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12-②
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(さっそく見つかってるし…!)
泣きそうな気分で後ずさるロザリアに対して、男達は非常に上機嫌だ。
「まじかよ。逃げ出してきたとかか?」
「どんだけじゃじゃ馬なんだよ。へへっ」
つんと鼻に、酒の匂いが香った。
(…そう言えば5年前も、正気を保っている人はほとんどいなかった)
10歳のロザリアが囲まれたのは酒と薬におぼれ前後も分からないような、正気を無くした男たちの中だった。
主犯は一切顔をださなかったし、証拠さえ未だ掴めていないと聞く。
あのときと同じ状況ならば、この人たちもまともでは無いのではと思った。
(それなら…)
足さえおぼつかなく見える男達に、ロザリアは緊張したままソックスしか履いていない足で地を蹴った。
油断していた一番前にいた男の懐に体当たりをし、腰の柄を力任せにひっぱる。
男は虚を突かれて驚きながらも、ロザリアをあっと言う間に振りほどいた。
「っ…!」
勢いよく投げ出されてしまうけれど剣を奪取することには成功した。
「あ、このっ!」
「おい、何やってんだよ」
「だ…だってよぅ」
「ほらお姫様。そろそろ大人しくしてくんないと、痛いことしちゃうぞー」
下卑た笑いを浮かべてにじり寄ってくる男が気持ち悪い。
「なぁ、俺らが捕まえたってこの王女様連れて行けば、褒美もらえんじゃねぇ?」
「マジかよ。そりゃあ逃がせねーわ」
背中を伝う冷や汗を感じながら、ロザリアは手にした剣を両手に構えて対峙する。
奪った剣はいつも見ていた騎士たちが使うものよりも大きく厚いもので、素材の鉄も質が悪いようで酷く重かった。
両手で持ち上げていても気を抜いてしまえば地面へと落してしまいそうだ。
「っ……来ないで。これ以上近づいたら怪我をするわよ」
「ははっ!可愛いなりして勇ましいなぁ」
「俺らを切るつもりなのか。持ち上げるだけで精いっぱいに見えるがな」
生まれたころから全ての物に傅かれ守られてきた王女陛下が、まさか剣を握れるなんて考えもつかなかったのだろう。
こうして実際にロザリアが剣を持って対峙しているのに、馬鹿にするように下品な笑いを浮かべている。
泣いて震えて、あっても弱々しい抵抗程度だと、それが王女なのだと彼らは信じ切っていた。
(……自分より大きい人を相手にする時は、ええっと)
自分たちの想像する深層の令嬢の姿を信じて疑わない。
偏った思考の男たちに一層笑いそうになるけれど、せっかく油断してくれているのだから指摘することもないだろう。
ロザリアは片足を蹴って一番大柄な男の懐に飛び込む。
「なっ…?!」
思いがけない素早さに、男たちは虚をつかれたようで一瞬反応がおくれる。
(力任せにしないこと。姿勢を真っ直ぐ保つこと。足を地からはなさないこと)
「それから、絶対に目を離さないこと」
相手から視線をそらさないように気を付けながら、斜め下から剣を振り上げる。
遠心力に任せてしまえば大きな剣でもそれほど重さは感じなくなり、剣先は弧を描いて突き上げられる。
「っ…!」
男の額からはらりと髪が落ち、次いで赤い筋がこめかみから流れ落ちる。
「っ…いってぇなぁ」
勇敢に立ち向かおうとしたその行為が、ただ相手の神経を逆なでするだけのものだと気づいたのは、持っていた剣を叩き落とされ、腹部に勢いよく当てられた蹴りで身体が後ろへ吹き飛び、床に崩れ落ちてからだ。
背中が壁に叩きつけられ、衝撃で呼吸が一瞬止まった。
「っ…!!」
「んだよっ、大人しくしれてばいいのに!もういい!人を呼べ!!」
「おーい!誰か来てくれ、おーじょ様が逃げ出してんぞぉ!!!」
大きな声で屋敷の方へ叫ばれてしまった。
表情を固めてしまったロザリアを、男たちは楽しそうに指差して笑う。
「ほらほら、すぐに怖いお兄さんたちが来るぞぉ」
「お兄さんとか!おっさんの間違いだろうが!」
「違いねぇ!」
ぎゃはははは!と下品な笑い声が、静かな月夜の空に大きく響く。
ロザリアの足はがくがくと震えていて、今にも崩れ落ちそうだった。
きっと直ぐに屋敷の裏口からぞろぞろと男達が出てきて、ロザリアを捕えに来るのだろう。
こんなに刺激してしまったのだから、今度こそ彼らはロザリアに母と同じことをするのかもしれない。
痛くて苦しくて、泣き叫んでいた声が頭の中によみがえった。
頭の中に鳴り響く悲鳴が怖くて、ロザリアは思わず両手で頭を抱え込んでしまう。
-----------------------っ…!!
何かが聞こえたような気がして、涙目で顔を上げると、屋敷の角を曲がって何か黒い生き物がこちらへと走り寄ってくるところだった。
「んだぁ?」
「…セ、イン?」
馬の嘶きにと共に、細身の男がさっそうとそこから降りてくる。
あまりに突然のことに誰もが呆然と、彼がこちらへとやってく来るのを見守るしかなかった。
ロザリアと男たちの間に割り込んで、腰の剣を抜いて男たちへと対峙した。
「ど、どうして…なんで?寝てなきゃ駄目じゃない」
ロザリアを守るように背中を向けていたのは今頃ベッドの上でうんうん唸って眠っているはずのセインだった。
どれだけ急いできたのだろうか、息は荒く、白いうなじには汗で金色の髪が張り付いている。
細くて儚い印象を受ける人だったのに、思っていた以上に大きな背中がロザリアを怖い男たちから
守ってくれている。
泣きそうな気分で後ずさるロザリアに対して、男達は非常に上機嫌だ。
「まじかよ。逃げ出してきたとかか?」
「どんだけじゃじゃ馬なんだよ。へへっ」
つんと鼻に、酒の匂いが香った。
(…そう言えば5年前も、正気を保っている人はほとんどいなかった)
10歳のロザリアが囲まれたのは酒と薬におぼれ前後も分からないような、正気を無くした男たちの中だった。
主犯は一切顔をださなかったし、証拠さえ未だ掴めていないと聞く。
あのときと同じ状況ならば、この人たちもまともでは無いのではと思った。
(それなら…)
足さえおぼつかなく見える男達に、ロザリアは緊張したままソックスしか履いていない足で地を蹴った。
油断していた一番前にいた男の懐に体当たりをし、腰の柄を力任せにひっぱる。
男は虚を突かれて驚きながらも、ロザリアをあっと言う間に振りほどいた。
「っ…!」
勢いよく投げ出されてしまうけれど剣を奪取することには成功した。
「あ、このっ!」
「おい、何やってんだよ」
「だ…だってよぅ」
「ほらお姫様。そろそろ大人しくしてくんないと、痛いことしちゃうぞー」
下卑た笑いを浮かべてにじり寄ってくる男が気持ち悪い。
「なぁ、俺らが捕まえたってこの王女様連れて行けば、褒美もらえんじゃねぇ?」
「マジかよ。そりゃあ逃がせねーわ」
背中を伝う冷や汗を感じながら、ロザリアは手にした剣を両手に構えて対峙する。
奪った剣はいつも見ていた騎士たちが使うものよりも大きく厚いもので、素材の鉄も質が悪いようで酷く重かった。
両手で持ち上げていても気を抜いてしまえば地面へと落してしまいそうだ。
「っ……来ないで。これ以上近づいたら怪我をするわよ」
「ははっ!可愛いなりして勇ましいなぁ」
「俺らを切るつもりなのか。持ち上げるだけで精いっぱいに見えるがな」
生まれたころから全ての物に傅かれ守られてきた王女陛下が、まさか剣を握れるなんて考えもつかなかったのだろう。
こうして実際にロザリアが剣を持って対峙しているのに、馬鹿にするように下品な笑いを浮かべている。
泣いて震えて、あっても弱々しい抵抗程度だと、それが王女なのだと彼らは信じ切っていた。
(……自分より大きい人を相手にする時は、ええっと)
自分たちの想像する深層の令嬢の姿を信じて疑わない。
偏った思考の男たちに一層笑いそうになるけれど、せっかく油断してくれているのだから指摘することもないだろう。
ロザリアは片足を蹴って一番大柄な男の懐に飛び込む。
「なっ…?!」
思いがけない素早さに、男たちは虚をつかれたようで一瞬反応がおくれる。
(力任せにしないこと。姿勢を真っ直ぐ保つこと。足を地からはなさないこと)
「それから、絶対に目を離さないこと」
相手から視線をそらさないように気を付けながら、斜め下から剣を振り上げる。
遠心力に任せてしまえば大きな剣でもそれほど重さは感じなくなり、剣先は弧を描いて突き上げられる。
「っ…!」
男の額からはらりと髪が落ち、次いで赤い筋がこめかみから流れ落ちる。
「っ…いってぇなぁ」
勇敢に立ち向かおうとしたその行為が、ただ相手の神経を逆なでするだけのものだと気づいたのは、持っていた剣を叩き落とされ、腹部に勢いよく当てられた蹴りで身体が後ろへ吹き飛び、床に崩れ落ちてからだ。
背中が壁に叩きつけられ、衝撃で呼吸が一瞬止まった。
「っ…!!」
「んだよっ、大人しくしれてばいいのに!もういい!人を呼べ!!」
「おーい!誰か来てくれ、おーじょ様が逃げ出してんぞぉ!!!」
大きな声で屋敷の方へ叫ばれてしまった。
表情を固めてしまったロザリアを、男たちは楽しそうに指差して笑う。
「ほらほら、すぐに怖いお兄さんたちが来るぞぉ」
「お兄さんとか!おっさんの間違いだろうが!」
「違いねぇ!」
ぎゃはははは!と下品な笑い声が、静かな月夜の空に大きく響く。
ロザリアの足はがくがくと震えていて、今にも崩れ落ちそうだった。
きっと直ぐに屋敷の裏口からぞろぞろと男達が出てきて、ロザリアを捕えに来るのだろう。
こんなに刺激してしまったのだから、今度こそ彼らはロザリアに母と同じことをするのかもしれない。
痛くて苦しくて、泣き叫んでいた声が頭の中によみがえった。
頭の中に鳴り響く悲鳴が怖くて、ロザリアは思わず両手で頭を抱え込んでしまう。
-----------------------っ…!!
何かが聞こえたような気がして、涙目で顔を上げると、屋敷の角を曲がって何か黒い生き物がこちらへと走り寄ってくるところだった。
「んだぁ?」
「…セ、イン?」
馬の嘶きにと共に、細身の男がさっそうとそこから降りてくる。
あまりに突然のことに誰もが呆然と、彼がこちらへとやってく来るのを見守るしかなかった。
ロザリアと男たちの間に割り込んで、腰の剣を抜いて男たちへと対峙した。
「ど、どうして…なんで?寝てなきゃ駄目じゃない」
ロザリアを守るように背中を向けていたのは今頃ベッドの上でうんうん唸って眠っているはずのセインだった。
どれだけ急いできたのだろうか、息は荒く、白いうなじには汗で金色の髪が張り付いている。
細くて儚い印象を受ける人だったのに、思っていた以上に大きな背中がロザリアを怖い男たちから
守ってくれている。
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