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一年目 ~学園編~
友人の存在
しおりを挟む学園に戻り門を潜ったところで、現実味が蘇ってきた。
このままでいたらあと数か月で学園を退学しなければならない。
けれど、どうにかする方法も浮かばない。
その後は?
行く当ても、頼る相手もない。
住むところは? 働く? どこで?
自分がいかに恵まれた状況で学んでいたのかを思い知る。
どうすれば、何から考えればいいのかわからない。
足元が崩れるような不安が押し寄せる。
動けずぼんやりと校舎の方を見ていると、雨の音に紛れて怒声が聞こえた。
「……っ! おい!!
聞こえてるなら返事くらいしろ!!」
「レ、オン……?」
右手に傘を差し、左手にタオルを持ったレオンがこちらに向かってくる。
「こんな雨の中にいつまでいる気だ!
風邪を引くだけじゃすまないぞ!!」
タオルを被せ、傘を差し掛けてくれる。
驚きに返事ができない俺の腕を掴み、寮に向かって歩き出す。
レオンに引っ張られされるがままになりながら、足を進める。
男二人が入るには小さい傘からはみ出たレオンの肩を見て、レオンの分のタオルが足りないなと考えていた。
寮に入り自室ではなくレオンの部屋に連れてこられる。
タオルを何枚も投げられ、着替えを持ってくるから部屋の鍵を貸せと言われ鍵を渡す。
それまで飲んでろと置かれたカップからは温かそうな湯気が立っていた。
濡れたまま座るのも憚られ、立ったまま飲み物を飲むのも躊躇われてカップから立ち上る湯気で手を温めるに留める。
狭い寮内なのですぐに戻ってきたレオンが俺を見て眉を寄せるが、何も言わず着替えろと言って隣の部屋へ消えた。
気遣いに礼を言うと当然だと返ってくるけれど、誰にでも同じ対応をするわけじゃないのを知っている。
侯爵家での生まれであるレオンは頼まれごとや相談を持ち掛けられることはよくあるが、簡単に引き受けることはしない。
誰も彼に手を差し伸べることをよしとはできない高位貴族だからこその線引きがそこにはあった。
自分がその内側に入っていることに感謝と申し訳なさが湧いて来る。
「で、何があったんだ」
俺が着替えてようやくカップに口を付けたところで、レオンが切り出した。
レイチェルのことや今日のことを彼に話をしたら不快にさせるだろう。
それだけじゃなく、助けてくれと縋ってしまいそうな自分が嫌だ。
話すことは自分を救ってくれと告げるのと同じではないのかと。
そう考えることも自惚れかもしれないが。
話も聞かず一方的に切り捨てられはしないとこれまでの関係から感じていた。
もっとレイチェルと時間を持とうと他の活動を諦めた俺にそれならと資格試験を受けることを勧めてくれた。
本当なら生徒会に入れと言いたかっただろうに俺の選択を尊重した上で提案をしてくれたレオン。
話せば、力になってくれるかもしれない。
だからこそ話すことを躊躇う。
「目、赤いぞ」
「そっか、雨が目に入ったからかな……」
沈黙が落ちる。誠実じゃない答え方かもしれないけれど、どうやって答えたらいいのかわからない。
「今日、どこに行っていたんだ」
「……」
「外出予定より随分と遅い戻りだったが」
「……ああ」
実家に行く予定はなかったからもっと早い時間に戻ってくるつもりだった。
レオンが一緒だったから咎められなかったが、後で注意をされるかもしれないな。
余所事を考えているとレオンから苛立ちが増したのを感じた。
「おい、ちゃんと答えろよ!」
肩を掴まれて怒鳴られる。
こんな態度を取るのも俺のことを気の置けない友人だと思ってくれているからだろう。
けれど今はその心配にどう答えていいのかわからない。
「悪い、レオン……。
心配して、待っててくれてありがとう」
一番言わなきゃいけないことをまだ言っていなかった。
あんな風に待っててくれる人がまだいたことに救われる思いだった。
「そんなことを言ってるんじゃない!」
「ごめん、俺も今混乱してて何を言えばいいのかわからないんだ」
頭がぐちゃぐちゃだ。
婚約解消を告げられたこと。
その前から新しい婚約者候補がいたこと。
自分の知らぬ間に婚約を解消されていたこと。
慰謝料が何も言われずに実家に支払われたこと。
その金がすでに使われていたこと。
実家の皆はずっと俺のことを疎んでいたこと。
それから……。
起こった出来事を浮かべていく度に言いようのない気持ちが湧き上がってきて気持ち悪くなる。
「おい、お前顔真っ青だぞ。
今日は部屋に戻るな、ここで休め」
詰問を諦めたレオンが立ち上がって自分のベッドを指し示す。
「そんなわけには……。 レオンはどうするんだ」
いくら侯爵家とはいえ学園ではそこまで特別扱いはされない。
レオンのこの部屋だって俺よりは広いもののごく普通の一人部屋だ。
「俺はまだやることがあるから気にするな。
とにかくお前は身体を休めろ。
明日も体調が悪いようなら休ませるからな。
風邪引かないようちゃんと髪を拭いてからベッドに入れよ」
「レオンは俺の何なのさ」
温かくしろと次から次に毛布や寝間着を投げてくるレオンに苦笑する。
親じゃあるまいしと頭をよぎった言葉に苦い物がこみ上げてくる。
ああ、そういえばこんな風に看病や心配をされたこともなかったな。
滲みかけた涙を頭を拭くふりで隠す。
渡された寝間着に着替えベッドに横になる。
「じゃあお言葉に甘えるよ。
レオン……。
ごめん、ありがとう……」
それだけ言うと目を閉じる。
自分でも気づかないほど疲れていたのか、すうっと眠りに落ちて行った。
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