21 / 39
7-⑥
しおりを挟む「ロイテンフェルト国王エリック様並びに、第一王女ロザリア殿下、ニーチェ国第四王子セイン殿下のご入場にございます!」
高々と宣言した騎士の声に、大広間でそれぞれに歓談していた客人達は口を噤む。
正面の両扉から王座まで続く赤いカーペットが道を作れば、女性はドレスの裾をつまんで腰をおとし、男性は握った手を胸において、姿勢を正す。
タイミングを読んだ指揮者が指揮棒を振ると、同時に楽団がファンファーレを謡う。
人々の注目を一身に浴びる両扉がゆっくりと開かれ、国王であるエリック、その後ろからセインと、彼の腕に手を置いたロザリアが入室した。
客人たちは僅かに顎を引いて、3人の王族が自分の前を行き過ぎるまで顔を伏せ気味にする。
響くのは楽団の重厚な音のみ。
華やかながらお厳格な雰囲気が、場を満たしていた。
やがて一番奥にある三段になった半円状の舞台の一番うえに玉座にエリックがたどり着く。
玉座より1段低い場所にはロザリアとセインが。
2人は金と宝石で装飾が施された台座を間に挟んで向かい合った。
台座の上にはビロードの濃紺色のクッションが載せられ、そこに2輪の大ぶりな白い花が置かれている。
薔薇にも似た形をした白い花はロイテンフェルトの国花、リフェルト。
国章や国旗にも刻まれていて、ロイテンフェルトの国名の語源にもなっている。
「これより婚約の義を執り行う。わが国の国花リフェルトに互いが口づけを落とし、それを交換しあった瞬間、わが娘ロザリアとニーチェ国セイン王子の婚約が正式に結ばれたこととなる」
エリックが低くも響く声で宣言すると、広間はシンと静まり返り、物音ひとつ聞こえなくなる。
ロザリアは台座に置かれた白い花を見下ろした。
立会人の元に行う国花の交換は、この国に住まうものが重要な契約を交わすときに必ず行う伝統の儀式だ。
「皆も知っていのとおり、リフェルトの花が重要な式典に使われるようになったのはロイテンフェルトの初代国王がこの花の模様を刻んだ剣を手にし、この地を勝ち取ったのがきっかけだ。初代王はもとより、リフェルトの花を掲げてロイテンフェルトのために心血を注ぎ国を栄えさせた全ての英雄たちに、これを誓うと言う意味合いを持つ」
初代国王がリフェルトの花を掲げていたのは恋人がそれを好きだったからとか。
他にもリフェルトの花にかかわる騎士や英雄の話はいくつもあり、ロザリアも幼いころは絵物語などで読んでもらっていて、馴染みのある花だ。
エリックは有名な歴史上の人物の功績などを長々と語っていた。
このリフェルトの花の誓いがいかに意味を持つものなのかを尤もらしく説いている。
(つまりとりあえず、昔の偉い人が好きな花だったから花をとおしてその偉人たちに誓いを立てなさいってことよね)
勉学にはうといロザリアだから、たくさんあるリフェルトの花に関わる物語の中のどれが真実の歴史なのか、はてはロマンス小説から来た作り話なのかさえよく分かっていない。
とりあえず長々しい話が早く終わってほしいとあくびをかみ殺すのに必死だ。
それくらい物珍しさがなくなる程度には何度も繰り返し同じような演説を聞いて育ってきた。
「2人とも。生涯を共にする伴侶として相手を認めることを近うならば、花を手にしなさい。リフェルトの誓いは絶対に敗れないことを心するように」
「…はい」
「はい」
そこでやっとロザリアは緊張し始めた。
もうすぐ婚約が決定的なものになる。
セインとの関係が幼馴染から婚約者へと変わってしまうのだ。
(ずっとずっと幼馴染だった。喧嘩ばっかりだったから友達だなんてとても呼べなかった)
エリックに促され、ロザリアとセインは台座に一歩近寄り、同時に花を取る。
すると驚くほど速やかに音もなく台座は移動され、ロザリアとセインを隔てる者はなにも無くなってしまった。
(幼馴染でなくなった私たちがどうなるかなんて、想像もつかないわ)
ロザリアは落ち着かなくて目の前の相手を伺い見たけれど、セインは無表情で何を考えているのかまったく読めない。
(緊張しているのって私だけ……?)
そう不満に思いながら自分の手元に視線を移す。
この大切な場のために選びに選び抜かれたのだろう美しいリフェルトの花。
ゆっくりと口元にそれを寄せると、甘い香りを花がくすぐった。
ロザリアは白い花びらに唇を付ける。
同じようにセインも、わずかに目を伏せて花に唇を押し当てていた。
2人が口づけを終えたことを見届けたエリックは頷いて、今度は交換を促す。
セインが一歩ロザリアへと近づいて、編み込んだリボン以外装飾のない髪へリフェルトの花を挿す。
「っ……」
「固まりすぎだ」
苦笑を含んだ囁きが、耳元を掠めた。
思わず顔をあげると、今まで見たセインのどんな笑顔より優しい微笑みが目の前にあって、ロザリアの心臓が跳ね上がる。
「……ロザリア」
固まっているロザリアを促すように、セインがまた囁く。
どうやらもうロザリアの髪には花を挿し終えたようで、慌ててセインの胸元へ持っていたリフェルの花を差し入れた。
セインの胸元に白いリフェルの花が収まったその瞬間。
大広間からに盛大な歓声と拍手が鳴り響き、楽団が国歌を奏で始める。
ロザリアとセインの関係が、幼馴染から婚約者へと変わった瞬間だった――――。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
恋の締め切りには注意しましょう
石里 唯
恋愛
侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。
幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。
最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。
そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、
「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。
その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。
天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く
りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。
私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。
それなのに裏切りやがって絶対許さない!
「シェリーは容姿がアレだから」
は?よく見てごらん、令息達の視線の先を
「シェリーは鈍臭いんだから」
は?最年少騎士団員ですが?
「どうせ、僕なんて見下してたくせに」
ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる