ズルいと言う妹はいませんが、「いいなー」が口ぐせの弟はいます

桧山 紗綺

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1.弟と私の関係

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「いいなー姉さん」

帰って来た私に向かって弟のアレックスがそんなことを言う。
その視線がお土産に持たされたお菓子に向かっているのはいつものこと。

「食べるでしょ?」

「いいの? ありがと!」

目を輝かせて言うものだから私もメイドも口元が緩んでしまう。
末っ子で甘え上手の弟にはなんだかんだみんな甘い。
もちろん私も。
アレックス付きの侍従が入れたお茶を口にしながら今日の出来事を話す。
私がお邪魔していた侯爵家での話や、アレックスの勉強がどこまで進んだのかなど。
日頃他の家族と会わない屋敷で私たち2人は仲のいい方だと思う。
話が終わるころには持って帰ったお菓子はすっかりアレックスのお腹に収まっていたのだった。





◇◇◇





「というわけで私にはズルイ妹がいる人の気持ちはわからなかったわ」

前回のお茶会で話題になった、最近流行っていると聞く姉妹模様の話をすると年の近い友人の中でも特に親しいフィオリアとメルディスには呆れた顔をされた。

「前提からして妹と弟じゃ違うでしょう。
しかもいいなって言われる内容がお土産のお菓子って、可愛いだけだわ」

ウチの妹を見せてあげたいと言うフィオリアだけどその顔は柔らかく笑んでいる。
十個以上離れた妹がわがままな時期に入って大変だと言っていたけれど、まだ他愛ない可愛いものなのはフィオリアから聞いたことがあった。

「巷で流行りの小説みたいな姉妹格差や両親との確執なんてドロドロした要素が全くないじゃない。
ただの仲良し姉弟ね、素敵。
でもそれはジャンルが違うわ」

昨日も会ったメルディスは一瞬だけ浮かべた複雑な思いを微笑みで隠して羨ましいと笑った。



ジャンル……。



「そうね、ウチはそこまでドロドロしてはないわね。
両親は淡泊な関係だし兄は家に帰って来ないし、アレックスは勉強漬けで一緒にいる時間は少ないけれど、会えば会話をするし時間があるときは息抜きにお茶をするわ」

お父様もお母様もお互いの仕事で忙しくて、普段は手紙や執事を挟んだ交流しかしていない。
領地と王都の社交界と距離も離れているし無理もないのだけれど。
お兄様は王太子の側近として城から離れられず、家で会うよりも城やどこかのパーティで見かける方が多いくらい。
それも大抵は殿下の側に控えていて会話も交わさない。
弟のアレックスとは同じ屋敷に住んでいるので顔を合わせる機会は他の人よりは多いけれど、日中は勉強していてあまり部屋から出ない。
私はこうしてお茶会に呼ばれたり、……花嫁修業で婚約者の屋敷で過ごすことが多い。
時間が合えばお茶をすることがあり、夕食も共にするアレックスと一番仲が良くなるのは当然のことだった。

「大体あれって妹がズルイって姉の婚約者まで奪っていく話でしょう?
弟じゃどうやっても違う話になってしまうじゃない」

「ジャンル違いね」

「意味、わかって言ってるのかしら?」

メルディスの言葉を真似して言っただけなのに何故か咎めるような視線を向けられた。
どうしてかしら?



茶会の終わりに「また明日ね」と声を掛けて去って行くメルディスを見送る。

「いいわねえ、未来の義妹が仲の良い子で」

「そうね、メルディスがお嫁に行ったら淋しくなると思うわ」

メルディスがいるから花嫁修業の辛さも嫁いだ後の不安も少し軽減してる。
いなかったらきっと、憂鬱で仕方なかったと思う。





◇◇◇





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