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7-⑤
しおりを挟む王弟でありながら地方へ左遷されるほどの行い。
一体何をやらかしたのだろう。
「大臣の方々が結束したと言うのだから、よほどなのね。……私の知っている叔父様は、厳格で厳しいお方だったのに」
「あー……長く生きていれば色々あるからなぁ」
腕を組んでしみじみと言うジン。
何か思い当たるふしがあるのかと尋ねてみれば、大人ってのはそんなもんなんだよと苦笑して返されてしまった。
子ども扱いされているみたいで、ちょっと気に入らない。
「あんまり良い印象受けない人だから会いたくないだろう? でも悪い。こう言う大きな式典に王弟が出ないってのはなかなか体裁が悪くて、欠席させるのは難しいみたいなんだ」
後頭部を掻いて詫びるジンに、ロザリアは笑う。
そんな事を気にしていたのか。
「大丈夫よ。だってジンが守ってくれるのでしょう?」
ジンが側で守ってくれるなら何も怖いことはないと、気持ちを込めて笑ってみせる。
「当ったり前だろ」
幕裏の薄暗く狭い場所で、顔を寄せ合って2人で微笑みあう。
そんなやり取りをする彼らに向けられていたのは、渡り廊下の向こう側からこちらへと歩いてくる金髪の王子様からの、射殺すような強い視線。
これは主にジンヘと向けられた殺意だろうと、気配を読むのに優れたジンは直ぐに気づく。
ロザリアはいまだに彼が近づいて来ているのに気づいていない。
「ロザリア」
「……う、え?」
ロザリアの名を呼びながら近づいてきたセインを振り返ると、明らかに怒っている。
今日はじめて会ったのだから、怒らせるようなことなんてしていない。
まったく全然身に覚えがないのに、どうしてセインがこんなに不機嫌なのか。
ロザリアにはさっぱり分からなかった。
戸惑うロザリアの隣にいるジンはセインへと意地悪く笑ってみせる。
まるでロザリアとの仲のよさを見せつけてやるかのように。
するとセインは案の定さらに機嫌を悪くしたようで、眉間にしわをよせた。
「ったく。そんなに大事に思ってるなら、優しくすりゃあいいのになぁ」
「何?」
ジンの小さな呟きの意味がロザリアは理解できず、首をかしげた。
小さな声だからセインにまでは届かない。
そもそも不機嫌なセインが1歩1歩こちらに向かってきているのが怖くて、動揺してしまって普段以上に頭が回らなかった。
「一方は国宝級のニブニブなお子様。もう一方は素直になれない意地曲がりなやつときた。ものすっげぇ面倒臭いなぁって」
ジンが呆れたようにロザリアを見て言うけれど、意味が分からない。
ただ脈絡のない意味不明な台詞に怪訝に首をひねるだけだ。
着々と近づいてくるセインは、相変わらず厳しく細めた目で睨みつけている。怖い。
薄暗いこの場ではセインの薄い金色瞳はうっすらと光っているようにも見えて、それは獰猛な獣の瞳にも似ていた。
「……ジンってば何のことを言ってるの?」
「あぁ。もういいんだ。あと10年くらい自覚ないままでいきそうだし。かみ合わないお子様たちを遠くから眺めてるのも、それなりに楽しそうかなぁって思えてきたわ」
「ジン?」
ロザリアに理解できない言をぶつぶつ言っている騎士の頭がどうかしてしまったのだろうか。
よく分からないけれど、とりあえず体調をたしかめようとジンの額に手を伸ばした。
しかしジンの額に届く前に、横から伸びたセインの手に掴まれてしまう。
驚きで目を丸めながら掴まれた手とセインの顔を交互に見て首をかしげる。
「セイン?」
「ロザリア、もう時間だ。行くぞ」
「え、でもジンが……」
「いいからっ……」
苛立った風に手を引かれてしまうと、長いドレスのすそが足にからまる。
生まれ育ちから裾の長いドレスには慣れてはいても、さすがにパンツ姿のセインと同じ速さでなんて歩けなくて、ロザリアは足を踏ん張って慌てて声を上げた。
「セイン! ちょっと待って…!」
「おいおい王子様ー。姫様の格好考えてやれよ。あんたが選んだドレスなんだろう?」
横からジンに差し水をかけられて、セインは苦虫をつぶしたような顔をしてジンをキっと睨みつける。
次にその意味を理解したようではっと瞬きしてから、彼はロザリアへとゆっくりと視線を移した。
金色の目でじろじろと上から下まで眺められてしまい、結構頑張ったお洒落をしているつもりのロザリアは、思わず背筋を正してしまう。
どうしてセインに見られて緊張するのかなんて、考えもつかないけれど。
ロザリアはただ彼の目に自分がどう映るのかだけが気になって仕方がなかった。
「悪い……」
「え。う、ううん?」
瞼を伏せて小さな声でわびるセインに、ロザリアは驚きつつ首を振った。
(セ、セインが素直に謝ってる?)
「っ………ほら」
差し出された手と、どうしてか機嫌の悪そうなセインの顔。
「ありがと、う?」
ロザリアは不思議そうにそれを交互に見ながらも大人しくその手に自分の手を置く。
(からかわれない……?)
きっとロザリアをからかう為だけにセインはこのドレスを選んだのだと思っていた。
裾に足をもつれさせた今の出来事は、からかうのに絶好の機会だったのに。
考えていた意地悪な台詞が浴びせられるどころか、何故か親切に手まで貸してくれているこの状況。
予想していなかった事態にロザリアは混乱して、どう反応すればいいのかわからない。
ただセインとつないでいる手がなんとなくむず痒くて。
ロザリアの混乱はよけいに深くなるばかりだ。
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