リフェルトの花に誓う

おきょう

文字の大きさ
24 / 39

8-③

しおりを挟む

 治療を終えたセインの眠る寝室に通されたのはロザリアと侍女のミシャ、アーサーとグロウ。
 そしてセインの治療にあたっていた老齢の医師と、彼の助手を担う2人の若い女性だ。
 国王エリックやジンは、招待客への対応に追われているらしくこの場には来られないらしい。

「心配はありません。解毒は成功いたしましたし、経過も順調です」
「よかった…」

 医師のその一言に、誰もが安堵の息を吐いた。

「セイン様!ご、ご無事で良かった…!」

 側付きのアーサーに至っては涙まで流している。
 余程セインのことが心配だったのだなと、ロザリアは案外強いらしい主従の絆に関心した。

「ニーチェ国の王族には幼少からいくつかの毒に身体を慣らしておく習慣があるらしい。ですからある程度の耐性も働いたのだと思われます。2.3日は発熱するでしょうが1週間もすれば全快されるでしょう」
「毒に…?」

 少量ずつ毒を頓服し、耐性をつくる。

 慣れるまでには身体を蝕む毒の効能に何度も何度ももがき苦しみ耐え抜くと聞いたことがある。
 耐え切れずに死に陥る人間も多い、ある意味もろ刃の剣と言っていい身の守り方だ。

(そんなのがニーチェの習慣としてあったなんて知らなかった。セインは一度だってそんなこと言ってなかった)

 再びセインの蒼白な顔を見て、その苦しみを想像してぞっとした。
 ロザリアが想像していたよりずっと、彼は死に近いところにいたのだ。
 不安を振り払うように慌てて傍らのミシャに顔を向けた。

「招待客の方々が口にされた分は大丈夫だったのかしら」
「えぇ。毒物の混入があったのはお二人のグラスのみのようです」
「そう…。果実酒を飲んだのがセインだけだったから…。私は毒への耐性なんてまったくないもの。もしも私だったなら、助かったかどうかさえ分からないのよね」

 飲んですぐに症状が現れたのだから、相当強い即効性の薬だったことは言うまでもない。
 それこそ招待客へ振る舞われた料理に入っていたりしたなら、あれくらいの騒ぎでは済まなかったはず。
 自国の貴族だけでなく他国の重臣や王族までいたのに。
 場合によっては宣戦布告と取られても仕方がない状況になってしまうところだった。

 ベッドの脇に経つ医師がこほんと咳をして、室内にいる全員の方を振り返る。

「あとは休息を取っていただいて回復を待つしかありません。騒々しいと休まりませんから、皆様本日はお引き取りください」

 もう夜も更けていて、窓から見える空には三日月が昇っている。
 いつもならそろそろ眠りに落ちる時間だ。
 でも今日は叔父との騒動や婚約の義、毒薬の混入などと、色々ありすぎて緊張と混乱でロザリアの頭はどうにかなりだった。

(どうやっても落ち着いて眠れる気がしない。---どうせ眠れないなら…)

 ロザリアは眠るセインの青白い顔を見下ろす。
 胸の奥がぎゅっと縮まって、小さな痛みさえ感じた。

「…セインの傍についていてはいけないかしら。大丈夫ってわかっても心配だもの」

 考えるよりも早く自然に滑り出てきた言葉に、ロザリアは思わず自分の口元に手をあてる。
 周りを見るとこの場に居る全員の驚きに満ちた表情がこちらへと集まっていた。
 普段セインのことを「嫌だ嫌だ」と言っているロザリアがセインについていたいと言いだすなんて、誰も思わなかったのだろう。

「…だ、駄目かしら。だって私の隣で倒れたのよ?気になって当然じゃない」

 予想以上の注目を浴びてたじろぎつつ、おそらく駄目だろうなと諦めを含んだ息がロザリアから漏れる。
 若い女性が夜遅くに男性の寝室に居座るなんて、誰からも反対されてしまうことだ。
 たとえよその令嬢よりも自由にさせて貰っているロザリアであっても、止められるに決まっている。

「いいえ。ロザリア様はセイン王子の婚約者ですもの。駄目なことなんてありませんわ」
「そう…なの…?」

 ミシャの台詞にロザリアは驚いて紫の眼を瞬かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯
恋愛
 侯爵令嬢シルヴィアは、ウィンデリア国で2番目に強い魔力の持ち主。  幼馴染の公爵家嫡男セドリックを幼いころから慕っている。成長につれ彼女の魔力が強くなった結果、困った副作用が生じ、魔法学園に入学することになる。  最短で学園を卒業し、再びセドリックと会えるようになったものの、二人の仲に進展は見られない。  そうこうしているうちに、幼い頃にシルヴィアが魔力で命を救った王太子リチャードから、 「あと半年でセドリックを落とせなかったら、自分の婚約者になってもらう」と告げられる。  その後、王太子の暗殺計画が予知されセドリックもシルヴィアも忙殺される中、シルヴィアは半年で想いを成就させられるのか…。  「小説家になろう」サイトで完結済みです。なろうサイトでは番外編・後日談をシリーズとして投稿しています。

天真爛漫な婚約者様は笑顔で私の顔に唾を吐く

りこりー
恋愛
天真爛漫で笑顔が似合う可愛らしい私の婚約者様。 私はすぐに夢中になり、容姿を蔑まれようが、罵倒されようが、金をむしり取られようが笑顔で対応した。 それなのに裏切りやがって絶対許さない! 「シェリーは容姿がアレだから」 は?よく見てごらん、令息達の視線の先を 「シェリーは鈍臭いんだから」 は?最年少騎士団員ですが? 「どうせ、僕なんて見下してたくせに」 ふざけないでよ…世界で一番愛してたわ…

伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい

瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。 伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。 --- 本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

処理中です...