リフェルトの花に誓う

おきょう

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眠るセインの寝室では、グロウとアーサーが顔を寄せ合って難しい表情で話し合っていた。

「ふむ、ロザリア王女が誘拐か…」
「面倒な事態になりましたねぇ」
「まぁ我々には関係ないだろう。邪魔をしないように大人しくしておけば問題ない」
「っすねー」

ここで他国の人間であるこちら側が動いても事態を混乱させるだけだろう。
アーサーの意見に特に文句もないグロウは、指先に髪をからめてあくびをしながら同意した。
パーティーまでに切って置けとセインに言われていた髪は、結局だらしなく中途半端な長さのままだ。

「……どうでも良いがグロウはもう少しまともな言葉使いを学べ」
「えー」
「大体お前は騎士のくせに緩すぎ……セイン様?何をされておられるのですか」

アーサーの上げた声にグロウが振り返ると、身を起こしてベッドから出ようとするセインの姿があった。
医者の見立てでは朝までは起きないということだったのに。
いつの間に目を覚ましていたのだろう。

透き通るような白い肌は青みを帯びていて、休息が必要な身体だと誰が見てもあきらかだ。
しかしセインはベッドサイドのテーブルに手をつき、立ち上がろうとしていた。

「こらこらー、寝て無いとだめですよぅ」

グロウが相変わらずの間延びした声で、セインを押しとどめる。
肩を押してシーツをまくり上げ、早くベッドに戻るように促したが、セインは青い顔を横へ振ってしまう。
聞き分けのない子どもみたいな反応をするセインに、グロウは眉をひそめた。
珍しく真面目な顔をして、真剣みを帯びた声をだす。

「ひょっとして、全部聞いちゃってました?」
「……あぁ」

頷いたセインの反応に、彼が現在の状況を全て把握しているらしいことを悟る。

「すぐに出る。馬の用意を」
「はぁぁ?!」

これは面倒だなぁと、グロウは息をはいた。
ふらつく身体で起き上がろうとしている時点で、ロザリアの元へ行こうだなんて。
こんな身体ではまともに馬にも乗れないだろうに。無謀すぎる。
彼を護る役割のグロウがこの暴挙を認めるわけにはいかなかった。

「いけません。王女についてはロイテンフェルトの方々に任せて、大人しく寝て直してくださいよ。そもそもこれって国内の権力抗争なわけでしょう?ニーチェとは何の関係もないのに、みすみす首を突っ込むとか。面倒な事態を引き起こす必要性はまったくないです」
「そ、そうですセイン様!今はお休みになってください!」

グロウとアーサーの説得さえも、セインは首を振って否定する。
起き上がろうとばたばたと足掻いているセインを、グロウは面倒くさそうな顔であっさりとベッドへと組み敷いた。
シーツを引っ張り上げてかぶせてしまう。

「くっ……」

肩を押さえている手をつかんだセインがどれだけ足掻いても、グロウはびくともしない。
毒で身体が弱っているから敵わないと言うわけではない事はあきらかだ。

「どけ」
「い、や、で、すー」

軟派な見目で、いつもへらへら笑っているくせに、やけに腕の立つらしいグロウをセインはにらみつけた。

(あいつが誘拐なんてされて大人しくしているわけがない)

きっと馬鹿な行動を起こして、更に窮地にたたされるだろうなんて簡単に予想できた。

ロザリアのことを、頭の足らない馬鹿な王女だと揶揄る声は少なくない。
セインだってロザリアを単純で馬鹿な女だと本気思う。
悪意や陰謀に常にさらされる王族である身で、ロザリアのように馬鹿みたいに素直で真っ直ぐな性格に成長することが、どれだけ稀有なことなのか。

特に子どもで反撃する権力も持たなかった頃の中傷はことさらひどくて、正面から憎悪をぶつけてくる者も多く、幼馴染のセインはずっと側で見ていたのだ。
それでもロザリアは変わらなかった。
女の身で王位につくこと、苦労せず頂点に立てる生まれであることを嫉妬され悪口を言われても、くじけることもなく。
勉強が苦手で知識が足ら無いことをあからさまに馬鹿にされても。
言われた言葉をそのまま受け入れて、正々堂々自分の考えを言葉にだして言い返す。

全部吐き出してすっきりしたら、また笑う。

それが出来ることを同じ王族として生まれ育ったセインがどれほど羨んでいるか、ロザリアはきっと知らない。
これがセインなら権力に物を言わせて陰で始末してしまう。

「やっと、手に入れたって言うのに…」
「セイン王子、ずっとロイテンフェルトの婿の立場欲しがってましたもんね。国に残ってほしいという声も、もっと良い条件の姫の輿入れの声もあったのに」
「っ……お前…」

分かりやすい揶揄にセインは心底嫌そうに顔を歪めた。
他国の王族の婿養子なんて面倒な立場にたっても良いと思えたのは、ロザリアの隣に立つ立場を得られるから。
馬鹿でどうしようもない子どもな彼女が子供のころからずっとセインの頭の中はロザリアで占められていた。
だからセインは他の兄弟たちを蹴落としてこの立場を手に入れたのに。

「グロウ!王子に乱暴をはたらくな!」

アーサーの叱責が飛ぶものの、当のグロウは飄々としている。

「えー、だってセイン様が大人しくしないのが悪いんじゃないですかぁ。行かせたくないんでしょ?」
「そ、それはそうだ…な…?」
「アーサー!お前は簡単に懐柔されすぎだ!」

往生際わるく足掻いているセインを、グロウは余裕の笑みで見下ろしてくる。

「生きてる年月が違うんですよ。セイン様の考えることなんてお見通しですって」
「くっ…そ…!!」

グロウは頬におちた自らの髪を片手で掻き上げて、もう片方の手で軽々とセインを押さえていた。
武で勝てる要素がどこにも見当たらない。
完全に手中に収められている事実に、彼が父親ほどの年齢であったことを改めて思い知らされる。
セインとグロウの間には、明らかにそれだけの差が付いていた。

「職務怠慢で首になるわけにもいかないんですよねー。給金いいし。本気で行きたいのなら、俺を倒してくださいよ、王子殿下?」

薄く笑った男を、セインは動けないまま射殺すような目で睨むのだった。


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