国からの客人をもてなすために何人もの侍女で徹底的に綺麗にしたばかりの部屋なのに。
何してくれてんだ。馬鹿野郎。と怒るのはさすがに身分的に不相応なので、必死に耐えるしかない。
「何やってんすかぁ?」
そのときセインのもう一人の側近であるグロウが眠そうな目をこすりつつ顔を出した。
こちらは一応身支度を済ませていて、態度こそ軟派な感じだが体裁は保っている。
侍女は腰を落として礼をしてから、室内に入ってくるグロウとすれ違いつつ退室をする。
「あとは宜しくお願いいたします」
「えぇー?ちょっと面倒臭そうな感じですねぇ…」
「……おほほほ」
心底嫌そうにしてるグロウに、しごく爽やか笑顔を作った侍女はさっそうと部屋から消えた。
面倒くさいものをグロウに押し付ける気満々だ。
「グロウ!セイン様が!セイン様が王女殿下に連れ去らわれた!!」
「ほぅ、逢引きっすか。セイン様もやりますねぇ」
「ちがーう!」
侍女は騒がしい部屋の扉を占め、埃の舞った部屋の掃除をするために掃除用具を置いている部屋へ向かうことにする。
廊下を歩きながら、窓からのぞく空を仰いで遠い目でため息を吐く。
「あれでは駄目ね」
きりりと吊り上った眦と銀縁メガネ、姿勢の良い立ち姿、髪も目も漆黒なことから、知的なクールビューティーが来た!と王宮の侍女達の噂にもなっていた。
セインの婿入りに付いてロイテンフェルトに彼が骨を埋めるならば、王宮に侍女として務めるような良家の子女たちの恋人候補になる。
だから若い侍女達は目の色を変えてアーサーを見つめていたのだが。
どうやらセイン王子に心酔する思い込みの激しい変人のようだ。
「もう一人の側近の…グロウ様だったかしら?あの方も軟派で遊び人な印象でしたし。みんなに止めるように言っておきましょう」
娘のようにも思っている可愛い後輩たちを、あんな変人男と軽薄男になど絶対にやるわけにはいかないと、初老の侍女は強く決心をするのだった。
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