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「よっし!もう落ち込むの終了!」
両頬をぱちんと軽くはたいて、ロザリアは声をあげた。
もっとも場所が場所だから、見つからないように小さな声だったけれど。
土埃の立つ床から立ち上がると深呼吸をして、手のひらを見る。
握って開いて、握って開いて。
どうしても小刻みに震えてしまう手を動かして落ち着こうと自分に言い聞かせた。
(ジンについては後で思いっきり落ち込むことにしよう。今は、だめ。動かないと)
立ち直ったわけでも、もちろん吹っ切れたわけでもない。
赤い髪の騎士のことを考えると、心臓がずきずき痛む。
知らない場所へ殺すために連れてこられている現状は怖くて寂しくて、足がすくんだ。
それでもここでただ脅えて泣いているだけなんて、絶対してはいけないから。
出来ることを探そうとするくらいのこと、やらなければ。
「とにかく…逃げ道をさがさないと…」
気を抜けばパニックを起こしてしまいそうな頭の中を、深呼吸して落ち着かせながらロザリアは狭い室内をぐるりと見回した。
(窓と、戸、かぁ…。王宮みたいに都合よく抜け道なんてあるはずもないわよね)
外へと出られる出口は2つ。
この2つのうちのどちらから、どうやってか逃げなければならない。
「戸は…無理よね」
落ちこんでめそめそしている数時間の間に、何度か人の気配と小さな話し声を聞いた。
おそらう見張りがいるのだろう、
だったら窓からと思って、ロザリアは閉じられた窓枠へと足を向けた。
ガラスの窓に手をついて、そっと外の様子をうかがってみる。
「……2階くらいかしら…」
どうやら小さく古い屋敷にロザリアは連れてこられたらしい。
地面まではずいぶんな距離があり、けれど3階にあるロザリアの私室よりはずいぶん近いから、おそらく2階くらいにいるのだろうとなんとなく考える。
脱走なんて何度もしたロザリアでも、さすがに2階の窓からの脱走劇なんて初めてだ。
ロザリアがいるも抜け出しているのは、王族だけが知っている抜け道。
だからわざわざ高い場所にある窓から出るなんて危険なルートは通らない。
ジンはロザリアには出来ないだろうと思ったから、こんなに窓側が手薄なのだろう。
見下ろす限りは屋敷の裏手になるらしく、張っている人間も見えなかった。
「…………っ」
緊張から酷く喉が乾いて、ごくりと唾を飲んだ。
失敗して落ちたりなんてしたら、相当痛い…どころか大けが。悪くて命を落とすかもしれない。
でも、建物の構造からか足場になりそうな小さなくぼみや突起は所に見えた。
元々ボコボコした石造りの壁で、さらに古い屋敷によく見られる増改築を繰り返したがための継ぎ目、雨水を通すパイプも、出窓の上に設けられた飾り屋根もある。
(うまく足をかけて行けば降りられそうな……気はする。運動神経は良いほうだし。これしか道は無いわよね)
こうして手で窓の取っ手をゆすっただけでもきしむ音がする。
古くて長い事放置されていたものだから、ずいぶん痛んでいるようで、壊そうと思えば簡単に出来そうだった。
何か窓を壊すためのものをと室内を見回して、足にまとわりつく薄紫の生地に気づく。
「…緊急事態だし、お行儀の悪さに文句は言わせないわっ」
思い切って下に履いていた3重のパニエを脱ぐと、思った通りボリュームは減って歩きやすくなった。
けれどもちろん長さは変わらない。
壁を伝い降りるのは難しいだろう。
薄紫色の裾を捲し上げて左右を結んでみたけれど、素材がなめらかすぎて大きく動くとすぐに解けてしまう。
せっかくの贈り物を駄目にするのは心が痛んだものの、結局思いっきり引っ張って脹脛程度の長さまで割き切った。
「靴も…」
夜会用の歩きにくい靴で壁を伝うなんて、絶対に出来ない。
これもセインがドレスに合わせて贈ってくれたものだけど、ここに置いていこう。
出来ればあとで回収できればいいな。なんて、小さな希望を抱きながらロザリアは靴を脱いでそろえた。
******************
「いっ……」
最後の最後でうっかり足を踏み外し、思いっきり尻もちをついてしまった。
上を見ると何とか開けられた窓と、必死の思いで這い降りてきたデコボコの石造りの壁。
暗い闇夜に輝く月。
淡く照らされた土の上で周囲を見回すと、うっそうと茂った林がある。
それが、今のロザリアからみえる全ての景色。
「正面に回るより、林を抜けて迂回する方が逃げ切れる確率は高いような気がする。でも迷って遭難しそう…」
そもそもここが何処なのかさえ分からない。
とにかく隠れる場所に行かなければと、ロザリアは立ち上がって裾についた砂を払った。
「おいおい、これ例の王女様じゃねぇ?!」
後ろから声を掛けられ、文字通り飛び上がった。
おそるおそる振り返ると、3人の男がこちらへと寄ってくるところだ。
両頬をぱちんと軽くはたいて、ロザリアは声をあげた。
もっとも場所が場所だから、見つからないように小さな声だったけれど。
土埃の立つ床から立ち上がると深呼吸をして、手のひらを見る。
握って開いて、握って開いて。
どうしても小刻みに震えてしまう手を動かして落ち着こうと自分に言い聞かせた。
(ジンについては後で思いっきり落ち込むことにしよう。今は、だめ。動かないと)
立ち直ったわけでも、もちろん吹っ切れたわけでもない。
赤い髪の騎士のことを考えると、心臓がずきずき痛む。
知らない場所へ殺すために連れてこられている現状は怖くて寂しくて、足がすくんだ。
それでもここでただ脅えて泣いているだけなんて、絶対してはいけないから。
出来ることを探そうとするくらいのこと、やらなければ。
「とにかく…逃げ道をさがさないと…」
気を抜けばパニックを起こしてしまいそうな頭の中を、深呼吸して落ち着かせながらロザリアは狭い室内をぐるりと見回した。
(窓と、戸、かぁ…。王宮みたいに都合よく抜け道なんてあるはずもないわよね)
外へと出られる出口は2つ。
この2つのうちのどちらから、どうやってか逃げなければならない。
「戸は…無理よね」
落ちこんでめそめそしている数時間の間に、何度か人の気配と小さな話し声を聞いた。
おそらう見張りがいるのだろう、
だったら窓からと思って、ロザリアは閉じられた窓枠へと足を向けた。
ガラスの窓に手をついて、そっと外の様子をうかがってみる。
「……2階くらいかしら…」
どうやら小さく古い屋敷にロザリアは連れてこられたらしい。
地面まではずいぶんな距離があり、けれど3階にあるロザリアの私室よりはずいぶん近いから、おそらく2階くらいにいるのだろうとなんとなく考える。
脱走なんて何度もしたロザリアでも、さすがに2階の窓からの脱走劇なんて初めてだ。
ロザリアがいるも抜け出しているのは、王族だけが知っている抜け道。
だからわざわざ高い場所にある窓から出るなんて危険なルートは通らない。
ジンはロザリアには出来ないだろうと思ったから、こんなに窓側が手薄なのだろう。
見下ろす限りは屋敷の裏手になるらしく、張っている人間も見えなかった。
「…………っ」
緊張から酷く喉が乾いて、ごくりと唾を飲んだ。
失敗して落ちたりなんてしたら、相当痛い…どころか大けが。悪くて命を落とすかもしれない。
でも、建物の構造からか足場になりそうな小さなくぼみや突起は所に見えた。
元々ボコボコした石造りの壁で、さらに古い屋敷によく見られる増改築を繰り返したがための継ぎ目、雨水を通すパイプも、出窓の上に設けられた飾り屋根もある。
(うまく足をかけて行けば降りられそうな……気はする。運動神経は良いほうだし。これしか道は無いわよね)
こうして手で窓の取っ手をゆすっただけでもきしむ音がする。
古くて長い事放置されていたものだから、ずいぶん痛んでいるようで、壊そうと思えば簡単に出来そうだった。
何か窓を壊すためのものをと室内を見回して、足にまとわりつく薄紫の生地に気づく。
「…緊急事態だし、お行儀の悪さに文句は言わせないわっ」
思い切って下に履いていた3重のパニエを脱ぐと、思った通りボリュームは減って歩きやすくなった。
けれどもちろん長さは変わらない。
壁を伝い降りるのは難しいだろう。
薄紫色の裾を捲し上げて左右を結んでみたけれど、素材がなめらかすぎて大きく動くとすぐに解けてしまう。
せっかくの贈り物を駄目にするのは心が痛んだものの、結局思いっきり引っ張って脹脛程度の長さまで割き切った。
「靴も…」
夜会用の歩きにくい靴で壁を伝うなんて、絶対に出来ない。
これもセインがドレスに合わせて贈ってくれたものだけど、ここに置いていこう。
出来ればあとで回収できればいいな。なんて、小さな希望を抱きながらロザリアは靴を脱いでそろえた。
******************
「いっ……」
最後の最後でうっかり足を踏み外し、思いっきり尻もちをついてしまった。
上を見ると何とか開けられた窓と、必死の思いで這い降りてきたデコボコの石造りの壁。
暗い闇夜に輝く月。
淡く照らされた土の上で周囲を見回すと、うっそうと茂った林がある。
それが、今のロザリアからみえる全ての景色。
「正面に回るより、林を抜けて迂回する方が逃げ切れる確率は高いような気がする。でも迷って遭難しそう…」
そもそもここが何処なのかさえ分からない。
とにかく隠れる場所に行かなければと、ロザリアは立ち上がって裾についた砂を払った。
「おいおい、これ例の王女様じゃねぇ?!」
後ろから声を掛けられ、文字通り飛び上がった。
おそるおそる振り返ると、3人の男がこちらへと寄ってくるところだ。
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