【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

桧山 紗綺

文字の大きさ
10 / 97
一年目 ~学園編~

彼の身に起こったこと<クリスティーヌ視点>

しおりを挟む


 ――急いで確かめないと。
 たった今執事から聞いた情報に、急いでお兄様の元へ向かう。
 ノックへの返答を待つのももどかしい。
 応えと同時にドアを開く私を、呆れた顔のお兄様が迎えた。

「お兄様!
 アラン様がここに住むってどういうことですか!」

「なんだ、嫌なのか?」

 口の端を上げた意地悪な顔で問いかけるお兄様。
 そんなわけないってわかってるくせに!

「嫌なわけないでしょう!
 その反対です!」

 お兄様の言葉を全力で否定する。
 アラン様はお兄様以上にお兄様らしいというか、落ち着いていて優しくて成績もよくて。理想の兄と言ったら何人も賛同の声が上がる人だ。
 なんというか良い人、というのがアラン様を表すのに一番適していると思う。
 お兄様を近くで見ているから余計にそう感じてしまうわ。

「お前なんか失礼なこと考えてるだろ」

「そんなこと考えてません」

 失礼なことじゃないわよね、正当な評価よね。

「アラン様がこの家に住むのはとっても嬉しいわ。
 でも、どうして急に?」

 本当に急なことだわ。
 遊びに来ることは今までもあったけれど泊まることはなかったし、『住む』という言葉は不思議に感じる。

「今のアイツを一人にしておけない。
 お前も遠慮しないでどんどん構え」

 お兄様の言い方が引っ掛かる。
 いつもなら邪魔するなと言うくらいなのに、構えなんて。

「アラン様に何があったのか、聞いてもいい?」

 お兄様の言葉から何かあったのは理解できる。
  一人にしておきたくないというのならいくらだって協力するわ。
 だけど、アラン様に何が起こったのか知っておかないとあの方の望まないことをしてしまうかもしれない。
 お兄様がそこまで他人の事情に踏み込むなら相応の理由があったはず。
 いくらアラン様を気に入っていたとしても決して線引きを間違う人ではない。
 だから余程危うい状況だったのでしょう。

「婚約を解消された」

「……誰がです」

 予想のできなかった言葉に思わず変なことを聞いてしまった。

「アイツの話をしてるんだろ」

 馬鹿にするような顔をするお兄様だけど、それに怒るよりも聞いた内容への衝撃の方が大きかった。

「アラン様が!?
 何故?!」

 だってついこの前だってあんな難関資格を取得して、婿がねとしての価値が更に上がった人よ?
 そんな人と婚約を解消する?!
 意味が分からない。
 性格だって難があることもないし、そんなの幼い頃から一緒に育ってきている男爵令嬢の方が知っているはずでしょう!?

「どうして!
 ありえないでしょう!?」

「馬鹿の思考を考えるな。
 自分まで馬鹿になるぞ」

 身を乗り出して驚きの声を上げる私へお兄様が身もふたもないことを言う。

「だって意味がわからなすぎませんか!?
 あのアラン様ですよ!?」

 私の友人にだってアラン様の話は届いている。
 学園に通う兄姉がいる方はお兄様と友人になったアラン様が一目置かれていることを知っている。
 一部の友人からは婚約者がいなければ自身の婚約者候補に入れたかったのにと残念がる声も聞いたことがある。
 冗談めかしていたけれど、全く考えにないことは口には上らない。
 普通に考えたらアラン様が婚約を解消されるなんてありえないことだった。

理由そんなことはどうでもいい。
 問題は婚約を解消されたことによって、アイツの面倒を見る理由が男爵家になくなったことだ」

 感情を抑えた声で話を続けるお兄様。
 その内側に激しい怒りが渦巻いているのが私にはわかった。

「それで……?」

「学費が払えないから退学するしかないと言っていた」

 ――退学。
 重い言葉に胸がざわりとする。
 あんなに成績優秀で努力家な方が?

「……でも、婚約解消になれば慰謝料は出ますよね?」

 それがあれば学園を卒業するくらい容易いと思うのです。なにせ幼き頃より長きにわたる婚約。アラン様に非があったとは考えられませんし、相手の事情によるものであればかなりの金額が支払われたのではないでしょうか。
 私の疑問に、お兄様から発せられる怒りの気配が増した。

「慰謝料はアイツの実家に支払い済みで、その実家は借金の返済やアイツの弟妹への教育費などで使い切ったとさ」

「な、んですって……?」

 くら、とめまいのような怒りを感じた。
 アラン様が婚約をして男爵家で暮らし始めたのはまだ十にも満たない頃だと聞いている。
 それだけ長い間共に過ごし育ちながら簡単に婚約を破棄したこともそうだし、アラン様に何も残さなかったなんて。
 そんな情のないことがどうしてできるのか理解不能でした。

「薄情な男爵家は元より親すら頼れず学園も退学しなければいけない。
 信じられるか? 親に平民になって自由に生きろとまで言われたんだぞ?
 幼い頃から家のための婚約で不自由を強いておきながらな」

 お兄様の声は淡々としているからこそ恐ろしかった。

「だから、休学して俺の下で働いてもらうことにした」

 男爵家からも実家の子爵家からも縁が切られたアラン様。その気持ちを思うと胸が苦しくなる。
 お兄様が手を出した理由も頷けた。

「それで……」

「ああ、しばらくしたら領地に行かせるつもりだ。
 この屋敷で働かせるよりも、向こうで実務を学ばせた方がアイツのためになるからな」

 ずっとはいないと聞かされ残念な気持ちになる。

「どうせお前も来年は学園に入学して側にはいられない。
 環境を変えたら気分転換になるだろう。
 それまでせいぜい構い倒してやれ」

 お兄様が心配するのも当然だわ。
 長年の婚約者の家と縁が切れただけじゃない、アラン様の将来を慮るでもなく実家への賠償で済ませる。
 なんて非道なことをするのでしょう。
 しかも話の流れからいってアラン様には知らせずに行われたということでしょう?
 知っていたらせめて自分の将来に関わる学費や寮費などは分けて払ってもらえないかと交渉したでしょうから。

 それにしても実家も実家です。
 本来なら嫡男になるはずの長男を他家に出しながら、それが破談になった慰謝料を自分たちで使い込むですって?
 裕福な男爵家から援助を受けることと引き換えにアラン様を婚約者に差し出したのは有名な話です。
 アラン様の優秀さと共に、先見の明があったと男爵家を称えたり羨んだりする声は広く聞こえていましたから。
 幼い頃から男爵家に預け、家族として過ごした時間が短かったとはいえ、まともに人としての感性があったら到底できることではありません。
 それに、除籍なんて。
 アラン様の婚約により得た援助で助けてもらいながらアラン様が窮しているときには手を振り払う。
 なんて酷いんでしょう。

「私、全力でアラン様を構いますわ」

 心だけでなく口に出して誓います。
 そんな辛いことがあったのに私の入学祝いまて用意してくれて。接していても全然わかりませんでした。
 家族になるはずだった人や進む道を失った悲しみはあるはずなのに。

「丁度学園に入学する前の予習をしたかったので全部アラン様にお願いします。
 私が学園に入るまでは領地には向かわせないでくださいね?」

「それは父上の意向次第だが、俺からも言い添えておこう」

 お父様の意向次第とは言いましたけれど、学園に入学するまでの短い間のことでしたら要望は通るでしょう。
 明日からの予定をできるだけアラン様といられるように組み替えないと。
 勉強を教えてもらうと言えば侍女も反対はしないと思います。むしろ喜んで場を設けてくれるのではないでしょうか。
 私は学ぶのが嫌いなわけではありませんよ?
 でも机に向かってばかりいられるほど勉強好きでもないので、多くの時間を勉強に費やすと言えば驚き喜ぶことでしょう。
 お兄様の意向にもちゃんと気づいています。
 私をアラン様の側に置くことでアラン様の気を逸らせたいのと、私の友人などに噂が回るのを避けたいのでしょうね。
 言うなと一言いえば済むのに、回りくどい方法を使うんだから。
 試されてるみたいで疲れるわ。
 やっぱりアラン様のような優しいお兄様だったら、と思ってしまうのは仕方のないことよね。
 何はともあれ、私は入学までの目標をアラン様に一通り勉強を教えてもらうことと、学園の話を教えてもらうことに決めた。
 少しでも気が紛れるのであれば、勉強も全力で教わるわ。
 入学前に不安だから教えてほしいと願えば親身に教えてくれるはずです。アラン様は優しいから。
 誰かさんと違って。
 口には出さない思考をどう読み取ったのか、威圧を含んだ笑みを向けるお兄様に笑顔で誤魔化した。


しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

処理中です...